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149 アジュタント準男爵

 夜更けに突然の訪問者。襲撃者との違いは、訪問状況や外見ではまったくつかない。



「いや、サラージュの土は、正直掘りにくかったですな」

「だから誰」

 相手の動向が把握は可能だ。でもやっぱり陽光に晒す姿とは識別力は格段に劣っている。


「アジュタントと申します。ひとまず、脈絡のない先制攻撃などの蛮行を犯さなかった賢明さに感謝致します」

 昨日今日で、黒服属性が増えた。でも増えた黒は衣服で、顔面は白い。ヘンなコントラストの男性が地中から登場したのだ。


「誰?」

 事ある毎襟を整える王国取締官のキコローが、もう一人増加したんじゃないかとツッコミたくなるキャラが出現。しかも地中から。


「こちらに『モンスターの歯医者さん』がいらっしゃると伺いましたが、ご面会願えますかな」

「貴方、誰?」

 そりゃ相手──黒服を着込んだアジュタントさんだそうだ──が挨拶したから脈絡のない攻撃はしなかった。でも、第一歩で脈絡のないご登場したのは。


「真夜中の訪問ではありますけど」

 あれれ。

「メアリー」

 慇懃に。そして、たおやかに両膝をついてイキナリの訪問者に応じているエルフメイドのメアリー。


「ようこそサラージュ城に。アジュタント卿」

「ききき、きょ、き、卿?」

 卿。つまり貴族やそれに準ずる地位にある人物なんだ、このモグラ紳士。


「おや、小生をご存知とは。唯の下女ではない模様。して、『モンスターの歯医者さん』閣下は何処いずこなりや?」

 下女ってのは、現在は死後だし、使用を控えていたと思うけど、下働きとかの女性に使用する。ハリスの侍女と違う、乱暴には低級なメイドも確かに下女と呼べる。社会通念として使用可能なら。


「私が歯医者です。モンスターの」

 登場即バトルじゃなかったから、一安心二安心した、ってか気抜けしている洋次。


「おお、貴殿でしたか。これはこれは、正直貴殿も下働きだと」

「そうですね」

「抒情詩でも語りあう下働き同士かと疑っておりましたが、これは失礼」

「あのねぇ」

 抒情詩っての、どんなジャンルか洋次は意味不明だ。でも鮮やかな夜のとばりを真っ向両断する鮮やかな月夜に、美少女すぎるメアリーと二人きり。


(洋次、いやらしい)


 巨大二足歩行のモグラ登場の予兆を伝えたバンシーがジト目で洋次を小馬鹿にしているが。


「月夜に詩ねぇ」

 うん、二人きりのシチュエーションだった。これってお喋りが途切れるのは、唯○○の時だけ。

 健全な青少年が願う夢の一夜を、アジュタント卿はオジャマしたんだな、この野暮珍。


「して、如何にお得意の時刻(活動時間帯)とはいえ、斯様かようなご訪問は、令嬢に如何御伝えしましょうか」

「さて。サラージュの城主代理への挨拶と侘びは、さておいて」

「置くんかい」

「『モンスターの歯医者さん』卿」

「あ」

 真夜中の訪問者──ってか穴掘って地面を割ったから紳士的な襲撃者だる? ──アジュタントの顔面が猛接近した。そして当然洋次は、彼の顔を凝視した。


「貴方」

 洋次の網膜に写る、それを顔と呼んでいいなら初体験初目撃の顔だった。それだけの事なんだ。




「アジュタントと申します」

 それはもう聞いていた。

「洋次卿はサラージュの稀人であり、なによりも『モンスターの歯医者さん』様だと。お噂は国内に轟いておりますぞ」

「そりゃどうも。でもマジ結構ヒマなんですよね。ホント轟いているんだか」

「洋次卿。アジュタント卿も正式の準貴族の扱いを受ける準閣僚ですよ」

「そうなんでしょうねぇ」


 丁寧な言葉使いと、真夜中に穴を掘ったことに目をつぶれば紳士的な態度。そして中央の公務員であるコンラッドやキコローを連想させる磨き上げられた立ち居振る舞い。


「おや、如何されましたかな」


 ライジン族の母娘と接触があった。

 一角獣とそして人を乗せられる特大なオオトカゲも接点以上の繋がりがある。

 見間違いの説が強いけど、デスナイトと、それをパクつくモンスターも存在した。


 それでも、まだまだ洋次は異世界の住人としての自覚と経験が足りなかったのだと痛感している。


昆虫人インセクターがお珍しいですかな?」

 そう。

 どこをどー見ても、アリ。

 ってか白いからシロアリが二足歩行で人語を活用している。ステレオタイプな執事みたいに漆黒の衣服に眩しい白いシャツを着込んでいる。

 それが王国から正式に卿の形容を許されているアジュタント氏だそうだ。


「アジュタント卿。洋次卿は、まだ昆虫人に慣れておられませんので」

「いや初体験だよ。その、なんというか」

 ゲームや漫画を除いてはね。しかも、どっちかって敵キャラだった記憶が。


「成る程合点致しました。稀人を恐怖の渦に巻き込むは本意では非ず」

 山高帽じゃない、ヒューマンサイズのシロアリ触覚を折り畳まないで隠せる前部が異様に膨らんだ帽子を、ほんの少しだけ右に傾けたアジュタント卿。


「これで如何かな」

「はい、これならば洋次卿も不安を覚えずに対話叶うかと」


 ちがーーーう!

 コワイに決まってんだろーー!


 叶うって、ゼンゼン恐怖ゲージが減ってないんですけど。

 それとも、オルキアでは、帽子の角度が友好度のバロメーターなんか?


 そう。叫べればいいんだけどね。



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