165 ハトも飛ぶ。ツッコミも飛ぶ
「じゃあ鳩を飛ばすのか。ホーロー」
チームモンスターの歯医者さんの緊急会議になった。
洋次と時々フォローの情報や補正をしてくれるキコロー取締官の説明が終わると、鍛冶屋の見習いでミキサー製造責任者のコダチがプランを出してくれた。
「うちのハトちゃんかい、了解」
「あのさ。そのハトなんだけど」
以前、食べ物屋の娘のアンが、サラージュではハーピィが跋扈しているからハトはいないと解説していたのだ。
「ハト、大丈夫なの?」
「ああ、私のハトは鳩じゃないから」
意味不明だ。
「洋次卿」
改まってのコダチ。こんな場面でもマジメなんだな。
「こいつのハトは、いわばジャイアントビジョンです」
「あのねーー。アンがのれるくらい大きいんだよーー。のるとさすがに飛べないけどーー」
だそうです。
「シロアリ人にジャイアントな土竜と鳩かぁ。どんだけジャイアントが好きなんだ、異世界?」
君もメアリーのジャイアント○○、好きだろう?
「ハリスとカンコーへの書簡は引き受けよう」
もちろん襟を正しながらのキコロー。
「すみません」
「ところで、シロアリたちだが、得てしてこの種類の衝突では、若手が暴走するものだ」
立ち上がりざま、イヤな予見をする取締官、キコロー。
「暴走ですか」
「そうだ。名前は、多分ベティメ準男爵だが」
「ベティメ?」
「そうだ。アジュタントに対抗するのは、ベティメしか居らぬ」
「ああ。おっさん。偉い公務員だもんな」
毎度失礼なホーローの背中をパーで叩くコダチ。
「ベティメだろうが、誰だろうが」
「モンスターの歯医者さんの診療を邪魔するヤツが敵、だろ。洋次」
幼馴染のコダチのツッコミなど、どこ吹く風な細工師ホーローです。
「ああ、そうですね」
「じゃあカワイイハトちゃんを飛ばすね」
「これ、肝心の書簡を忘れるな」
いつものやり取りの間に一筆書き上げているお見事なキコローだった。
「へぇ。すごいね、おじさん」
ジャイアントビジョンはホーローの自宅で飼っているから、そこまでは自力で移動。
ホーローちゃん、一時退場です。
「さて、余が貸与している西尖塔だが」
洋次のレンタル尖塔は東側。サラージュ城の正門を挟んで、お隣さん同士なんだ。
「あの塔は東よりも高くて堅牢だ。しばらくは、あそこが善いだろう」
「よいって、なにがです?」
「おやおや。これはしたり」
今度は襟じゃなくて頭髪を整えるキコロー。手櫛だけど。
「先刻若手シロアリが暴走すると予想したであろ。ならば、直接治療に関する施設や人材以外を攻撃する恐れがある」
「暴徒化、ですか?」
「全くその通りだ。で、嫌がらせと趣味を兼ねて、サラージュ領内の備蓄食料などを食い荒らす公算が強い」
「じゃあ、食料を塔に保管ですか」
「そうだ。可能ならば小型の家畜も、だ。シロアリ人ことテミータ公国民は軍隊アリではないから、生きている牛馬までは襲わぬ。だが、小鳥の類はその限りではない」
「そうすると。塔内部の階層を修理する必要がありますね」
「さすが鍛冶屋だ。その辺は由なに」
コダチ頼むよって難しく言いました。
「それでは、私も失礼致します」
「コダチ頼むな」
小さく頷いてコダチは洋次の東塔を離れた。
「さて。それでは、作戦を練ろう」
またまた襟に触れているキコロー。
「でも、援軍とかが到着」
「おい稀人」
真っ直ぐ立ち上がるとキコローはどデカイから、山頂どころか天空の窓でも眺める気分だ。
「いつ襲ってくるか不明なまま怯えて暮らすつもりか。何日領民が畑を放棄するのだ。そろそろ刈り入れ時だぞ」
「でも」
「だからこそだよ。襲撃衝突が不可避ならば、こちらの、サラージュが一番都合の善いタイミングで実行させるのだ」
「どうやってでsか?」
ふふんと笑う取締官。
「アジュタントが申したそうだな。連絡をつけたいときはトンネルで叫べ、と」
「ああ。トンネルがケーブルになっているらしいから」
「やれやれ」
首を激しく左右に振り、ガイジンの『WHY』みたいなポーズを造る。




