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127 姉妹の契り


「それはいつですか?」

「またなんですか?」

「まあ、またなんですよ」

 三者三様。バナト大陸に存在するオルキア王国の一地方。サラージュ伯爵領。


 次期伯爵で先代伯爵の娘、ワルキュラ・カミーラは朗らかにお茶会の開催を喜んでいる。吸血族に分類されるけど、吸血鬼とは似て非なる美少女です。

 太陽光を浴びても全然問題なし。十字架も異世界だから宗教的に効果なしだから、普段お話する限りはニンゲンとの違いがありません。ってか、不発に終わった『成人の儀式』で稀人に吸血するポイントだけが吸血族の差別化なんですけど、どうよ?


「度々お茶会など、令嬢も決してお暇では御座いませんよ、洋次」

 時々家令補佐。メインはメイドを勤めているメアリー。エルフ族。なんでも町エルフって区分けらしく、ニホンのメディアで築かれた、森の中で暮らして金属製品を嫌ったりする昔なからの生活スタイルを継続しているエルフを真実トゥルーエルフと呼ぶそうです。


「ですけど、今回のハリス・ペンティンスカ嬢のご結婚の最大の障害を打ち砕けるのは、姫様の御足労に頼るしかなくて」

 御足労は、ぶっちゃけるとお茶会に参加してくださいのお願いだ。どの程度正しい敬語貴族会話か、保証は一切ないけど、それでもそれらしい小難しい単語が流れるようになっている。

 慣れた。習うより慣れろを実感している板橋洋次なんです。


 登山中に、濃霧に迷って、突然〝おちた〟ら異世界に到着していた十六歳の高校生だ。


 『モンスターの歯医者さん』を名乗っているけど真実はテレビやネット、学生としての勉強とサバイバルチートで今日まで乗り切っている。

 こんな彼、洋次を稀人として厚遇しているのがオルキア王国だ。マジ話しだと、大丈夫かって洋次が尋ねたくなる時もあったりなかったり。


「ハリス家が、それは聞き逃せないですね。メアリー?」

 あ、震度二。


「令嬢カミーラ」

 ぷるぷるぷる。

「はい」

 けろり。

「宜しいですか」

 メアリーだって闇雲に反対ハンタイしてない。一にも二にも財政が足枷になっているんだ。

 ファッションに疎い洋次でも、カミーラがお茶会の度に衣装を替えている事情はわかっている。当然、手間暇や出費が必要だ。


「仮に非公式でも、貴族の令嬢同士の席となりますと、ワルキュラ家の不名誉になる事態は避けねばなりません」

「いつも貴女には感謝してます」

 サラージュの、ワルキュラ家の財布じゃあ衣装を新調する余裕はない。多分限られた在庫の衣装で、やり繰りをしているんだろう。


「それをご承知おきならば、メイドの意見に左右などは不要です」

「ちょ、ちょっと待って下さい」

 一歩前進。コンラッドじゃないけど、襟を正す。


「今回は全てお話しします。どうしても乙女が必要なんです」

「お、お・と・め・ですか、洋次?」

 カミーラはぷにぷにしている自分の頬に、白い指を立てる。あ、白いって手袋の白ですから。


「ハリス・ペンティンスカ様を守護している一角獣がいます。フラカラ卿と驚いたことに主人と同列の騎士に叙せられているユニコーンです」

「まぁ。ユニコーンがいるのは知っていましたよ。ねぇメアリー」

「それが如何様に当家(ワルキュラ家)令嬢と結びつくのですか、稀人」

 メアリーは、ちょっとだけ正式な言葉になりました。


「ペンティンスカ様が御成婚遊ばされたら、当然乙女ではなくなります」

「まぁ、でも。ねぇメアリー」

 瞬間沸騰で真っ赤な小顔がメアリーの連峰に埋まる。


「あん」これは失敗。貴族令嬢のメイド、もう格上の侍女に昇格しても構わないメアリーとしてはマナー違反です。


「あの、話し進めていいですか」

 震度三クラスでメアリーの胸が揺れた。これって恥ずかしがってメアリーの胸に隠れたカミーラが頷いた反動でした。


「でもペンティンスカ、ペネ様が乙女のままでは結婚には至らない。これはコンラッドには拷問以上の苦痛だと思います」

「それで、〝手を焼いて〟しまったのですね? ならば仕方御座いませんが」

 あ。それって以前洋次が漏らした、オルキアでは通じなかった慣用句だ。


「ほぼその通りです。それはコンラッド代官に並々ならない協力を仰いているサラージュとしては見捨てられませんね」

「コンラッドとペンティンスカを同時に救う鍵を握っているのですね、洋次」

「はい」

 そうだといいなってレベルが正直なところ。でも、カミーラのご出馬なければ成り立たない作戦なので、そーゆーことにしてしまいました。


「はい。その鍵は気品のある姫君」

 ぽっ。カミーラの純白の頬が紅染まる。


「カミーラ様、お願いします」

「洋次、私がどのように、すれば」

 助けてとメアリーに救援要請光線を発射するカミーラ。


「お茶会の戯れと捉えて半分聞き流して頂けると幸いです。つまり、最近頻繁に出会っている近隣の姫様たち、三名が姉妹の契りを結んでもらいます」

「姉妹?」

「お友達のさらに仲良しって意味です」

「姉妹になれば?」

「ペネが結婚しても、ハリスには妹がいる」

「そのようなその場しのぎがまかり通るとお思いですか、稀人」

 メアリーの震度が収まり、眉が折れ曲がる。


「通るかじゃなくて、通すんです。メアリー」

 ここは虚勢を張ります。本心、滝のような涙ながして洋次だってメアリー連峰に埋もれたいです。睨むじゃなくて、少しだけ目ぇ細めているのが余計怖いんですよ、メアリーぃぃ。


「私は稀人です。そしてフラカラは騎士に列せられている一角獣。この二強が連合すれば、白も黒に。〝ウマも犬も兄弟〟になります。させます」

 キッパリと断言したけど、それってニコの愚痴の流用です。ウマも犬と兄弟ってのは。


「そんな」

「でもご指摘通り、時間稼ぎです」

 メアリーを論破するのが目的じゃない。この豊かで美しい曲線美のエルフメイドさんは想像不可能なほどの責務を背負っている。洋次の本心はカミーラとメアリーにお愛想じゃない笑顔な毎日を贈りたいだけなんだ。


「でも、コンラッドもペネも健全な若夫婦ですから」

「「ま」」

 婉曲表現が通じました。


「ハリス家に新しい女子が誕生するまでの繋ぎだと考えてください。精々五年」

「でも長い五年ですわ、洋次」

「令嬢」

 感度良好。『YES』に傾きかけているサラージュ首脳部だ。二人だけなんだが。


「その為に、また政治軍事的な目的がないとアピールするために、ハリスとサラージュだけじゃなくて、カンコーの連合にします」

「ミーナー様はご婚約は?」

 席に着いている自分の右隣にはべるメアリーに小首を傾げるカミーラ。


「当家はカンコー家の婚約については承知しておりません。その、多分まだなのでは?」

「勝手に想像してもなぁ、でもあの性格だとね」

 ここで軽い閑話休題しました。


「ところでメアリー。ワルキュラには聖剣とか宝剣って保持してますか? 死霊騎士を倒せるくらいの?」

「御座いません」

 言葉の聖剣でバッサリ切られました。



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