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15 いたばしようじをかんげいします


 どうやら地球には帰還できなさそうだし、このバナト大陸の一角、オルキア王国で、どうやって生活すればいいんだろう。


「あのさ、カミーラちゃん?」

「カ、カミーラちゃ、ちゃん!」


 失敗だな。今まで洋次はオルキア語を知らないポーズを通していた。でも名指ししていたのだから驚かれても不信感抱かれても当然だ。


「おねがい、〝よじ〟」


 問題は、そこじゃなかったらしい。メアリーは、着衣状況ってか綺麗な曲線と起伏を限定公開中なのを忘れてお願いのポーズ。


「このことだまってほしい」

「黙る?」


「おねがい」

「そんなにお願いされたら」

「おねがい」

 メアリーは、またしてもウルウル瞳でしつこいほど念を押す。お願いには、了承か否定の答えじゃないと理解できないレベルのニホン語力らしい。


「お願い、了解です」

 あれ。いつの間にか泣き止んでいたカミーラが、コソコソとメアリーに耳打ちした。


「あの、できれば、このままサラージュに」

「実際俺もこの異世界でどうやって暮らせばいいか不安だから、その、部屋とか空いていたら住まわせて欲しいんだけど」

「よかった。お嬢様がどうしても、と願われましたので」

 そうなると、洋次は告白カミングアウトをする必然に迫られていた。


 俺、理由はわからないけどオルキア語通じます。話せるみたいだし、町の看板程度なら読む力も皆無じゃないです。


 片言の言葉と解説のままではオルキアの一部、サラージュでの生活すら不自由になってしまう。稀人の特典とか仕組みなどを最大限把握して異世界サバイバルをしなければならない。


 猿芝居だけど、実施する。


「待って、痛っいたい」

 左手で待ったをしながら、右手でカミーラに噛まれた首筋を抑える。

「「ようじ?」」


 あまりヤリ過ぎるとイジメっぽいし、調整が難しい。


「ねぇメアリー、カミーラちゃん、お嬢様」

「だい、じょぶ?」


 だからメアリー、貴女は真っ裸だって。


「ああ、噛み付かれたら、なにか流れ込んだ気がする。ねぇカミーラ、メアリー」

 無返事。

「〝オルキア王国の王様の名前と王国の偉い人の名前はどんな、なのかな?〟」


 オルキア語で喋ろうと意識しながら語りかけた。そしたらこの反応だ。メアリーの瞳はギネス級の拡大カラットになるしカミーラはメアリーのだっこから身を起こしたよ。だだだだ、だから二人とも!


「ようじ?」

「ああ、〝仕組みはワカラナイけど〟カミーラちゃんに噛まれたら、突然オルキア語が解っちゃったんだ」

「まさか」


「こんにちは(アウエテ)、令嬢レディカミーラ」

 大仰天の目玉が合計二ペア。


「こんにちは(アウエテ)、ようじ」

 と木霊する。


「ようじ、〝現在オルキア王国はオルキア五世陛下の治世で、主席長官は、在任八年目のナハトジーク公爵閣下。私たちのサラージュは伯爵領です〟」


 淀みもつまずききもなくメアリーの言葉が理解できる。それは前からなんだけど、実証しないとね。


「じゃあ地球と同じで、王様、公爵、侯爵と辺境伯、伯爵、子爵に男爵の階層と理解していいのかな?」


 ふーーー。すーーーー。メアリーと、後に続いたカミーラが深呼吸をした。


「細かい社会状況は後日。この会話力なら全く違和感も支障もないです。先生の必要がありません」

「メアリー、凄いね、ようじ様は」


 残念だけど、人として次の問題も処理します。

「あの、ところでお二人共、俺もなんですけど」

 二の腕を摩擦して全裸を主張する。


令嬢レディ!」

「まぁ!」


 至福は大げさだけど、むしろ目のやり場がない状況はやっと終了した。洋次のアピールでメアリーがタオル一枚の障壁もない全開放の肉体を思い出したんだ。急いで脱ぎ捨てた衣服をまずカミーラに着せるメアリー。自分の肌は後回しなんて、偉いね。


 閑話休題。


 カミーラを優先、そして自分の身繕いを終えたメアリーが告げる。


「お嬢様、つまり現状を御理解頂けますか?」

「なぁに?」

 小首を傾げるカミーラ。


「次期サラージュの領主伯爵として恥ずかしくない立ち居振る舞いが不可欠ですよ。洋次はお嬢様の言葉がわかるのですからね」

 羨ましいぞ。カミーラは顔を何度も左右させながらメアリーの谷間に埋もれた。


「あん」

 この〝あん〟は、どっちかってばオルキア語の響きに聞こえた。

 メアリーの胸の谷間に半分顔を埋めながら洋次をチラ見しているカミーラが、ぽむぽむと身体を揺らした。メアリーのあん、はその感触のせいなんだろう。


「ワルキュラ・カミーラは、いたばしようじをかんげいします。ね、メアリー。ようじの歓迎会しましょ」

「お嬢様、今がどのようなお立場で」

「ようじもきっと疲れてるし、お腹すいてる、それに、『いらっしゃい ようじ』と言ってあげたいの」

「もぉ」


 カミーラが赤ちゃんみたいにメアリーの胸で隠れん坊とかイタズラをしている。そんな光景だ。


「一回だけですよ」


 なんだか死亡フラグの大群を回避した疲れだろうか。洋次は、晩ご飯も摂れずに案内された一室で寝た。入室即睡眠で、奪われた地球の衣服の所在や部屋の説明もレクチャーされる余裕もなかった。


 また、おやすみなさい。



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