194 どんな結末でも
『どうやら、それがサラージュの答えのようだな』
「竜。竜様ですか。未熟な私ですけど、命懸けで助けて支持してくれる人がいます」
『そのようだな』
「え? それは」
西洋ドラゴンだと首長で下膨れ。でもこのプラチナ色の竜は自立する足は携えているけど長々身の東アジアタイプの〝竜型〟。
その竜は顎下を繰り返して爪を立てて引っ掻いている。
『うむ。これは〝逆鱗〟。余はこの逆鱗が汚れるのを好まぬ』
そうですか。
『さて。テミータ公王に逆らった公国閣僚のベティメはもう抵抗叶わぬ』
どうも古臭い言葉使いだ。
古代竜だから仕方ないけど。
『ベティメをどうする。稀人』
「それは。姫様、メアリー。それからバンシー」
シロアリボールならぬ、羨ましい美少女の密着を解体させる。
「私個人は診察するだけです」
未熟で真実の歯医者ではないと自白したばかりだけど。
「サラージュの被害は」
気持ち頭を下げてカミーラに拝礼の姿勢をとる。
「洋次と竜様にお任せ致します」
返答と同時にドレスの裾を摘んで竜にお辞儀をするカミーラ。家令補佐兼任メイドのメアリーと美少女な北風の精霊に急成長したバンシーも倣う。
『だ、そうだが。稀人』
「でしたら」
迷いはない。
「これからシロアリ人、テミータ公国民に限らないで診療します。家の壁とか囓って歯を痛めたシロアリ人がたくさんいると思いますから」
『そうか』
ゆっくりとサラージュ城一帯を俯瞰する竜。
『だがまだ諍いの火種は燻っている模様だし、其方の判決に不服の余人がいるのだが』
「その通りです」
竜の面前で跪いていた、もう一方の高位のテミータ。公王ティネリ。
「テミータの不始末はテミータで処理。それがエンシェントドラゴン閣下と稀人のお言葉なら」
ならどうする。
ティネリはすっと立ち上がると、凝結しているベティメに体当り。
「全ては余の不徳。汝の野心。さらばだベティメ」
がしゃん。
シロアリ人の王、テミータ公王は配下でも相当な上位者である準男爵に牙を立てた。
「待ってください」
洋次は稀人。モンスターの歯医者さんだ。だから要請があれば未熟でも診察するのが仕事。シロアリの王位継承とかは、別次元の問題なんだ。
『待て。公王の選んだ結果を邪魔だてするな、青き稀人よ』
ぬっ。洋次の胴回りを掴む巨体。竜の手だ。
「このひと噛みで」
人間の首だって切断できそうなデカ口で牙を広げる公王ティネリ。
「ああ」
カチカチの冷凍シロアリは氷と一緒に粉々に地面に分散される。
「ちょ、ちょっと」
「良いのです。これで」
ベティメは凍ったままだから、悲鳴や断末魔の叫びはない。その分、もしかしたら丁寧にくっつけたら復活する可能性がゼロじゃない。
「〝我らは地の勢力。先に地に帰れ〟。ベティメ」
テミータは、シロアリ人の極一部らしい。で、どうしてシロアリを拡大化したら人語が喋れるようになるのかなんてのを含めて謎だらけだ。
でも。
「焼き払え炎」
でもシロアリ人が喋れる。いわばファンタジーな設定は、そのまま呪文の詠唱も可能にする。
「公王」
冷凍生物を解凍すれば元通りの期待は一瞬で溶けて流れた。
『どんな結末でも認めるのだ。青き稀人よ』
少しだけ腰を浮かしてティネリ公王を静止しようとしていた洋次の機先を制した竜。エンシェントドラゴン。
『其方を覆い尽くしたのがサラージュの結論ならば、ベティメを滅ぼしたのがテミータの結論なのだ』
「でも」
「稀人。貴殿の生命と名誉を脅かしサラージュを傷つけた我が臣下にすら配る配慮。感謝する」
一度。
テミータ公王は直立して、ポキリと折れるような直角のお辞儀を返す。




