154 誰かの歯を治すために誰かを殺すの?
「ぶっちゃけ、歯を接着します。それしかないです」
「ふむ。稀人の発言としては些か品位を疑うが、対処としては正しかろう」
「断定していいの、おっさん?」
「おい、洋次どころか取締官閣下にまで失礼な口を利くなよ」
ふふっと肩が微動したキコロー。
「まぁ良い。ここはモンスターの歯医者さんの領域。件の稀人が許すならば、余も乙女の戯言と聞き流そう」
「へへーー。ビジンってのは万国共通でお得だね」
「って自分で言うな。ホーロー」
「しかし洋次。シロアリの歯を接着など可能なのか。そして接着するための歯はどこから入手するのだ。頼みの〝つげ〟はシロアリ人たちは食べてしまうのだろ?」
「そこなんですよねぇ。義歯の素材も接着剤も探さないと」
振り出しに戻るなら、簡単だ。
でもシロアリ人の依頼は洋次にとっては、サイコロを探すところから始める作業になる。
「確か、乱暴には糖質なんですよね。昆虫の外皮とか甲殻類とか」
「「「と・う・し・つ?」」」
科学設定や基礎知識が違うから、洋次以外には初耳な言葉だろう。
「若干成分は違うけど、昆虫はキチンって材質で外側が覆われて。あれ?」
さすがのキコロー含めて皆さん、ワカッテない。
「だから、その原点に帰るしかないかな?」
「「「原点?」」」」
もう大喜利司会者のの気分。
「もしかして、ヒューマン系の入れ歯と同じか、洋次」
「は、キコロー卿。義歯の素材の頼みの綱を食べるシロアリ人なら、それも選択肢かと」
「な、なんだよ。男同士でわかりあって。説明してよ」
胸以上に頬を膨らませたホーローが横槍を入れる。
「ホーロー。洋次以前にも入れ歯師は存在したのだ」
「だって洋次はオルキア初めての〝はいしゃ〟じゃないの?」
「だから入れ歯師と申したろ。オルキアの入れ歯は、見栄えを整えるだけの付け歯でしかない。だが、洋次の」
「あ、私の美し過ぎる腕も大事だよ」
「だから、一々自分勝手に口を挟むなよ」
コダチが無意味な忠告をする。
「その様に伺っているよ乙女」
「えへへ」
社会的地位なのか器の差か。ホーローを上手にあしらうキコロー。
「それでな、〝つげ〟で制作した義歯は食事を可能にするがオルキアの入れ歯は実際に噛めぬ、使えぬのだ」
キコローの解説を捕捉する。
「えっと、チキュウでの黄楊入れ歯以外は人骨やサメの歯を組み合わせたものだったんだ。人口樹脂とか色々な科学が発達するまで」
「でも、私たち科学者でも錬金術師でもないよ」
「あ、その顔」
錬金術師は当然でも科学者と発言したホーローの顔で世界観が丸わかりだ。中世風のオルキアでは、科学や、まして錬金術師は詐欺師と同列なんだ。
「最後まで聞いてね、ホーローもコダチも」
二人が同意で頷くのを確認する。
「ホーローの美しい細工もコダチの鍛冶職も科学なんだ。だだ、正確にわかる前に経験則で綺麗な細工や鍛えられた鉄を入手していただけで」
「そうなるかな。仕組みや理由は不明でもある薬草を利用すれば病気や痛みに対処叶う」
洋次にはいいフォロワーなんだけど、言葉使いが古臭いキコローだ。
「で、要するにどうするのさ」
「あ、いい質問だ。現在一番いい素材はシロアリ人の歯や身体を再利用することなんだ。ヒューマンでは天然素材で随一の黄楊を食べちゃうのがイタすぎるよ」
わかったのか、わからなかったのか。
素人のホーローには入れ歯の開発史は興味ないだろうしなぁ。
「じゃあ、誰かの歯を治すために誰かを殺すの?」
直球で、こちらもイタい質問が投げ込まれました。




