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131 狼男たちが


「誰だ、お前たち」


 洋次の左右に、頭が並んでいた。以前解説をしたけど、騎乗していると対人だと結構身長差が開く。


「毛むくじゃらで」

 でも洋次を挟んでいる頭は、正直洋次よりも視点が高い。巨人族のイジには及ばないけど、デカいキャラだ。


////うぅぅわお////

「お、狼?」

 犬に似て、でも犬よりも精悍で色んな意味で尖っている頭部。そしてデスナイトにも動じない好戦的な存在。


////ぬん/////

////わお/////

////はぁああああ////

「狼男なのか?」

 二足歩行の犬頭。イトのようなワンちゃんタイプの犬じゃない。逆立つ毛並み。鋭い牙。


「お、狼男なんだ」

 その狼男が二体。二人とするべきだろうか。


////ばお/////

 一度だけサファリパークでライオンの咆哮に遭遇した経験があった。たった今洋次の全身をびりびりさせる狼男たちは、それ以上の空気圧、威圧があった。


////あああ////

////ぬ/////


 一メートル以上のロングソードを抜いていたデスナイトがたじろぐ。

////あああ////

 二足系だと動作が似る仕来りなのか、狼男たちは両手を広げたり、棍棒か丸太みたいな腕で自分の胸板を叩く。


「助けて、くれるのか」

////あああ////


 狼男たちは洋次の存在など眼中にないらしい。専らデスナイトにほええまくっている。


「悪いけど、この隙に離脱するよ」

 馬の手綱をぐいぐいと曳きながらサラージュ城内に逃げ込む。


「ん、風?」

 襟が揺れた。と同時に。


「あったぁーーー」

 視界に何もないのに殴られた。じゃない、殴られたような衝撃があった。


「洋次、背を低くして」

「メアリー?」

 城の外壁の上。胸壁って言う西洋城塞での定番、凸凹の凹の部分に懐かしくて嬉しいぷりんぷりんが……じゃなくて人影がある。


「殴られた打撃じゃなくて、メアリーの風魔法が逸れて当たっちゃったんだ」

まがつモノ、サラージュの城から去りなさい」

「うわっ連弾」

 今度はギリギリ頭髪を掠めた。


////さ、。% ラーじゆ////


「う。デスナイトが棚引いてるぞ」

 それはきっと北風バンシーたちの仕業だ。


北風バンシーダメだ。デスナイトは聖剣じゃないと倒せない」

 それはコンラッド情報だ。教えてくれた代官も、自分で倒したり戦闘の経験者ではない。


東風コチもいるのか? ダメだよ」

 デスナイト周辺で巻き起こっている風が複数だ。それだけだろうか?


「洋次、速く通用口に」

「え。でもメアリー、ウマが」

「乗り棄てて。貴方の命が一番です」

「でも」

 精霊たちや風魔法、狼男はどうもデスナイトには足止めの効果しかないようだ。

 一瞬は馬首をめぐらせて逃走する淡い期待させたデスナイト。


「って体制を整えたんだ」

「速く。正門は開けられませんから」

 的確な判断だろう。


「でも」

 手綱でウマを叩く。デスナイトに怯えているのか、鈍いけど反応はある。


「違うよな。モンスターの歯医者さんがウマ、棄てられるかよ」

「洋次!」

 無意識に落としていた護身刀を回収して構える。


「デスナイト! 私は稀人。モンスターの歯医者さんだ。診察なら時間外だけど今日は特別ぜ」

////お////

 デスナイトは洋次のハッタリに惑わせらないでウマを進める。つまり値踏みされた。そして戦力を把握されたらしい。ザコだとバレたようだ。


////ぬ。ん/////

 戦力差は一目瞭然でも、なぜかデスナイトは会心の一撃や約束されているのに動かない。


「そうか。お前この壺。指を取り返したいんだな。それって『今昔物語』だな」

 だからってこの状況。茨木童子がデスナイトになっただけではない。なにしろ、洋次はデスナイトに傷一つ与えていないのだから。


「そうか。どうも襲撃しないからおかしいなって思ったら」

 思ってたか?

「取り返すのに一手間二手間必要なんだ」

 予定外の勝算、少なくても命綱ゲットした。


「で、どうするんだい? 後ろから一刀両断して取り返せたハズなのに」

 段々気持ちに余裕も生じてくる。


////う。ぬ。む////

「おや、段々お喋りするようになったな。それなら今昔物語モデル同様に美少女に化ければ良かったのにさ。ほら、この壺の中身が欲しいんですよねーー?」

 右手に壺を載せて、もてあそぶ。


「さあ、どうする?」

////ま。れ/////

きっさきを人に向けちゃダメでしょ。剣士三原則、『抜くな・斬るな・向けるな人に』でしょ」

 それ、銃器を安全に使う格言の盗用だろ。


////う/////

「じゃあ、どうしましょうね。デスナイト!」

 ロングソードを槍のように真っ直ぐ構えた。これってお作法とか手間を無視してともかく指を取り返す作戦に転換したんじゃね?


「あ、それマッタ」

 待ってくれそうもない。デスナイトはウマ──デスホースなんだろうか? ──を二、三歩後退させる。

「もしかして突進のための前掻き?」

「だから洋次、逃げて」

 メアリーの風魔法がデスナイトの騎馬の足元に着弾する。でも、爆発力は期待しちゃいけないらしい。


「って魔力って性格と比例するのか?」

 結局メアリーはおらおら系の魔法使いじゃないって証明しちゃったんだな。


「逃げよう」

 初志貫徹。再度手綱でウマを牽引を試みる。


「コチ、バンシー。君たちも撤退しなさい」


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