161 依頼があれば治療する
「メアリー、メアリー。バンシー、コチ!」
急いでサラージュ城に帰還した。
(おかえり)
ふぁさーー。
一陣の風、冷風が肌を冷やす。
「ああ、バンシーか。城でなにかあったかい?」
何がのナニの意味不明らしい。
(しらない)
「ええっと。例えば穴が開いたとか」
(あそこ)
「あ、それはこの前アジュタント準男爵が開通した穴で、そうじゃない穴なんだけど」
(あな)
「違うって」
所々陥没で発生した穴は、サラージュ城内には及んでいない。なぜだか。
「そっか。勘違いとか深読みだといいんだけど」
(洋次、あな)
まだアジュタントの出入り口を指差しているバンシー。別名を不幸の風、北風の精霊の幼生体だ。
「わかったよ。もし、新しい穴ができたら知らせてね。あ、バンシーが通れるサイズだよ、ミミズが地面からニョキは、だめだからね」
(あな?)
「うーーんと、コチたちと遊んでなさい」
(うん)
「じゃあ、来診患者が開けた穴なのかな?」
断定できない洋次だった。
「月が出て、フクロウがほほぅと鳴けばいいのかな?」
ロウソク代がもったいないから、異世界転移してからの洋次は日没で就寝する規則正しい生活を基本にしている。
「そろそろ、いいんじゃないか?」
独り言。
でも、〝どこか〟に誰かがいる確信がある。
「なぁ。もう夜だぜ。モンスターの歯医者さんも、そろそろ寝たいんだ」
ガリ。
ガリガリ。
「やっぱりな。アジュタンントなら、前の穴からいらっしゃるだろうから、名無しのシロアリさんか?」
「////シロアリではない//テミータ人//である////」
ガリガリガリ。
「あーあ。床を貫通しちゃうのか。ま、いいから早く面突き合わせてお話しようぜ」
またも、高校生の地を晒してしまう。
「////話し合いなど不要//当方の要求を快諾するか////」
「あるいは、穴に叩き落とされるか、だろ?」
元々倉庫と物見の塔を兼ねて防水加工を施しているレンタル尖塔だ。そのチキュウ式に三和土のような床を齧って削る音がウザい。
「////なら回答は決まっているな////」
「私はモンスターの歯医者さん。依頼があれば治療する」
ガリ。




