19 まさかの再会
マズイ。こんな場面でKYに腹の虫が鳴ってしまった。
「うむ。まずは餌であるな。おい」
その一言でやっと土下座の御者が立ち上がる。そして、彼はさっきまで下に置いていた洋次と目線を合わせないように顎を引いている。
「いつもの店。たしか、そうそう、サラージュの町に一軒しかない『ニコの店』で餌を買って参れ」
ポケットから一枚光るモノを放り投げる。色合いとこのセカイ、時代にはニッケル硬貨はなさそうだから、銀貨を投げたんだろう。
「御意」
御者は素早く馬車馬の一頭の牽引をハズした。そして、そのままサラージュの町に駆ける。
「軽い食事くらい持参せよと申したいのか?」
御者を乗せた馬影が視界から消えた頃合に、ハッタと呼ぶと怒る貴族の子供が喋りだした。
「いや」
餌をツッコムべきなんだろうか。
「気にするでない。これも〝じもとこうけん〟なるぞ」
「でも、次期伯爵様は」
「ああ、そなたはまれびとだから特別に余をヴァンと呼んでも苦しゅうないぞ」
「ヴァンは、隣の領地の人だろ。それがどうして地元貢献なんだ?」
あ、笑ったな。ヴァンって次期伯爵殿下の身体が上下に揺れた。
「説明せねばわかるまいな。それはそう遠くない将来サラージュも我が領土となる故だ」
ナゼ?
「つまり」
「そこで照れながら口ごもるなよ」
子供だから。地球の白人に似た人種だからなのか、ヴァンの顔が熟れたトマトになる。つい握り潰してやろうかって考えてしまうんだ。
「カミーラと余が結婚すればモクムとサラージュは共同領になる」
「ああ、そりゃ壮大な人生設計だな。ちなみにヴァンは何歳なんだよ」
身内の子供とか弟妹がいないと子供の年齢も当てずっぽうになる。洋次の推定だとヴァンは七、八歳だ。
「余は来月で九歳になるぞ。もうそろそろ」
コイツ、自分から汁でも垂らしそうなくらい熟れてやがる。
「側室と色々あっても然るべき年頃なのだ」
「あーーー。つまり、メアリーとねぇ。で、メアリーと、そして正妻のカミーラとは年の差、幾つなんだよ」
「これ、まれびと」
「刀を振り回すなと何度も警告しているんだがなぁ」
「女子の年齢をあれこれ詮索してはならぬぞ。だが、将来の夫や主人たる余は構わぬからな。メアリーは十五歳、カミーラは十二歳になる」
「どっちにしても年上じゃないか」
それに、成人の儀式でもヴァン、あるいはハッタの名前は欠片も耳にしていない。もしかして、でも当たり前にワルキュラ家では、相手にしていないんじゃないのか。
「それは問題ない。貴族の婚姻は十二十の年の差など珍しくもない。しかし、あやつ遅いな」
チラリと町の方向を気にしたヴァン。どうやら買い出しに行かせた御者の帰りが遅いと言い出したらしい。全く人と話していても、このヴァンってガキはやっぱりガキなんだなと思わずにはいられない。自己中なんだ。
「苛ついているなら、なんで馬車で一緒に町まで行かないんだ?」
「それはな、色々と事情があるのだ。余は貴族。公式に他領を日参するのは、好ましくないと考える人がいらっしゃるのだ。やむを得ない」
「へぇ」
ガキの行動にクギを刺す。その人物をいらっしゃると敬称した。
「おおっやっと参ったぞ」
騎馬と、少し小型の影。
しまった、さっきヴァンはニコに食べ物の注文を命じていたんだ。
「御者が食べ物を小脇にしてると思ったのに」
コソコソコソ。下手くそな忍び足で移動していた。
「おいまれびと、なぜ馬車に隠れる」
「その、ヴァン様お頼みします。ニコさんやお嬢さんのアンとは、ちょっとワケアリで」
「ふむ。まれびとも年頃。同じ男子としてワケありならば知らぬ存ぜぬをしてやろう」
「すんません」




