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167 サラージュが主導権を握って


「なんてことだ」

 ハリス、カンコーでも陥没が連発している。

 取締官の言葉を信じて問題解決には最大限協力する。


 もちろん貴族の挨拶などを交えた間接的な返書だったのだけど。


「気に病むな。自分を必要以上に大物だと自惚れるな」

「キコロー取締官」

 逃げ込んでいる人たちを慰める大役があるカミーラに代わって、メアリーと合わせた三者会談。


「洋次が貴重な人材だから、こうしてシロアリの争いに巻き込まれたのでは御座いませんか?」

「言うな、メアリー」

 こちらの笑いも柔らかい。これは微笑みだ。

 そして、もはや第二動作になっている襟を整えながらキコローは語る。


「余は洋次を慰める意図があったのだが、其方そなたの物言い方で励ます選択肢もあると言う訳か。善かろう」

「お二人共有難いんですけど私の見えない内面よりもサラージュを防衛する作戦の実行が優先です」

「そうだな」

「はい、衝突などの武力面は殿方にお任せします。家令補佐としては領民の避難誘導など行政面で支援します」

 腹を括るしかない。

 そして作戦をサラージュ主導で実施する。


もっともだ家令補佐」

「頼んだよ、メアリー」

 小さく頷いて大きく胸とかを揺らすメアリー。


「うむ。稀人、善いかな?」

 キコローに、この土壇場で青春しているのがバレています。ここは、さすがに同性。オトコの生理をわかってらっしゃる。


「スミマセン。なんでしょうか」

「令嬢や家令補佐の協力を仰げば物資や非戦闘員の避難誘導は順調。問題なかろう。となると、そろそろサラージュ側。こちらの手の内でシロアリたちを躍らせたいのだが」

「上手く行けば、ですが。了解しました」

 洋次が作戦開始を了解したと判断したキコロー。

 さっと方向転換をする。


「あの、どちらに? なにを?」

「シロアリを我々の計画通りに誘う手段は唯一つ。奴等のトンネルで一番効果的な文言を叫ぶことだよ」

「あ」

 ゴタゴタで忘れていた。


 公王の治療を依頼したアジュタント準男爵は、要件があったらトンネルで叫べと言い残していた。オルキア王国を超越してバナト大陸に張り巡らせたシロアリトンネルは、壁面保護強化のため通信ケーブルの機能も備えていた優れた生活道路なのだ。


「ええっと」

「ここは余が文句を整える必要はあるまい。モンスターの歯医者さんとして、洋次の素のまま。肉声が一番効果的だろう。公王派も反公王派どちらもな」


 仮のフタとして板切れを三枚ほど重ね封鎖されていた、シロアリの穴。

 先日アジュタントが強襲的訪問の時にこじ開けた穴に洋次を導くキコロー。


「わかりました」

 一歩二歩と穴に接近する。

「頼むぞ。グズグズしていると逆効果だ。緊張の無意味な延長は猶及ばざるが如しだ」

「それ、正確には〝過ぎたるは猶及ばざるが如し 〟ですけど」

 まあ古い諺です。


「臨機応変だよ、何事にも。な」

 キコローのウインクは生涯これっきりがいいかな。どうせならメアリーかカミーラに……。


「さあさあ青春したければ、先ず生き残ることだぞ」

 マタマタオトコのコの生理を見抜かれてます。




「はい」

 深呼吸。

「えーーー」

 咳払い。そして目を閉じる。


「わたしはーーーー」

 大声は久しぶりだ。でも、やらないと。主導権を奪って生き残らないとならないのだ。


「先日、テミータ公王陛下を治療しました、まーれーびーとーー。モンスターの歯医者さんでーーす」

 エコーって何重だろうか。回だろうか。

「新しい素材を試したいのですがーーー。これが公王陛下に適合すればーーーー」


 ごそごそ。がやや。ぎゃあ。


 耳を澄ませば自分の声の反響ではない音声が混じって木霊している。


 好意的は憤怒や反感か。

 シロアリ人、テミータは間違いなく洋次の問いかけ誘いにノッている。


「陛下だけじゃなくて、テミータの皆の寿命をーーーー」


 がやがやじゃない。明瞭に大群の足音が轟いている。音声に皮膚もつられているのかな。シロアリたちの行進がリズミカルに響いている。


「来たぞ。思惑通りだ」

 にやり。王国準閣僚席のキコローが、してやったりと口元を緩めた。


 でも、これは作戦の序章。古式なサムライの風習だと合戦の合図の交換。鏑矢の撃ち始めでしかないんだ。



「足音はどう聞こえる、洋次」

「あれ、キコローは鞭で応戦ですか?」

 初対面の時、メアリーの白い手の甲にミミズ腫れをつくった鞭を構えているキコロー。


「ふむ。貴殿は異世界人、稀人故仕方あるまい。だが戦闘は武器で決まるのではない。才能と作戦。そして日頃の修練と運で決まるのだ」

「最後の運が毎日素振り五千回してもピーゴロって死亡フラグですけど」

 ピーゴロ。ピッチャーゴロって真面目に野球している球児たちには失礼だけど格好が悪い凡退の代表例として古い人種には浸透しているのだ。洋次は、高校の教諭のせいでちょっとオヤジくさい。


「言うな高校生。〝しぼうふらぐ〟を回避するために青春の場面を後日のお楽しみに延長した親心を無下にするか?」

「いや。貴方と親子はどうよってのが?」

「余裕だな。そろそろ、踊りがはじまるぞ」

「はい。さてこちらの掌で踊るほどテミータ人は小柄だといいんですけど」


 一体のほぼ等身大のシロアリ人。彼らの自称だとテミータ公国の民がご登場する。



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