187 エンシェントドラゴンって敵ですか味方?
「分隊長。エンシェントドラゴンって敵ですか味方?」
それは大問題だ。絶滅したと考えられていたエンシェントドラゴンの命令一下。地の精霊が子供のように従順に下知。命令を実行した。
「知らぬ」
「どーすんです?」
「知らぬ」
エンシェントドラゴンに一個分隊で攻撃しても秒殺は間違いない。逃げるにしても、何時何処から登場したのかも不明なほど高速移動するドラゴン。戦闘も逃亡も不可能だと結論して、全てのオチをドラゴンに任せるしかない。
「もうなるようになれ」
どうにもならないバイアの分隊だった。
『歯向かいたければ暴れるがよいぞ。但し友を巻き添えにするなよ』
エンシェントドラゴンが進めば、数匹がぺしゃんこに潰され、細身の胴体ですらシロアリ人を弾き飛ばしている。
どっち派など、このプラチナ色のエンシェントドラゴンには関係がないらしい。
「ああ。まるで悪戯したガキが引き出されたみたいですぜ、分隊長」
地の精霊は、ドラゴンの言いなりだ。
「何故なにゆえに?」
爵位どころか半自治権を付与されたテミータ公王とトップレベルの重臣が連行されている。どんだけスゴいんだ、エンシェントドラゴン。
「えええ、エンシェントさ、さまああ」
握力で胴体が潰されているのだろうか、ベティメは上下に左右にもがいてもがいてドラゴンの手から必死の脱出を試みている。
『うむ。揃いも揃って』
「お、お、お」
エンシェントドラゴンの足元に並んだ二人のシロアリ人。
「分隊長」
「ああ。公王が跪かせるなど、普通の竜、ドラゴンなら有り得ないが」
「でもあれは間違いなくエンシェント」
すっ。口を挟むエルフを制するバイア分隊長、階級は中尉。
「これから、どうする予定なのだ。エンシェントドラゴン閣下は」
バイアが代弁した、現在サラージュにいるほとんどの住民の疑問。
それはスグ判明する。
『ティネリ。失態だな。そう思わぬか、ベティメ』
「は」
テミータ公王もベティメ準男爵も強大なエンシェントドラゴンに跪いて胸に手を添える、拝礼のポーズをとっている。つまり、公爵、公王に、そんなことさせるくらいエラいらしい。
『主らテミータが王位を争うのは勝手だが』
エンシェントドラゴンは、テミータ公王やベティメ準男爵を皮切りに、辺り一面のシロアリ人を睥睨。威嚇し威圧しながらゆっくりと舐め回し観察した。
『サラージュに如何なる咎がある? 見よ、この惨状を』
「確かにな」
これまでは全力前進即バトルで調査するシマもなかった。
『多くの家々は無法にも齧られ、長年丹精を込めた畑に穴穿たれ』
「しかし、竜王陛下」
「竜王?」
とあるシロアリの反論に、マラム城塞守備隊所属のバイアは眉を波立たせた。
「そんな称号、もうとっくに廃止してる」
竜王を名乗る資格があると判断されていエンシェントドラゴンが目撃されたことすら百年単位で途絶していた。
『りゅ・う・おう・か。もう配下臣下たる竜は金持ちの飼い犬同然。虚しい呼び名であることよ。どうしても名で呼びたければ〝りゅう〟と呼ぶが良い』
「大雑把だな」
対エンシェントドラゴンの戦力差のせいか。諦めモードのバイアが一言。
「〝りゅう〟様。今回の争いは〝はいしゃ〟なる輩の引き起こしたもの故」
『モンスターの歯医者さん。であるな。それならば、何故歯医者以外の無関係なるサラージュの住民を巻き込む』
なら反論しなきゃいいのに。
口答えしたシロアリ人は、悲鳴を漏らしながら地に這いつくばった。
「はいしゃ?」
「なんだそれは?」
洋次が製作したミキサーを高評価していても、ネイティブなオルキア人なバイアたちはまだ歯科医の存在は知らないのだ。
『モンスターの歯医者さんならば、破壊活動が収まればサラージュ城に戻ろう。その前に』
「……」萎縮しているのか固まっているベティメ。
「私にでしょうか」少しだけ顔を上げたテミータ公王ティネリ。
『さてやや遠方で無駄話にうつつを抜かす、喋る小石よ』
竜と目が合ってしまったバイア。
「こ、小石?」
射抜かれた。もう『りゅう』の射程に踏み込んでいて逃げられやしない。それくらいバイアは全身ガクブルしていた。
言葉だけは平静を装っていたけど。
『小石。貴様の獲物を貸せ。そう、ハンディなしで長槍を二本』
「ご、ぎ、ご、御意」
悪ふざけや遊んでいるわけではない。数倍の体格差がある竜に射すくめられたのだ。唇が舌がコントロールできていない。
エルフ見習い兵の長槍を当番兵に預けて竜の元に運搬させる。
『選べ。どちらも木の枝と大差ない』
選べ。
選ぶのは今運んだ長槍だろうけど、誰が選ぶのか。
『選べ、ティネリ。そしてベティメ』
「まさか」
自分を竜と呼ばせるエンシェントドラゴンは、テミータ公王と閣僚のベティメ準男爵の一対一決闘を命じたのだ。




