153 具体的にどうすんのさ?
「ほほぅ」
だからアンタ、フクロウか、キコロー。
「掴みは先ず先ずだな。入れ歯の材料を食べられてしまうとはな」
お久しぶりですレーム師匠。
「だ・べ・」
「涎垂らすなよ、デカいの」
「で、お前は洋次にくっつくな、ホーロー」
ホーローに小言は鍛冶職人見習いでミキサー開発の責任者のコダチ。
「ああ、アン。メアリーかコチに頼んで、食べ物を運ばせて」
「はいはーーーい。イジちゃんは食いしん坊だねーー」
フンババはオルキアでは古伝説だと神の眷属の末裔で、一モンスターの名称じゃないそうだ。イジは、フンババ族の巨人。食欲とサラージュの西部に充満しているハーピィ避けの役割しか洋次には感じられない巨人だ。
「ったく、コドモにちゃんずけされちゃ、お終いだね。なーー洋次」
洋次の周囲で、食べ物屋の娘、アンは珍しく風の精霊の幼生体たちが複数見える。これって、子供だからなのか、風属性でもあるんだろうか。
「おい、洋次卿は正式な稀人に認定されたんだぞ。口を慎め」
「いいじゃんか。あたしと洋次の仲なんだし」
幼馴染の、俗に言う夫婦喧嘩ヤメれ。
「それでは、本題に移りましょう」
「しかしさ、洋次」
細工師。シロアリたちの治療に関係する発言だろうな?
「私が王都で修行していた頃は、オルキアの北部で巣作っていたんだよアイツらさ」
「へぇ。結構距離がありそうだな」
「だろーー」
咳払いが聞こえた。
「宜しいかな、お嬢さん」
最早身体の一部と化している六角形のカップと受け皿を片手にしたキコロー。きっとこの次は襟を治すんだ。
チキュウ語だとお転婆、べらんめぇ口調が似合いそうなホーローのお嬢さんは似つかわしくないとコダチが割り込もうとして、でもキコローは素早くホーローをあしらってしまう。
「毎日毎日、常時新しい行動を作成していれば、成る程驚異的だろう。でも、テミータ一族はオルキアで唯一貴族の地位にあるシロアリ人。歴代の既存のトンネルが途方もないほど連結しておるのだよ」
「え、そうなんだ」
驚いたのは、どっちかって洋次だった。あれ、もしかして洋次のための質問の代弁だった?
「そして、キラーモール。まあ、正式名はジャイアントモールだが」
そこで煎じ茶を啜って、カップをテーブルに据え置くキコロー。
「彼のモンスターも、超長距離のトンネルを掘る。故にシロアリ人との対立は不可避なのだ」
「じゃあ、もしかして、片方に肩入れしてしまうってこと? それって」
「ふむ」とやはり襟を整えるキコロー。
「野生動物と少数人種でも王国側に位置する勢力。味方すべきはどちらか悩む必要を感じないがな。だが最近はジャイアントモールの跋扈の噂は耳にしないのだが」
「そっかーー。でも、あちこちに穴を開けて、よく怒られないね」
「ふむ。だからこそ取締官たる余を話し合いの席に招いたのであろう?」
だから、唯独り着席してもらってます。煎じ茶も貴方だけです。残りは大飯食らいのイジを除いてコップでお水です。
「それがシロアリ人の利点でもあり欠点でもある。つまりテミータ一族は、一部の貴族領主を除いて依頼を受けて穴を掘っているのだ。そこを各貴族は利用しておる」
「移動用のトンネルとして?」
あ、とてもバカな発言を耳にした顔だ。
「戦争でもない限り、オルキアでは高速移動に注目しておる勢力は少ない。正直、国土を管理する官吏としては、歯痒いのだがな」
「どうして?」
「高速移動は、街道宿場町を領内に持つ勢力にとっては利益になるかな? 旅人が宿泊をしないのだぞ」
「あ」
「地方、敢えて物言うが僻地の食材が新鮮に入手するのは、王都などに近い農村には利益になるかな?」
「それじゃあ」
「長い目で評価すれば、シロアリや、野生でコントロールが困難だがジャイアントモールのトンネルは積極的に活用すべきなのだ。だが、在地の勢力の特に大都市に近い有力者にとって利益とは感じていない。それに、シロアリも基本は採食のためのトンネル。効率的な直線を引かないから、トンネル網は機能していないのが現実なのだ」
「なんてことだ」
既得権を守ることが、でも結局は不利益を撒き散らしている事実。
なんだけど。
「オジさん、寝ちゃいそうだよ」
ホーローのキャラを裏切らない発言が飛ぶ。ふっと軽いため息が聞こえた。
「ま、今回。サラージュに張り巡らせたトンネルが機能していたらしい。洋次も活用法を思いついたら依頼するが良かろう」
「でもねぇ」
それは、治療に成功してからのオネダリだ。
「ジャイアントでもキラーでも、シロアリ人たちは、どうして武装しないんだろう」
「だから、シロアリは戦いを好まぬ。アリは兵隊アリに一部好戦的な種族もあるが、シロアリ、シロアリ人は倒木や枯葉、そしてキノコを栽培するのが」
「え? アリじゃないの。それ」
ハキリアリがキノコを栽培するアリとして名高い。
「人家で柱を食い倒すシロアリは、冷酷に分類すると下等シロアリなのだよ、稀人」
悔しいけどトテも物知りなキコロー。王都から派遣された取締官の解説に対して、そうだったのかと、サラージュ組は呆気に取られている。
「で、兵アリも存在するが、チキュウでも、なんだ。猛獣を逃走させるアリが存在すると聞くが?」
「ああ、グンタイアリだな」
チキュウ知識だからか、キコローでも知らないこともあった。
「そのグンタイアリには戦闘力も圧力も足りぬ。実際、時々ヒューマノイドが援軍してジャイアントモールと戦っているのが実情だ。だからキノコ栽培の警備人がジャイアントモールに太刀打ちは難しい」
「じゃあ、シロアリ人が強固になったら?」
「もしそうなったら、余は本腰を入れてシロアリトンネルを整備したい。ふむ、こうなると洋次。貴殿の腕が王国の繁栄を担っておるぞ」
「あのハードル上げられると困るんですが」
「ところでさ」
ホーローが横槍を入れたようで、実は横道に逸れていたのは洋次とキコローなんだ。
「具体的にどうすんのさ?」
洋次はキコローを見る。唯、肩を竦めてアイデアは提出してくれない取締官。
「で?」
ツッこんだホーローをコダチが注目。ホーローは助け舟を求めてレームに視線を送る。
「なんだ、誰一人意見はないのか?」
赤ら顔のレーム。直接カミーラと対面していなかったそうだけど、サラージュ城の調度品などを作成管理していた木工職人さんだ。
「シロアリ人の戦闘力は、二の次として、治療だろ、治療。洋次、お前は〝はいしゃ〟だろ?」
「はい、ごもっともです」
レームの意見で、シロアリの歯──厳密にはニンゲンの歯とは違うけどね──治療に議題を戻す。




