124 痩せ衰えたフラカラ卿
随分、お馴染みになっているハリス家。ワルキュラ家が伯爵家だから、単純に子爵・男爵・準男爵・騎士と身分格差は著しい。でも逆に。
「ねーねーまれびとーー。今日も道ががたごとしてないよーー」
「ああ。結構整備させてるな」
財政の格差は歴然。
「アン。ハリスは大街道が交差する要所なんだ。道路整備の半分は国が負担しているから」
「いえ、国庫の半額負担は年に一度の整備工事の際に限定されております」
馬車には同乗しないで自分の馬で追走しているコンラッドが修正をする。
「じゃあお金持ちだーー」
「アぁーーン。正直すぎるぞ。全く、メアリー、いなくてよかったよ」
今日はカミーラがいないから、荷馬車にて移動しているアン。御者のコダチを挟んで右が洋次、左にアンが座っている。
「それは否定しませんが、これも偏にハリス家の……」
「否定、しないんだ」
言葉でどう繕おうとも経済力の違いは歴然としているハリスとワルキュラ。
「ええっと目的の一角獣様は?」
「確認致しますと、ハリスは西部がサラージュと接して居ります」
サラージュ視点では東隣。
「フラカラ卿は、サラージュ境界とは真逆のハリス東部の森に最近ではお住まいの模様」
「模様、ですか」
「如何にも。何しろ神獣も所詮ウマ。勝手気ままに動く故。必ずしも東部の森、ワオの森と呼んでおりますが、そこに出現する保証はなく」
「一応、緩やかに包囲しては頂いているんですよね?」
「御意のままに。ですからこそ必ずやフラカラを」
「フラカラか。乙女好きなユニコーンってのは初対面なんだけどねぇ」
メアリーが目撃していたら、例え思案顔でも頬杖を咎めただろう。
「マジ、カンベンなんだけどな」
「それじゃあ、先ず私一人でフラカラと対面しますから」
「はい。それでは洋次卿」
「あ、ああ!」
先日体験済みだった。でも、イザ我が身に起きるとパニくりは仕方ないだろう。治療の依頼者であるコンラッドが歩み寄って洋次の胸のボタンを外したのだ。
「こ、、きょん、ラッドさぁあん」
するすると巧みに洋次の胸元に滑るコンラッドの固い指先。明らかに固まりが心臓部分に押し付けられる。なに、これ。
「連絡用の鳩です。ご準備下さい」
「あ、そ」
いい加減慣れろ、なのか。少しは異世界人に慣れろなのか。
「前方に、傾斜っと」
道具一式を背負う。
「このリュックサック、転移してから初めてじゃないか。背負うの」
どさくさに紛れてカミーラに没収されていた。
「チキュウのアイテムを持っていると里心でも沸くと疑ったのかな。カミーラちゃんは」
ざくざく。下草も生えるに任せた草地を進む。チラッと振り返っても、チーム『モンスターの歯医者さん』、あるいは『ハリスの一角獣をなんとかしよう作戦』の仲間の表情はもう読み取れない。
「じゃあ、まずは何処かに隠れている乙女大好きな……」
殴られた。
「ん」
////○て▽し///
「おい、なん」
言葉を言い終えることは難しかった。洋次は見えない空気の拳か何かで頭を殴られたような衝撃で膝から崩れていた。
//// れだ ////
「頭の、響く?」
////やっと通じたか。侵略者め////
「しん。痛い、痛いんですけど」
////ほほぅ。立ち上がるか////
「そりゃもう」
十六歳の普通の高校生が真実の姿である洋次だ。
「マジには未体験だけど、アルコール度数が高い酒を一気飲みしたら、こんなだな。まるで3Dメリーゴーランドだよ。頭グルグル」
////我を隠れるなど卑怯者呼ばわりは赦さぬ////
「あ、ユニコーンのフラカラ卿」
まだ回っている映像に、確かに白いウマ。お約束通り額に天空への槍と表現しても不遜じゃない角が突き出ている一角獣が写っている。
////何度も呼びかけたが、結局こうして隙間だらけの額に話すのが一番手っ取り早い////
つかつかつか。
白馬、じゃなくてユニコーンが歩を進めている。
「馬鹿にした覚えはないんですけど、失礼致しました。あ、私は脳内信号使えないですけど」
////既に散々余と通話しておるではないか。呆けを申すな////
「どうも。でも、フラカラ卿。そのお身体」
「骸骨のようだ、であろう。コンラッドもそう喋っておった」
「でも間違っていません。肋骨が浮いているのは、鍛えたウマでも」
////余を神獣と崇める人種も居る。家畜と同列は不敬である////
「重ね重ね失礼しました」
しかし、洋次は驚くや放心を超過した感情をフラカラに抱いていた。一年前後餌を口にしていなくても、毅然としている。そして、自尊心だけは失っていない。




