181 甘かった
「////ぬ。人語を発しても所詮ムシか////」
一角獣もね。
「////まるで話にならぬ////」
ざくっよりはスパッ。
フラカラ、一角獣が一角獣である所以であり象徴の真っ直ぐな角は、当然武器になる。それも研ぎ澄まされた細身剣かランスのように。
「////騎士フラカラ、推参////」
因みに、この時この場での推参は勝手に参戦するぜって意味。そのまんまだ。
「////我こそはと覚悟のある勇士よ。お相手仕る////」
ドン。啖呵を切りながら角で目の前のシロアリ人を串刺し。この老馬、公王派も反公王派もお構いなしのようだ。
「////ささ、参れ////」
「//ぬぬぬ//」「こいつーー」
刺して体当りして蹴ってと、大暴れしているフラカラ。
この老体の視野に、小箱を抱えて移動しているアンの姿を認めるのは、それなりの犠牲シロアリを必要とする。フラカラ本人が必要とする義歯、入れ歯を運搬しているアンは、目の前だったのだけど、現在は一角獣無双をお楽しみ中のようでして、はい。
「////そちらから歯向かわぬのならば、此方から参るぞ////」
もう、この馬には、公王派とかテミータの内紛なんてどうでもいいらしい。
「稀人、お前さん」
古いオルキアやサラージュの生き証人である元木工職人のレーム氏。
「なんですか」
もう刃がボロボロで斬れなくなっているから、ともかく叩いている洋次。
「お前さん、アホか賢いか、わからんな」
「それは自分もそう思い」
等身大シロアリだと触角も太いし堅い。ちょっとした鞭のようなダメージに言葉を詰まらせた。
「シロアリはその積りがなくても結果ハーピィの巣を壊しているから、シロアリ対ハーピィの」
攻撃目標はレームではなかったらしい。でも急降下をするハーピィに、身を伏せていたレーム。
「しかし、潰しあっても倒してもキリがないぞ、こいつら」
「そうですね」
五百万とか億単位のテミータがいると伝えるべきだろうか。
「そろそろイジも」
巨人フンババ族のイジ。レームはイジの肩に載っているのだ。
「限界らしい」
「それは、そうですか?」
イジ限定で、シロアリを食べ飽きている疑いがある。
「どうするのだ?」
「ハーピィやその他のモンスターで相殺を期待していたんですが」
テミータでもシロアリ人でも、どっちにしても桁が違いすぎた。まさかどっちの派閥でも全シロアリ人がサラージュに集結しているんじゃないのか、これ。
「甘かったです」
「甘いな、お互いに」
「あまま、あま」
動物性タンパク質や脂肪は甘いと感じる場合もあるとフンババ族の巨人イジが証明している。
オルキアの西部のサラージュ地方。ワルキュラ伯爵家の領土は、まるで一面が白い世界に覆われつつあった。等身大の昆虫人の一派シロアリ人で唯一オルキア国内に自治公国の成立を許可されているテミータ公国と公爵家。
その公王位を巡っての対立がサラージュ襲撃に暴走しているのだ。
冬将軍の猛攻に晒された草原のようにサラージュのあちこちが真っ白に支配される。
雪国の銀世界とサラージュの白の違いは、白が動いていること微妙な音を立てていること。少しずつサラージュの姿が変化、要は〝食われて〟いることだ。




