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137 それマジなんだろうな


「落ち着き給え」

 頭髪の乱れすら放置して、それだけをキコローは漏らした。


「二度言うなよ。さ、メアリーも泣き止んでよ」

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「私のために有難う。だから」

 それで泣き止めば世の中の争い事なんて欠片もないだろうさ。




「血。流血は治まったかな。板橋洋次」

 洋次は出血し続けている。それをキコローに指摘。再確認すると、メアリーは電撃的に活動した。

 治癒魔法で止血。

 井戸にダッシュして洋次の身体の血を拭ってくれた。

 バツ印のこれこそダメージ加工されたシャツの代わりはコチたちが運搬。実体のない精霊の幼生体だけど、属性の風を操ればシャツくらいを城内から運べるって便利じゃないか。コチたちって。


 ああ。メアリーに身体を拭いてもらうなんて初体験だったけど、なにしろ怪我人だ。痛みが優って嬉しさは、どこかに流れていた。


「メアリーの治癒魔法のお陰だから」

 でも洋次の真横で泣き愚図っているメアリー。頷きもしない。


「やれやれ。トンだメイドだよ君は。メアリー」

「振り出しに戻って、再戦したくないからさ。キコロー卿。貴方も言葉、謹んでくれない?」

 ふーーーーうっ。露骨に長いため息を返す王国官吏、審議官。


「メイドはメイドだよ。稀人。それにな、メアリー。君は風魔法が得意だ。ならば、何故痛みを吹き飛ばす魔法を駆使しない?」

「あ、それは」

 涙目から大口を開けたメアリー。


「であるよ。余が指摘するは、こうした彼女の甘い点なのだよ。稀人」

「そんな便利な魔法、ちゃんと貴方が指摘すれば済む事だよ」

「そうかな。だがしかしサラージュの稀人の健康維持はサラージュの民の責任ではないかな。さすがに生き死に関われば口出しするがな」

「で、こっちの振り出しは譲歩しないぞ。メアリーへの暴力は行き過ぎだな?」

「行き過ぎ。ああ、そんな要求をしていたな、稀人は」

「してたさ。忘れたとか、ナシだ」

「ふう。メアリー。外扉のすぐ傍に余の馬車が停めてある。そこから什器一式をここに運んでくれ給え。形式的でも和睦の盃を取り交わしたい」

「和睦ならば」

 メアリーが席を外した途端、洋次とキコローが再燃再戦をしないかと疑っている。流血事件を起こした二名を猛スピードなラリーで観察。


「余の愛用の器は承知しておろう? 一緒に小さい樽に満たした清水も頼もう。洋次はまだニホンでは飲酒は慎むべき年齢であるはずだ」

「了解致しました。それでは失礼致します」

 ケンカも争いもしないで下さいね。メアリーの美白には耳なし芳一も降参する警句がびっしりだった。

 稀人と王国の審議官。両名の気配を伺いながら尖塔の外に消えた町エルフのメイド。


「さて。場を和らげ、そして余の憤慨と処置が正当だと説明到そう」

「あんま必要を感じないけどな」

「そう尖るな」

 この尖塔では、主人の洋次もお客になる審議官も丸椅子に腰掛けている。つまり、それしか置いていないのだ。


「で、そちらは足を崩す、と」

 腰掛けて足を組んだ王国官吏。


「そうなるな。だが、こんな砕けた、正直堅苦しい単語を集結させない会話は二度とないだろうよ」

「へぇ」

「メアリーやカミーラ。つまり正式なワルキュラ当主ではない半端な姫からも細切れか一部説明はされているはずだ。稀人は、それだけで貴族に準じた扱いを受けると」

「らしいね。とてもそんな器じゃないんだけど」

「理由は簡単だよ。異世界の科学などは、王侯貴族だけじゃない。いやむしろ商人たちが欲しがっている」

「でも」

「メアリーが提出した申請書で履歴書程度なら貴殿」

「おや、貴様から格上げですか」

「そうなるな」

 なんと照れもお為ごかしも、取り繕いもしなかった。直球ストレートで肯定された洋次のツッコミだった。


「経歴は把握している。特別な科学的な知識も経験もない高校生だとな」

「で、もう稀人だと認定したんだ?」

「先程の偽物云々は売り言葉に買い言葉だ。それは詫びよう。後程形式的に審査を実施する。形ばかりでもな」

「私的にはメアリー」

 ストップ。キコローは大仏みたいに掌を突き出した。


「貴族の仲間入りを許されている稀人とメイドでは、一線を引かねばならないのだよ。それが貴族の社会だ。例え面倒でも不快でもな」

「で? メアリーには詫びないと?」

「詫びたりはしないさ、決してね。あの娘は、やっと安住の地で働けているらしい。だからこそ引くべき線は引いて差別しなければならない」

「なんだかな」

「貴殿が不快なのは承知しているし、若干予測もしていた。でも、馴れ合いや気の緩みが長い視点では結局メアリーには得にはならないのだ。そこだけは稀人も理解してくれないか」

「え? 頭下げるんですか?」

 丸椅子だから、老人のリハビリ体操みたいだ。でも間違いない王国の官吏を連呼していたキコローが洋次に頭を下げたのだ。


「下げるさ。あの娘、メアリーは同門だからな。上から目線だが不憫だし、ある種可愛いし幸せになって欲しい」

「それマジなんだろうな?」

「ああチキュウ人の言うところなマジ。大マジだ」


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