183 フラカラは完全体になった
「メアリーおねーーちゃーーん」
「アン、アン。いいから一緒にさがりなさい」
入れ歯を装着した完全体イグと合流したアンは、きぶんとしては百人力。でもでもサラージュで暴れているシロアリの数が桁違いだ。
「あっちからだれかくるよーー」
「だれ?」
困った事にシロアリは、その名の通り白い。そして一角獣フラカラもお爺ちゃんだから灰色に近いけど、まあ白の部類だ。うぞうぞ密集しているから美少女すぎるナイスバディなメイドのメアリーは、フラカラの認識が遅れた。
「ほら、角のあるおウマさーーーん」
「フラカラ卿? 単騎空馬で?」
空馬は、背中を預ける騎士騎手、または騎兵がいないウマのことだ。
「どんどんシロアリさんを蹴っ飛ばしてるーーー」
無邪気にはしゃぐアン。
でもシロアリが跳ねる毎に──以下、諸事情で割愛。
「////おお乙女////」
「フラカラ卿」「おウマさーーん」
必死の混戦中でもちゃっかり乙女を探し当てる、さすが一角獣であるフラカラ。
「////大事ないか////」
「フラカラ卿こそよくご無事で」「おウマさん、げんきーーー」
そして。
どうやら乙女であると一角獣テレパシーは、成立してしまうようだ。
「////やや////」
乙女発見も本領なら、こちらも目ざとく嗅ぎつける。
「////そ、その木箱には見覚えがある。これは生意気な異世界の童の作であるな?////」
つまり騎士フラカラには屈辱的なセリフを吐きまくりそして口の中になんやかんや、そしてあんな仕打ちまでやっちゃった洋次とチームモンスターの歯医者さん製作の入れ歯を収めた木箱だ。
「おウマさん」「////おう////」
ぺし。アンは片手で木箱をぎゅっと持ち抱えたままフラカラの鼻面にビ平手打ち。
フラカラにはお宝に匹敵する入れ歯の容器である木箱に鼻先を近づけていたから可能だった行為だ。アンは子供だし、ウマって結構背高いんだよ。
「まれびとはわっぱじゃないよーーー」
「////乙女////」
向き合う一角獣とアン。背景がうぞうぞしているシロアリじゃなければいい絵柄なんだけど。
「アン、フラカラ卿に失礼。じゃなくて、城内に退却しなさい」
誤魔化そうとしているメアリー。
「////おお。少しばかり大きい乙女////」
もしかしたら。一角獣は乙女全般に弱いのか。弱いんだろうな。
ぺこりと頭を下げる。まるで牧草でも食むのかってくらいの低姿勢で。
「////申し訳ない。少々稀人とは男同士のぶつかりがあってな////」
これまでのイベントを男同士云々で一纏めできる神経がさすが伝説のモンスターだ。
「うん」とにっこり笑うアン。
「さあ、ひとまず退却です」
アンの手を引っ張ろうと躍起になっているメアリー。
「////乙女よ。もしかして貴女様の持ち物は?////」
鼻をひくひくさせるフラカラ。
「うん、これーーー?」
「////余。失礼、おウマさんの推測が間違っていなければ、そ、その木箱には義歯が入っていないだろうか?////」
「えええーーっと。あ、おウマさんはフラカラさん?」
幸いにメアリーが一角獣卿のご芳名を連呼してましたから。
「////そ、その通りだ。乙女よ////」
「ええーーっと。箱に『フラカラきよ』……って書いてあるから、これはおウマさんのだねーー?」
これはマジな話し。
アンとフラカラ。そしてメアリーは、シロアリたちを無視し過ぎていたのだ。
テミータ公国民ことシロアリ人の密度はどっち派でも異常な濃度になっていたのだ。そして、シロアリは木材が好き。
「//んばば//」「こわせーー」「//きだ、き//」
アンの脇から木箱をガリガリ囓り始める。
「アン」「おひょ、め」
テレパシーを忘れてフラカラも叫ぶ。
「だめだってば、アリさん。ああ、この歯を」
外箱が強制開封されても、まだワンクッション。本体の義歯は無事だったから、アンはフラカラの義歯を患畜本人に投げ渡す。
ごくん。
正直、アンの投球ならぬ投入れ歯はストライクじゃない。でも、義歯、入れ歯を求め訴えていたフラカラは強引に木枠。じゃなかった義歯を噛みつきでキャッチ。
「////ぬぬぬぬ////」
取り敢えず歯茎に載せた状態。
「のこりをーー」
「よこせーー」「くうーーー」
イグだけじゃなくてフラカラも完全体になったらシロアリ人には厄介だ。ってな思考なのか、単純に植物繊維を食べたいのか。
「メアリーオネエちゃーーん。おウマさーーん」
アンは全包囲された。




