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174 シロアリはまるで無尽蔵


職業軍人プロとして自信喪失するな」

 バイア中尉は言う。もう呟きやうめきではなく、愚痴や悲鳴に近い悲痛な音色で。


「ライジン」

 ミーナの発言の後、刹那戦場は白一色に色を失う。

 強烈なライジンの閃光の結果なのだ。


「ミーナーちゃん、スゴい。でも右に残兵」

「ライジン」

 ライジン族と名乗る種族なら、田舎で麦を踏んでいる児童でも知っている。そしてライジンは雷の意味だ、くらいも知識の範囲内か。


「////ぴぎーーー!////」「//ひーー//」

 だけど、ピカッとなにか光ったと感じた刹那、セカイが白一面に覆い尽くされる。そして悲鳴を残してシロアリが跳ねたり転がったり。結論としては全身が沸騰したような、確かににあちこち火傷痕を残して倒れている。まあ死んでいるだろう。


「最初に当てずっぽうで槍を投擲したは」

 ライジンを効果的に駆使する電導のために純鉄の槍を投射。カンコーの令嬢と槍と軸線が重なった刹那がシロアリたちの最後の活動になる。


「そしてあの意味不明な楯は?」

 これは以前暴れるミーナーのライジンを消費させるために洋次が立案した作戦の応用。絶縁体である石の楯でライジンの誤爆や誤誘導でバイアたちが犠牲にならないための配慮なのだ。


「むしろ我々が後方に退がれ、か」

 それでは国防の要、マラム守備隊の沽券に関わる。


「総員備えよ。シロアリは上空からも飛来襲撃す。カンコーの戦士の呪文詠唱を妨げる不埒なアリを駆逐せよ」

「「「は」」」

 将校の下知が届く寸前。大ジャンプしたシロアリがミーナーの頭上を奪う。


「風よ」

「なんと」

 今回、邪魔になるだけ。戦力どころかマイナス計算で扱っていたエルフの見習い兵だ。


「//げげ//」

 風魔法には殺傷力はなかったらしく、シロアリを地面に叩き落としただけ。でもエルフの見習い兵の風魔法でミーナーを守れた。後始末は槍持ちが一刺しで完結させる。


「上出来であるぞ新兵。だがシロアリはまるで無尽蔵、呪文を使い切るなよ」

「は」

 頬に汗が流れているのは移動の披露だろうか。呪文詠唱で魔力の消費だろうか。


「隊長。横です」

 もう一人のエルフ。バイアはエルフが長寿な噂だけしか把握していないので実年齢は不明だ。なにしろ空振り出張を誤魔化すために押し付けられた見習いなのだから。


「貴殿も魔力の消費は慎め。残念だが各個に自衛するのみ」

「はい」

 返答の声も生き生きしている。こっちの見習い兵は心配なさそうだ。


「この程度の風呪文ならば、ほとんど消費はありませんから」

 こちらも──部隊長への口の利き方ではない。でも、作法礼法を最優先する場面じゃないことろはマラム派遣の分隊も、まだ顔合わせもしていないサラージュの稀人も同じだった。


「ならば油断するな。敵はほぼ無限だぞ」

「敵は?」

「取り敢えず乙女と家屋を襲うシロアリが敵だよ」

 バイアの脇で槍を構える当番兵が、これこそ由緒正しい横槍を入れる。


「うむ」

 そして、古今東西現世異世界でも〝おやじぎゃぐ〟は滑る。




 滑らないで殴る蹴る、だから飛ぶ潰れる。


「おおい、イジ」

 サラージュの西部の数少ない居住者。先代のワルキュラ伯爵時代に家具と木工職人として仕えていたレーム・モリビエ。洋次たちは、単純にレームさんで会話をしている老人。


「んだぁああ」

 レームの同居人。巨人の亜種、フンババ族のイジ。神の眷属の末裔も現在はバカでかい大飯食らいの扱いをされている。


「おおい。蹴り殺してどうする? 後始末が面倒だぞ」

 チキュウで活動しているシロアリはミリ単位。センチに達するのは精々女王、王様クラス。でも、神の眷属に踏み潰されたテミータ人、シロアリ人は等身大。流れる体液や残留物も、その拡大化に比例する。


「んばばんば」

 いい具合にぺしゃんこになったシロアリの体液をすするイジ。グロテスクなゲテモノ食いの場面だけど、実は案外これは悪くない。

 あくまでチキュウの事情だけど、膨張傾向にある地球の食糧難回避の最後の切り札が昆虫食だと唱える学者、識者研究者もいるのだ。


 昆虫は──食える。なら放置は資源のムダじゃない?


「おおい、今食うのか?」

「んばああんまい」

 やれやれと顔に手を当てるレーム。


「新鮮なアリが美味い? まったくこいつは」

「んだだだんががが」

 圧倒的戦力差があるバトルを古くは蹂躙じゅうりん、現在だと無双なんて形容する。もう少し長い言葉を使うと千切っては投げ千切っては投げ。


「だから張り倒したシロアリを囓るヤツがいるか」

「んおおおおんるるるる」

 シロアリの体液が口元にべったり白塗りになっている巨人イジが自分自身を指差す。


「だから〝お前以外だ〟」

「んないないんないない」

 ぶるぶる頭を振る巨人イジ。


「まったく? ややや」

 レームの足元が陰った。それはイジの影だけではないようだ。


「んぱぱぱんぴぴぴぴ」

「////ぎぎーーー////「////こらーーー////」

 ハーピィやモンスターに占領されてサラージュの開発や流通を妨害している元凶が飛来した。


「//やややや//」「//このーー//」

 ハーピィの立場だと、シロアリ人、テミータは許しも前触れもなく湧き出た侵略者。一方シロアリたちの半分は、どうもサラージュの全てが敵だと捉えたらしい。


「//なんだーー//」「//やれ//」

 ハーピィ対シロアリ人・テミータ。

 シロアリ人対シロアリ人。

 そしてシロアリ人対イジ。


 滅茶滅茶な乱戦が大勃発した。



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