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123 ドリルからの


「なんだ、よく考えたらいい道具があるじゃん」

「まあね」

 石膏歯型から、イグ。つまり患畜の歯茎に装填する義歯床を作成する。義歯床を削る道具が、洋次の身の回りに誕生していたのだ。


「ドリル操作の経験値になるし」

「私の制作も可能。凄いね、異世界か・が・く・ってさ」

「まぁ注文通りドリルを作ってくれたレームに感謝だな」

「あ、そこ止めて。じゃなくて私が削るから」

「でも私のドリル」

「いいから、間違えたら枝を曲げるところからやり直しだよ」

「だからって操作中だぞ」

 しまった。ホーローは自分が豊満ボディの持ち主だってポイントに無頓着なんだ。ホーローの跳ねっ毛のくすぐったさと重なる腕の柔らかさが伝わる。


「ほらー。貸しなって」

 ぎゅぃぃん。Uの字型に湾曲した黄楊を削るホーロー。細工師として腕前なのか、巧みなドリルさばきだ。


「ドリルは男のロマンなのにな」

 でも小休止。完成予想図と同等のカルテとホーローの加工品を見比べて、また驚く。


「ホーローもドリル、欲しい?」

「えーー、なになに。足を止めないでよ」

「悪い。電動ドリルなら完璧なんだけど、足踏み式だからね」

 ドリル操作に専念させるため、動力は洋次の足だ。


「残念だけど、これが中世風の限界。でも前進だ」

「なーーに格好つけてんのさ」

「はい。で、もう一度尋ねますけど、ホーローもドリル造ってもらう? もちろん代金は私が払うから」

「えーー。そんなのここに来ればいいから要らないよ」

「でも、イグ以外の患畜が来たら一台じゃ足りないから」

「そうだねーー。考えとくよ」

 洋次ではなく、黄楊と睨めっこしながらだ。


「凄いんだな、細工師って」

 歯の咬合。噛み合わせを快適にするには上下の義歯の微妙な調整が必要になる。その点では細工師の繊細な芸術的な感覚と技量は貴重なスタッフになる。

「ドリル、もっと高速に」

 注文は厳しい。




「歯型の印象材は」

「ウチの在庫の松脂」

「馬の拘束具は?」

「それは、当方ハリス家で準備済みです、稀人様」

「ドリルは?」

「もう解体バラして荷馬車に積んでおる。もう何回も組み立て解体をしているからコダチに任せておるぞ」

「歯ブラシと歯磨き粉」

「ワンセット搭載済みです、洋次」

「ミキサーは?」

「アンといっしょにつんだよーー。果物もつんだよーー」

 さて、今の会話はどこが誰でしょう。ってな無意味な頓智はさておきましょう。


「それでは、結構長目の準備になっちゃったけど、ハリスの一角獣をなんとかしよう作戦を開始します。みなさん、今まで以上のご協力をお願いします」

「「はい」」、「かしこまりました」、「はーーい」、「うーす」

「……宜しく」

 作戦協力者に頭を下げる。


「では、同行叶わぬ身です。辛いので、ここで」

 サラージュ城の正門。ここから一歩でも踏み込めば城外ってことだ。

 最近ではお仕事で洋次が領外に立ち入る許可をわざわざ裁可しなくても平気になっているから、助かっています。


「成功の報せを待っています」

 カミーラとメアリーは今作戦は不参加でお留守番になる。もちろん、一瞬だけ参加したいアピールをほのめかしていたカミーラだったけど、メアリーが鬼否定で取り下げました。


「いってらっしゃいませ」

 不首尾即死。そんなメッセージがこもった視線がビリビリとメアリーから送られる。

「そんな一回二回でコンラッドが」

「でも成功して頂きたい。それは本心です」

「あ、そんな」

 ハードルを上げられて動揺した洋次。


「しっかし、もっといい名前の作戦にできなかったのかい、洋次」

「アン、おぼえられないよーー」

「あっと、その」

「稀人様。何れ結果が全てです。成功さえすれば命名など如何様にもなりましょうぞ。成功さえすれば」

「しなきゃ、ダメなんだ。一発で」

「その」

 お悔やみ申し上げます。そんな顔をしたコダチが洋次の隣、御者台で手綱を握っている。


「ともかくハリスに行こう。そして一角獣とご対面だ」



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