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129 夜


「キコロー卿。その用意致しました馬車と護衛ですが」

 服装が露骨に違う男。王国軍の将校がサラージュに派遣される王国官吏と言葉を交わす。


「貴殿には悪いが一切無用。予め割かれた日程を私用に費やすも善し休暇や鍛錬もまた善し。御随意に」

「ですが、幸い派遣地に帰還する部隊が数名おりまして、途中まで」

「無用。貴殿はご存知ない故、気苦労を掛けるが余には無用の付属物。御配慮痛み入る」

 説得が無用だったと悟った将校は会釈をして王国官吏の背中を見送る。


「馬車ではサラージュまで十日前後。それほどオルキアの高級官吏が無事だとは思えんのですが」

 聞こえたのだろうか。

 挨拶、相手によっては握手や抱擁をしていた官吏の動きが止まる。


「なるほど、十日かかる、か。覚えておこう」

 護衛の必要を説いた将校がキコローの発言の意味を知る機会はなさそうなのだが。




 夜道。暗くて、でも不気味にざわついている田舎道。未整備の道を徒歩より少し速いウマで移動中だ。


「なんだかんだで、乙女を守護する一角獣が恋敵に頭を下げたくないって自尊心プライドが、事態の悪化を招いていたんだよなぁ」

 だから洋次。だから稀人だんだ


「フラカラがでもなく、フラカラを案じたペネでもなく、異世界の訪問者、稀人からの依頼ならば、仕方ないか」

 とぼとぼとぼ。段々足元が覚束無くなっている。ヒトよりは夜目が利くウマも、露骨にスピードダウンしているんだ。


「ランプつけようかな」

 洋次はチキュウから持ち込んだアイテムはほとんど無意味化されている。メアリーが不潔だからと徹底的に洗って、しかも中世風世界では常識的な行動。きぬたって道具で叩いてしまった。洗浄と繊維を柔軟にするため、そして水切り脱水の役目をする道具なんだけど、これでスマホなどはスマホの部品に成り果てていた。


「ライトもあの時死んじゃったんだよな。LEDだからまだ電池続いてたかもなんだけどなぁ」

 でもそれは仕方ない。


「異世界洗礼みたいなもので、道具の粉砕で留まったと考えれば」

 だってその前後に。メアリーだけじゃなくて、全裸のダブル美少女にサンドウィッチされたんだから。


「壺から音がするぞ」

 耳を壺にくっつける。


「うん、しゃかしゃか動いているな。さすが死霊騎士」

 もちろん、アクティブな動きではない。封印する直前に観察した限りでは、粘着系のモンスターか亀でも相当鈍足な動きにだった。


「でもさっきまで大人しくしていた、よな? どうして動いている?」

 嫌な予感がした。

「ほら、走れよ」

 使える自信がなかったから鞭を持たないでハリスに赴いていた。拍車も装着していない。


「走れよ、走ってくれよ」

 でも未熟な騎手が口先だけで、どうなるものじゃない。


「お、おい。ウマ(お前)だって危ないんだぞ」

 木々がざわついている。だけど妙に静かだ。


「走れって。もう直ぐ城なんだから」

 必死に内股を締めて鞭の代用にするけど効果はゼロ。


「お、おい!」

 小枝が折れる音がした。


「そ、そんな」

 宵闇から、超常的に黒い影が出現する。


「ええっと、コダチ。ニコ、ランス。それから」

////☆つ& fだA す////

「デスナイトさんですか? ニホン語かオルキア語でお話しするお積りは、ない?」

 軽口なセリフだけど、馬の鞍はギリギリ乾燥している。ってか失禁で済めば楽しい怪談話だ。


「護身刀は鉄の棒だもんな」

 手綱でウマの首を叩く。でも無効だ。


「畜生、こんな半端な段階で」

 ゆらゆら。闇よりも尚暗い、でも騎乗騎士のシルエットをしたキャラが接近。


「わ、私はここで倒れるわけにゃーーいかないんだよぉーー」

 通用しないと教えられていて護身刀を抜く。


「な、なんだよ。逃走も前進もしてくれないんだよぉ」

 漆黒のシルエットがブレている。


「な、泣いているんじゃないんだ。汗が先にでたんだ。いいかデスナイト!」

////ふ$。、Γ////

「私は稀人だ。覚悟して攻めて来い、いいか、覚悟しろ!」

 護身刀の柄を両手で掴んで刀身を耳に密着するように構える。確か、映画のポスターでこんな構えをしていた記憶があったんだ。


「異世界剣術、いざ参るぞ!」

////ぼ※////

 逆効果でした。デスナイトは、ゆっくりと長剣を下段に構えて洋次の挑発に応じた。


「行くぞ」

 もう一度内腿でウマを叩く。でも反応はないし。


「お、おい敵前で倒れるやつがいるか」

 ダメだこりゃ。ウマを放置、いえいえ犠牲に城まで自力で逃げようか。そんな反英雄的な選択のパネルを打ち砕く衝撃が起きた。


 しゅっ。ひゅん。


「なに」////ボ▽ウ////


「誰だ、お前たち」



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