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119 ユニコーンのフラカラ卿


「失礼します」

 すすす。メイドのメアリーは要件のために走る必要があるから、カミーラたちのようにふんわりした裾じゃない。


「メアリー?」

「洋次、コダチが悲鳴を挙げています」

 もっと色気のある耳打ちして欲しいのに、現実のバカバカバカ。


「えっと、今日コダチはわざとらしく歯ブラシ販売をしてもらっているハズだけど」

「予想外の売れ行きなんです。それに使い方の説明も求められます」

「あ、しまった。コダチにも歯ブラシはプレゼントしていたけど、まだ初心者。ハリスの人たちに教えられるレベルじゃないから」

 カミーラとペネにお辞儀をしてコダチの援軍に駆け出す。



 コダチと洋次は売店にトランスフォーマーさせられる馬車で移動していた。なんて事はない。少し堅牢な荷馬車に商品を積載してたのだ。


「もうこれだけ売れた? すごいな」

 サラージュ城内で栽培していた茄子は限られていたから、歯磨き粉の生産量はは瞬く間に売れ切れた。


「姫様や吸血の娘さんみたいな歯になりたいのよ」

「どうして売れ切れるのよぉ」

 女性を中心にした購買層。これも想定と期待通り。


「みなさん、落ち着いて。歯ブラシだけでも虫歯、口臭に効果がありますよ。食事を終えたら、すぐ歯ブラシをしてください」

「ウチの父ちゃんみたいな匂いはイヤなんだからね」

「ですから、食事の後に歯磨きです。最初に口に水を含んでからブラシ。水は吐き出してください、飲まない。そして、ブラシが終わったら歯ブラシは乾燥させて。やりすぎはナンでも逆効果ですよ」

「並んで。そこの女、歯ブラシ黙って持ってかないで」

「ま、まるで闇市だな」

 異世界人のコダチが闇市って知るわけないだろ、洋次。


「でも、お嬢様模範演技作戦は」

「成功し過ぎじゃないですか? はい、お釣りです」

「これが最後のひと束だ」

 歯磨き粉、歯ブラシは完売した。それだけでは留まらないで予約も数件。商品としての歯ブラシと歯磨き粉は、順調なスタートになった。



「お待たせ致しました」

 ポキ。腰が折れたんじゃないかってくらいの深いお辞儀をした。


「ペネ様?」

 お茶会会場だった場所は、順々に撤収の支度をしている。そこまではいい。


「あの、お二人だけですか? コンラッドは」

 洋次は三者面談をする予定だった。でも会場跡地にはペネと老侍女だけ。カミーラ、メアリーのサラージュ組も退場している。

「我が主に代わりお答えします」

 老侍女も深々。


「稀人は〝ユニコーン〟をご存知ですか」

「地球では空想上の生物ですけど。実在するのですね。吸血族と吸血鬼なんて違いはありますけど、知っていると思います」

 基本は白馬、頭部もしくは額に一本槍の渦巻きの角がある乙女大好きウマだ。神獣扱いと通常モンスター扱いは微妙な誤差だろう。


「当家はフラカラ騎士を守護する任務を帯びた名誉騎士で御座います」

「フラカラがユニコーン殿のご芳名ですか」

「左様で御座います。ですが」

 洋次と老侍女の間に割いるペネ。


「ヨナ。有難う」

 つつつ。足音がなくなったって間違えそうな歩みで洋次に向かい合うペネ。そうそう、それから老侍女のお名前が判明しました。


「フラカラはハリス家の存在意義だけの存在ではありません。私には命よりも尊い」

 そんなことない。命よりもなんてご高説を演説する余裕はない。


「私が五歳の折り、愚かにも我が身を守る術を持たない身でありながら野花を摘みに領内の森林に深く立ち入りました。そして灰色単眼アッシュサイクロプスの面前に愚かな身体を晒してしまったのです」

「お話の途中ですけど、フラカラ、き、卿をモンスターの歯医者さんが、僅かでもお救いできるなら、昔話よりも、そちらのお話しをお願いします」

 辛い昔話っぽいし、フラカラを何とかしたいペネを速く救いたい。だから話の腰を折りました。


「それが、フラカラは教えてくれないんです」

「教え、しゃ、喋れるんですか。さすが神獣ユニコーン

「ですけど、かれこれ一年以上食事を摂ってくれなくて」

「一年! 神獣ってスゴい」

「稀人様。数ヶ月ならば珍しい事柄ではありませぬ」

「ヨナ。稀人はフラカラと謁見していないのですよ」

 ここはお嬢様が一喝。白黒混じりのこうべを垂れる老侍女ヨナ


「ユニコーンが食事をしない。だから|私《モンスターの歯医者さん》の出番、ですね?」

「まだご依頼を願うと決定ではないのですが、〝ようじ〟卿」

 あーー。うざったい。



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