185 頃合かな
『うむ。頃合かな』
「どんな頃合ですか?」
オルキア王国とか王国軍を連呼多用している。中世風の王国だから、貴族と平民との格差は歴然としている。その身分社会の現実を洋次が重要視しなかったのは稀人がみなし貴族で差別などを実感しなかったからだ。
だけど。
「随分進軍しました。撤退の」
撤退の頃合なら、とっくに失っているとバイア中尉は古代神竜に一言具申したかった。少数兵でさすがに踏み込みすぎていたのだ。
『お前は飼い殺されていない自由な竜を知らぬ様子だな』
そりゃエンシェントドラゴンなんて絶滅したと思われていたんだから仕方がない。
『お前は赤竜の灯火程度をドラゴンの全力と思うているだろう」
思っているじゃなくて〝おもうている〟。エンシェントの名に恥じず古臭いんだ、この喋る竜。
『そろそろ勿体ぶらず披露するしかなさそうだな』
是非の言葉をマラム守備隊の面々は飲み込んでいた。これまで正規軍人である彼ら──エルフの見習い兵はどうだろう?──だけど、エンシェントドラゴンの可能性大なドラゴンの本気なんて知らない。
松明程度のブレスを数秒発射するのが、この当時のドラゴンの実力だったし、全長も三メートル以上を誇る巨体は極小数なんだ。
それが、前触れなく五メートル以上の、上目線で会話する竜なんて。
『暫し待て』
「逆鱗?」
逆鱗は幸いに異世界バナトでも共通らしい。
エンシェントドラゴンっぽい巨大ドラゴンは顎下を自分の手の甲でマッサージ。それはまるで襟を整えるような仕草だった。
「見繕い?」
エンシェントっぽいドラゴンの一挙手一投足を注目しているマラム派遣隊とカンコーの義勇兵にシロアリ人たち。
『我が手に集え、地の精霊たちよ』
高々と天空を突き刺すドラゴンの手。
『そして命ずる。この愚かな祭りの元凶を我が許に案内致せ』
「そんな。言っただけで事が住めば」
命令一下で全てが完結したら世の中、扮装もケイサツも要らない。
それが常識だろう。
マラム部隊に限らず、この口上が聞こえたら誰でもそんなツッコミをしていたはずだ。
「分隊長」
「ああ。地面が?」
ドラゴンは命令した。そしてしばらくのウエイトタイム。




