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205 汝がニセモノ歯医者であることは承知しておる


「カミーラ、カミーラ」

「なんだ。まさかお前」

 段々サラージュ城が近づいてくる。もちろん洋次がレンタルしている尖塔にも。

 そして、カミーラと再会できる距離が縮まるのと比例して穴ボコが目立ち齧られた痕跡が痛々しくなっている。そんな緊迫した場面で。


「あの〝育ちの良い〟メイド目当てだと思ったら。そう簡単に許さんぞ」

「許すもなにもないでしょう。急がないとカミーラたちが危ない」

 ちらっと振り返って飛行している北風の精霊、バンシーにお願い。


「バンシー。もっと強風でイジの背中を」

 ぐぁしん。洋次の頭部に衝撃波。


「だーーからーー。私じゃなくて、イジだよーー」

「ふん、だ」

「あのなぁ」

「それは儂も言いたいぞ」

 この切迫した状況でナニを語る、レーム老人。


「カミーラたちとは何事だ。令嬢を呼び捨てにした挙句、〝も〟とはなんだ。令嬢とメイドを一緒に我が物にする予定だったのか、稀人」

「レームさん、サラージュの荒廃の危機を妙な色恋問題にしないでください。あ!」

 後頭部を押さえながらナンシーに注意する。


「バンシー。私はサラージュの稀人で、カミーラはご主人様だから、イケない妄想は止めなさい」

「ふん」

 普通北風と来ればカミソリみたいな肌寒い強風だ。でもバンシーは、低温だけどそよ風を送る。つまりサボっているんだ。


「もぉ。イジ、君だけが頼りだよ。サラージュ城に着いたら、倒れて動かないシロアリ人は食べていいから」

「んくうくうくう」

「話しをはぐらかせよって」

 ぺしっ。エアチョップ。


「行きますからね」

 イジの肩乗りの洋次はサラージュ城に帰還する。



「り、りりりりり?」

「竜、あるいはドラゴンだな」

 サラージュの稀人は洋次だけじゃない。だからレームなどの大人は多少の異世界語を知っている。多少いい加減であやふやだけど。だからドラゴンとか竜の単語も知っている範囲内だった。


「しっかし、今時どこの竜だ? この近隣には、ああ。モクムにはいたが」

 モクムはヴァン殿下の本拠地だけど、今回の動員には間に合ってないはずだ。


『早うここに。板橋洋次、稀人』

「竜って喋るんだ?」

『無駄口を叩く暇があるならば、ちこう寄れ』

「はい。でも?」

 洋次はイジに肩乗りしているから、ゆっくりと降りなければならない。だけどどうしたことだろう。


「んおおおろろろす」

 まるでリモコン操作でもされているようにイジは掌を肩口に。面積が畳単位のイジの手乗りにチェンジして下降接地する。


「あの?」

 トンでもない遠距離から誰かの声は聞こえていた。そして視覚に取れえた声の主が、ドラゴンだと理解した。でも普通はそこまでだ。


 なんで竜だかドラゴンがいて、仕切っているのか?

 メアリーは立場的には上位者じゃないけど、カミーラを跪かせるドラゴンって何だ、何者だ?

 んで、どうして喋るドラゴンは初対面の洋次のフルネームや稀人の立場を知っているのか。


 疑問符の団体さんがザッザッと行進しているけど、やっぱり何だかわからないのが結論だ。


『さて。やっと〝役者が揃った〟な』

「やく?」

 中世風。まだ職業役者が確立していないオルキアでは、通じない慣用句だ。となると、このドラゴン相当異世界、チキュウに詳しいらしい。


『では、小さな医者。モンスターの歯医者さんよ』

「はい」

『汝がニセモノ歯医者であることは承知しておる』

「た、確かにその通りです」

 洋次がバナト大陸のオルキア王国に転移して一シーズンくらい。実体は十六歳の高校生で資格を持った歯医者でもないし、医学生としての知識もない。ニセモノと断言されてもそれは正しい。

 唯、オルキアの医学の遅れどころか歯に関係する意識認識の低さが高校生の知識でも役に立っている過酷な事実があるのだ。


『ニセモノでも真実でも。汝が数多くのモンスターと家畜を世話したは事実。認めよう」

「はい」

『そこで、だ』

 問い詰めると何時、どうやってサラージュ城内に出現して、偉そうに仕切っている竜に何故か名指しされている。


『もう対面済みだろが、この二名に言いたき事柄があれば、再度申せ』

「あ、あの?」

 ダレなんだ、このドラゴン。疑問符だらけの洋次の背中に柔らかくて温かい感触が伝わる。


「エンシェントドラゴンの竜王陛下の御前です。洋次」

 柔らかくて温かい感触はエルフメイドのメアリーが耳打ちのために接近したから。


「竜王?」

 洋次のイメージだと竜王って将棋かボスモンスターなんだ。でも、メアリーどころかカミーラも低姿勢な竜。竜王ってダレなんだろう。


「誰にも支配使役されない唯一の完全なドラゴンです」

 ああ。温かい。

 じゃなくて、最低限の情報入手と納得をする。


『泥縄の勉強はそろそろいいか? サラージュのあるじに、テミータの重鎮に汝の言葉で伝えよ。

これより、如何なる行動をするか、と』

「ああ」

 それは洋次がサラージュに存在する目的と価値でもある。


「私は未熟者ながらもモンスターの歯医者さんを名乗り、少々の治療を実施しています。これまでもこれからも」

「「「!」」」

『ほほぅ』

 ひと呼吸する。


「ですから、治療を希望されるなら、何方でも受け付け」

 この次のシーンはもう予想通りだろう。


「この余所者がーーー」

『ぬ』

 主君テミータ公王との一騎打ちには躊躇ためらっていたベティメ。でも、相手が異世界人の洋次なら別腹だったらしい。


「「洋次」」

 マラム守備隊の分派から強制貸与していた長槍の矛先が二本とも洋次を捉える。


「このーーー諸悪の根源が」

 難しい言葉知ってるね、シロアリ人のくせに。ま、一応貴族だから。


「ベティメ、あんた」

 洋次は、バトルの後半は巨人イジの怪力に頼っていて、もう護身刀すら手放していた。それは、突き詰めれば平和ボケな日本人の感覚が抜けていなかったのだろう。


「くわ」

 平和ボケしていても、ギリギリ二本槍は回避した。

「こいつ」

 長槍は弓矢じゃない。初撃をかわしたって攻撃は事実上エンドレスだ。


「この」

「死ね。余所……」

 素手の洋次はとっさにガード、両手を前に揃えたけど、それって槍衾をどうこうする能力ないし。



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