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168 そろそろバトルも限界だ


「洋次。避けろ」

「は?」

「////この////」

 なにか、テミータの口から発射された。


「ほほう。問答無用であるな」

「な、なんですか、あれ?」

 どうやら最初の一体──一人? ──は切込隊長だった。目の前の人物が誰だか確認もしないで液体を吐き出す。


「あれは恐らく溶解液だ。シロアリは樹木を溶かしてアリの巣やトンネルを」

「そんなゆーーちょーーなーー」

 解説は事前にレクチャーして欲しかった。


「アリの攻撃、蟻酸よりは即死性はないはずだ」

「だからーーー」

 アジュタントの穴では、一体一体登場の順番待ちらしい。


「おや、穴を拡大工事か。ここまでは想定内」

「だからーーー」

 どうしてだろう。キコローはテミータの溶解液の標的にも、包囲の対象にもなっていない。


「おや、どうやら出番を待ちきれない若手が暴走を」

「な、なんだって?」

 アジュタントの連絡トンネル出入り口では足りない。

 どんどん新しい穴が開通して、シロアリ人。テミータがサラージュ城内に登場する。


「この分だと」

「サラージュのあちこちが穴だらけだし、テミータで溢れるであろうな」

「まさか」

 出来れば抜きたくなかった。そして揮いたくなかった護身刀をギラつかせる。


「こうなればバトルだ」

「だから、戦闘だと申したであろ」

「////しね////」

 砂埃を撒き散らして新しい穴。新手のテミータが飛び跳ねる。


「貴様がな」

「あ」「////ひ////」

 キコローが瞬く間に洋次とテミータの壁になった。そして、鞭の一閃。


「あ、あれ?」

 洋次の足元にバレーボールが転がった。いや、変則的な動きだから白いラクビーボールかな。


「///え//げ/で////」

 ラクビーボールが喋ったのとは違う。

「これテミータの首じゃないか。キコロー?」

「ああ。余の鞭で斬った」

「あ、あ()た」

「おい。何回もバトルだと言わせるな。一方的な理由にならない理由でしかも無警告に攻め込んだのはテミータの側だぞ」

 鞭の空打ちをする。それは時代劇なんかでも目撃する刀の返り血を拭う動作に似た所作なんだろうか。


「仕掛けられたからには応じる。それがオルキア流だ。まさか今更話し合いでなどと寝言を申すでないぞ、チキュウジン」


 きゅあきゅあ。


 テミータの──アジュタントみたいに人語会話をするシロアリもいるけど、やっぱりアリの口だ──口から製造される音声を無理くり文字化すると、きゅあとか鳴いているように聞こえる。


「テミータの公王の王冠なんか興味ないけど」

 数体のテミータが洋次を取り囲んでして、包囲網を段々と狭める。


「興味ないけど、サラージュを壊すのは許さない。ゼッタイだ」

「ならば戦え、稀人」

 キコローの手先が光った。


「これ?」

 キコローが握っていた鞭だった。鋼鉄製なのか、細くてでも、しなやかで丈夫そうな鞭だ。


「使え。現在のモンスターの歯医者さんは、〝はぶらし〟ではなく、その鞭が必要だ。わかったな?」

 びしんっ。

 一回り鞭を手に巻き付ける。


「わかった」

「////このーー////」

「いきなり背後からかよ」

 取り囲まれたシロアリが攻撃を開始した。慌てて防戦の目的でお借りする鞭を一回上下に動かす。


「////ぷ////」

 それが名も知らないシロアリ、テミータの断末魔かご臨終のセリフだった。


「なんてしっくりする素材なんだ」

 でも、なんて悲惨なこの世の最後の一言だろう。自業自得でも。


「洋次。汝を恐怖の泉に叩き込みたくないので秘していた」

 予め複数本鞭を持参していたらしい。

 不謹慎だけど芸術的に舞うようにキコローが鞭を振るうと、バタバタとシロアリの死骸が生産される。さすが本家だ。


「なんですか?」

 洋次も鞭を動かす。面白いのか怖いくらい紙切れのようにテミータが鞭で切り刻まれている最中だ。


「テミータはあるクニの言葉でシロアリそのもの。シロアリは、テミータ規模になると億万の公民を抱えている」

「え? 五百万以上じゃないんですか」

 そして、上手いことまた一体切り刻んだ洋次だったけど。


「五百万はテミータの公国民の数だ。シロアリ人全体では億万の半数でも数千万。その一人二人を屠ったわけだ。貴殿は」

「それって」

 少々倒しても無意味じゃね?


「そろそろ正面切ってのバトルも限界だと言うことだ」

 それ、最初から予告してください。

 口を動かすよりも鞭を左右させないとヤバい環境になっていた。


「冗談じゃない。こんな半端な場面で人海戦術で殺されたくなんか」

 どうする稀人洋次。



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