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186 そして、結末は近い


「レーム師匠」

 蛇のようにくねくねに折れ曲がった護身刀を振り回している洋次。


「なんだ。ぬしの指導をした覚えはないぞ」

 それは敬称だってば。


「東の、お城の方から聞こえませんか?」

「ああ。噂で耳にした、あれだ。うろ覚えだが、まるで異世界の拡声器を使ったみたいに届いたな」

 食べないで撃退数を稼げ。そう命じられたフンババ族の巨人イジは、草原をかき分けるようにシロアリ人を撫で払っている。


「『我が手に集え』そんなセリフでした」

 もう鉄棒の役割も果たせないほど疲労している刀。眉間に直撃をしてもシロアリ人は、よろめきもしなくなっている。


「だが、それはどうなんだ」

「どうって、どうなんです?」

 だからナニ言ってんの、二人とも。


「シロアリ地獄が終了するなら、この際なんでもいいぞ」

「それは同感です。でも」

 元々チームモンスターの歯医者さんが主導権を握ってシロアリたちを迎い入れる作戦だった。


「無事かな」

「お前、まさか姫様にもしもがあったら許さんぞ」

「んがががひひひひめめめめ」

 さすが神の眷属の末裔。

 イジにとっては等身大シロアリの攻撃がぺんぺん草が風に揺れるくらい。びくともしない。


「いえ私が無事かって心配したのは取締官で」

「あんなヤツはいい。姫様だ」

 イジの肩に載っている分、洋次よりは安全っぽいご老人は、とてもお怒りだ。


「そうなんですよね。でも、この事態は取締官の作戦でして」

「あのノッポの役人か? で、あのノッポは生きているのか?」

「さて」

 ごつん。とうとうシロアリ人と素手格闘に突入している洋次の頭上に落下物。


「あ痛て」

 持ち主が多分死んでいるからか、偶々手に持っていたコチコチの触角をレームが投げつけたのだ。


「お前たち。どんな作戦をしたんだ?」

「ええっと。その」

 そろそろ集結に繋がる妙案を具体的に示してくれないと困る。

 ここに来て、洋次は不安に苛まれる。



 エンシェントドラゴンが、サラージュの隅から隅まで突き抜けるような声を発した。

 そして、少しの時間経過。


『来たれ──』

 エンシェントドラゴンの何度目かの呼びかけで、地面が僅かに光る。


「あれは?」

「なんだ見習い兵」

 エルフの一人だ。

「地の精霊だ、と思います」

「思う? ナゼだ。俺にはなんだかナニも見えないが」

 バイアの直属当番兵が首を傾げる。まだ長槍を拾っていないんだけど、あんた。


 ぎろり。バイア分隊のヒソヒソ声が届いたか。射抜くような視線が分隊を襲う。


『汝ら。見えぬか。異世界から迷い込んだ小僧の瞳には明瞭に見えていたぞ。それを原住民が気配も感じぬとは、恥を知れ』

「そう言われても」

 ずん。天幕を傷つけてしまいそうな大型のドラゴンは、でも意外なほど無音に近い足音の持ち主だったし、地響きもない。

 ゆっくりとでも影が重なって逃げなかったシロアリ人たちを踏み固めながら前進する。


『さあ。我が膝下に』

「地面が」

 さすがに精霊と波長が合わないなどで視覚として捉えられない兵士たちでも地面が光ったのは確認した。

 そして、まるで空気か風のように地面からふわふわと浮かぶ。土精霊とその下僕たちが登場した。


「//ひいい//」「ややや」「////ぴきき////」

 人語、テミータ語とが交差混乱する状況で、土精霊たちがドラゴンに運んだもの。


「あれは、まさか!」

 くどいけどバイアは貴族だ。だから衣服の装飾や帯留めなどに刻印された紋章、そして現状などから、土精霊たちが、誰をどうして地下から浮き上がらせたのかを理解した。


「テミータ公王陛下。それにベティメ準男爵」

 テミータ公王はそのまま。ベティメはマジ、反公王派の旗頭。

 いわば今回、現在進行形の世界大戦レベルのバトルの元凶が、あっさりと捕獲されドラゴンの面前に連行されてしまったのだ。


「やはり古代神竜」

 そして、結末は近い。



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