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128 それぞれの事情



 デスナイト、死霊騎士。死んでる癖に騎士、戦士。


 表現方法はどーーでもいい。でも、一角獣のフラカラの奥歯に挟まっていたデスナイトの指──薬指と中指でした──を封印する壺はコンラッドからのレンタルしました。実際は洋次が期待していたほどの高級な魔法具じゃないそうだけど、それでもサラージュの備品の壺ではあっという間に粉砕されちゃうらしい。


「なんだ、やっぱ帝国官吏。色々持ってるしツテとかコネがあるじゃないか」


 一角獣フラカラをハリス家から追い出さないための乙女は確保した。ならば即作戦決行。


「魔封じの保証はありませんが」

 コンラッドが運搬してきた壺はラクビーボールサイズ。


「デスナイトの首は収まらないけど」

「ですが、お話しでは数本の指だとか?」

「は、だからサイズ的にはこれで十分です。それに奇妙な文様が刻まれて、なんだか効果ありそう」

 バナト大陸の伝説的動物だろうか。名前を知らない奇抜なデザインのモンスターたちがお互いを追いかけあってたり、闘っている図案だ。


「まさかデスナイトを自身の体内に封じるとは」

「まー凄いね。さすが魔獣」

「いえ」、あれコンラッドの顔が曇った。

「どうして一言伝えて頂けなかったか」

「まぁ」

 フラカラにとって守護する対象はペネだ。だから自分が瘴気に犯されても噛み千切ったデスナイトの指を吐き捨てなかった。


「騎士には騎士の都合ですよ。庶民平民の私には縁遠い次元ですけど」

「さて無駄話は、ここまで。日も暮れます故」

「作戦、決行ですね」

 すたすた。前後左右に使用人に包囲されたコンラッドが進む。


「ま、あれだけ猛々しい、しかも〝恋敵〟に頭は下げられないよな」

 真っ直ぐお目当ての一角獣が待機する場所に移動しているコンラッドの背中を見て、不覚にも呟いていた。


「洋次卿。お早く」

「ああ、申し訳ない」

 実際にハリスやコンラッドは、使用人や臨時雇いの騎兵などを使って何回かフラカラ捕獲作戦にチャレンジして失敗しているらしい。


「フラカラ卿。コンラッド・タイラー推参仕つかまつりました」

 来たぜ一角獣って意味だ。


////ふん////

「相性悪いなぁ」

 とっとと奥歯からデスナイトを抜いてしまおう。


「あ、コンラッドに使用人さんたちは、少し離れて」

////全くだ。瘴気に当てられても知らぬぞ////


「へ? しょう、き?」「おっかねぇ」


 それでも三人ノックアウトしました。



 本気で殴れば頭蓋骨が陥没する巨大ペンチで──もちろんコンラッドのレンタルです──引っこ抜いたデスナイトの指。


「まだ動いてる」

「なんと。おい、お前たち、倒れるな。逃げるな、怖気付くな」


 あまりの恐怖と瘴気に襲われて倒れた使用人を背景に、さっきの文様加工された壺に不死戦士の指を封印する。


「すごい生命力だ。キモ」

 コンラッドの返事はない。


「こんな気持ち悪いモンスターの指を三年間も」

 デスナイトの指を〝抜指〟の承諾の後、経緯を尋ねたらなんと三年前の事件だったそうだ。そして、それはペネとコンラッドが婚約した時期と不思議に重なる。


「奇妙な珍獣ですよ」

 顔半分を覆うハンカチを防毒マスクの代用にしたコンラッドが、これこそ吐き捨てる。


「でも、この犠牲でペネは護られたんです」

 やれやれ。今度はコンラッドが眉をひそめながら、そっぽを向く。


「なんだか嫁姑だよ」

 そして間を取り持つハメになった洋次はため息をつく。



 バナト大陸の一画。オルキア王国の王都ダキアの王宮内。


「キコロー卿御出立ぅーーー」

 朗々と式典が進行している。

「ご苦労」

 整然と居並ぶ大勢の官僚、高級貴族と、それぞれの代理参列者。


「しばしの別れである」

 最前列の一人一人に声をかけ時には手を握るキコロー。まるで直線。高々とそびえる尖塔のような背高で細身の男だった。

 年の頃は三十代に見えるのだけど。


「しかし」

 王国の要、主席長官のナハトジーク公爵。御年六十を超過した重鎮である。

「閣下」

 さっきキコローに触れた手を従者に清めさせている主席長官。


「田舎に封じた吸血鬼とその稀人のために、こんな式典を催すとはな」

 国の運営を担っている役職者のセリフではない。主席長官の本音の愚痴が届いてしまった列席者は雷同も否定も叶わず沈黙で応えるしか選択肢がなかった。


「見よあの勲章の数々を」

 主席長官主催の式典だから勲章をフル装備した王国官吏が式典の場の中央を堂々と進む。


「王国巡検大使。準閣僚席。枢密院準議員。準騎士。どれだけ彼奴きやつ、〝じゅん〟が好きなのだ」

「しかし、王国の功労者でありますれば」

 主席長官と隣席していたとある老臣がナハトジークの王国の頂点に相応しくない発言の封印を試みる。


「あの口喧しいキコローを王都ここから追い出せるなら、五分五分。いや、採算は合うか」

 口添えした老臣の意見は吹き飛ばされた。


「王国の功臣か。忌々しい吸血鬼も偶然三代前の国王即位の際の功臣の孫だったな」

「御意。なればこその爵位継承、稀人の確認のためのキコロー卿の派遣に御座いますれば」

「功績があっただけの特典は親子で充分だ。違うか? 先代の吸血鬼は王国に何一つ報いずに帰天したのだ」

「閣下。ワルキュラは吸血鬼に非ず、吸血族。つ伯爵位の御家で在りますれば、些かお戯れが過ぎるのでは?」

 なかなか屈しない老臣だった。年寄りの意気に感じたのか言いたい事を吐き終わったか、主席長官のトーンが変調する。


「そうか。過ぎた口は、先ほどの別れの盃の所為であろ。酔っていたらしい、許せ」

「卑官も出過ぎました。御容赦の程を」

 大人の事情と一緒に式典も流れて行く。



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