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125 老いて朽ち果てるなら


////まあ良い。先日も山狩りに遭ってな。不愉快な想いは懲りておる。なかなか慣れぬがな////

「で、私は洋次。板橋洋次が」

////その名、言葉、チキュウニホンの稀人か。久しぶりだな////

 来た。ついに来た。

 洋次が粉骨砕身、今回の作戦を全力で下準備した理由の一つだ。もちろん、サラージュや、現在ワルキュラ家に好意的に動いている、しかも実力者のコンラッドの依頼もあった。


////ほほぅ。汝、熱を帯びたな////

 稀人でのチキュウ人、日本人の情報を持っている人種。それに相当する存在との出会い。神獣として扱われる事例が多い一角獣は、稀人の知識や接触のある立ち位置にある期待を洋次は託していたのだ。


////如何した。帰りたいか、チキュウとやらに////

 気のせいだろうか。常識的環境なら、とっくに飢え死にしている弱々しいはずのフラカラが小さく首を傾けて挑発した印象がある。


「帰り、たくない」

////ほほぅ。それは本心(真実)であるか? やせ我慢は余だけにするが賢明ぞ////

 ぶるるるる。神獣でもシルエットは出っ張りのあるウマ。長い首を細かく震わせたフラカラの動作は、洋次がテレビで眺めていたウマの動きと大差がない。


「目的に繋がる話しをさせて下さい。フラカラ卿。そろそろお腹空きませんか?」

////空腹と尋ねられたら否とは答えぬ。だが、余に構うな。時が来て死ぬ。老いて朽ち果てるなら、朽ちる前に////

「待ってください。それじゃ困るんだ」

////なにを勝手なことを////

 洋次がフラカラとテレパシー会話をしながら接近している意図はバレバレだろう。それでいい。どうせ普通ならウマの脚力にヒトが適うわけないんだから。


「貴方は適当な口実で飢え死にしても、それで御終いだけど、残されたハリス家の」

////我が姫(ペンティンスカ)をお前が軽々しく呼ぶな////

「そう、そのペネですよ」

////……/////

「おや、前掻きですか? 確か、ウマが戦闘態勢の時にする獣の本能でしたね」

////お前、余に力がみなっておれば、五体を分離せしめるものを////

「へぇ。神獣とか敬われても、結局人格は獣並みですか」

////余を愚弄するか////

「しますよ。だって貴方様は現在、神獣としてもウマとか珍獣としても、どっちつかずだし役立たずですから」

////  ////

 触れられる距離までは後十メートル。今のフラカラとは、これが境界線だと判断して立ち止まった洋次。


「ニホン人をご存知なら、私たちがイメージするところの一角獣ユニコーンの役割を申しましょうか」

////本物本人を前に愚かの極みであろ////

「あ・な・た・が役割を失念しているようですからね。ユニコーンは乙女が好きなのは、どうも誤伝のようで、真実は主従関係か、乙女ペネを守護している。違いますか」

 ウマ、あるいは一角獣の場合はシカトは成立するんだろうか。そっぽを向くフラカラ。


「でも、ペネ。ペンティンスカ嬢が結婚すれば乙女じゃなくなる。そうするとフラカラ卿、貴方は主従関係の契約が切れるかお役御免。どっちにしてもペネとはお別れだ。違いますか?」

////我が君(ペンティンスカ)はもう年頃だ。コンラッド、男の物に成るはやむを得ず////

 当たり、正解、図星、ピッタリ。

 どっちにしてもペネとフラカラには許容不可能な事態なんだ。だからペネはワガママを振り撒いて結婚の先延ばしをしていた。予想通りだけど、謎は解けた。だから歯のホワイトニングなんて、どうでもいい問題だったらしい。


「ハリス家の第一子ペネには妹はいない。弟がいるけど。だから、ペネが結婚すればハリス家には乙女はいなくなるから、どう転んでもペネは結婚できない。ペネとフラカラ(貴方)から離れない為には難癖難題を吹っかけて先延ばししていた。違いますか?」


////そ。

  そうだ////


 かなり相当、偉い間を置いての返答だった。


「それでは、歯が悪いのは?」

////歯をほとんど失ったは真実だ。覚悟致せ////

「おや」

 一角獣ユニコーンフラカラとは会話の必要を感じさせなくなるほどテレパシー通話をしていた。それは、動物語を知らない洋次への配慮だと解釈していた。


「黒い、煙?」

////さてな。逃げるか諦めるなら、まだ刻があるぞ////

 口から黒い煤煙でも噴射しているんだろうか。そんなパフォーマンス的なビジュアルが見れた。


「ふうん。臭いし、刺激的ですね。悪い意味での」

////汝/////

「これって、〝瘴気〟とか邪気ですか?」

////平気なのか? この漂いを嗅ぎ取っていながら、去らぬのか?////

「そりゃまぁ。メアリーやカミーラとの初対面のラッキーイベントの芳しい香りと違いましけどね」

////汝、見た目通りの好色であるな////

「そうですか。これでも品行方正な高校生だったんですよ。匂いに関しては、その最近慣れていましてね」

 有難う、レームとイジ。


////臭いは耐えても、瘴気は如何するのだ、稀人////

「あの、色々な理由で装着しますけど、マスクを許可願えますか?」

 胸ポケットから、マスクを取り出してひらひらとフラカラに見せる。


////どんな算段だ?////

「あの、実は私は稀人特典を利用して『モンスターの歯医者さん』を務めています」

////汝、十六と申したが、真実医師であるか?////

「違います。ですけど、幸いと言っては失礼ですけど、バナト大陸では歯医者そのものが専科では不在ですから、なんとか営業しています」

////詐欺だな////

「まあ、ぶっちゃけますと否定しません。ですけど、我が君ワルキュラ・カミーラと美少女メイド、メアリー、そして私自身のために治療させて下さい」

////であるから、覚悟せよ。どうなっても知らぬぞ////

 ここに来て諦めたのか、首を垂らすフラカラ。


「こちらからお邪魔しても宜しいですね、近づきますよぉー」

 ざっくざっくと草地を進む。

「なるほど、これはいい臭いだ」

///責任は持てぬぞ////

 洋次の到着を待ち侘びたように、地面を這わせる格好の首が軌道する。


「これは」



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