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113 白いのたっぷりかけるんだよね


 メアリー震度一。つまりメアリーの肩と、男子の夢の缶詰が揺れている。

「つまりお茶会を開催しろ、と?」

「事業としての『モンスターの歯医者さん』として、是非ご協力を願いたいんです」

「お茶会。ハリス家やカンコー家に笑われないお茶会の開催を求めるんですね」

 それだけ経費が必要になる。例えその()の事業の宣伝のためだとしても。


「まあメアリー。聞いてください」

 震度一、継続。


「今回()諸費用をコンラッドが負担してくれる予定です」

「予定」

 冷静冷徹な確認のお言葉です。


「今回、仮に」

「やはり、仮なんですか。不確かなんですか」

「ですから、仮。仮ですけど、お茶会でこれからお伝えする事業が展開されます」

「どうぞ、お続け下さいませ」

 こわいよぉメアリーぃ。


「まず歯ブラシ。これは量産のための雛形はレーム、実行はホーローが主導して当面は一人雇います」

 コクりと頷くメアリー。抑揚のない物言いをしていても、ジッと我慢すればエメラルドグリーンのキラキラ瞳が、やっぱり綺麗だ。可愛い。


「これに付け足して歯磨き粉の作成。原料が心もとないですけどね、こちらも常時一人雇います。そしてそして」

「な、ななんですもったいぶって」

 少しだけ食いつくメアリー。メイドだけじゃなくてワルキュラ家の、カミーラの家令補佐を兼任する実はスーパー美少女なんだ。


「アンがアイデアをくれて閃いた、思い出したアイテム。これが今回のお茶会のメインです」

「どのような物品ですか」

「このアイデアがどれだけ衝撃的かをメアリーとカミーラに確認したいんです」

「私でお答え適うなら」

「メアリーは王都でメイド経験があるでしょう。是非協力してください」


 そして、それは実行された。



「ねぇアン」

「なーーにーー? メアリーおねえちゃーーん」

 ガタゴトぐらぐら。サラージュ領からハリス領まで馬車で移動中。コンクリやアスファルト、中世風の贅沢、石畳なんて整備された道じゃない。


「そろそろ、客室こちらにいらっしゃい」

「いいよーー。ここは風がきもちいいのーー」

 ど、どん。ぐらぐらがた。


「ほら、揺れたでしょう」

「おもしろいーー」


 解説せねばなるまい。

 今回の欲張り三アイテム売るためにお嬢様お茶会作戦の成功の鍵を握っているのが、アン。食堂ほど大規模じゃないから、食べ物屋を名乗っているニコの娘。言い様によってはアンも料理人見習いの仲間入りしてます。


「あのね、アン。この稀人さんは、ちょぉぉぉっと女の子が好きなの」

「……あのですね」

「アン、まれびとーーすきだよーー」


 三家のお嬢様の一人、ワルキュラ・カミーラに同行しているメイドのメアリーは、御者台の隣に腰掛けている洋次の膝の上で寛いでいるアンを説得中。でもアンは御者台から動かない。


「怖いもの知らずって、スゴいな」

 少し首を動かすと、アンの旋毛つむじが観測日記ができる。


「もう、知りませんからね」

「ねぇメアリー」

「ゼッタイダメ……     !」

 御者台と馬車の客室を取り持つ覗き窓は密着と表現しても間違いがないほど完全に閉じられた。前後の会話とメアリーの過剰な防御行動から、カミーラも御者台に座りたいとおねだりしたんだろう。


「しかし、洋次は人気者ですね」

「そうかな。コダチだってけっこう〝イケメン〟だからモテるんだろ?」

 立場上、ツイ上から目線になってしまうな、イケナイイケナイ。コダチは年上、大人なんだ。


「いや、まだ未熟者です」

「それで、正直コダチは鍛冶屋で師匠マイスターになるのが目標?」

「なかなか仕事がこないと習熟も難しいですから。そうですね。先行きから、鍛冶屋でも洋次のお手伝いでも、どちらでも」

「そっか」

 ミキサー部門を任せる絵図を描くのも悪くない。そんな夢をみてしまう。


「ねぇねぇまれびとーー」

「こら、アン。この人はあまり近づいちゃだめですよ」

 アンを引き寄せるメアリー。


「白いのたっぷりかけるんだよね」

「し、ししし、し、白!」

「でもどろっとしてるけど、あれおいしいのーー?」

「あのね」

 サプライズ効果も作戦の一部だから、詳しく説明できない。そこを狙われて(誰に?)しまった洋次。


「アンねーー。いっぱいごしごしこすったんだよ。ねーーまれびとーー」

「洋次、詳しく話して下さいませ」

「あーー、覗き窓の格子からぁ」

 鬼の形相のメアリーの吊り上がった目が燃えている。


「ねぇねぇ、あの白くて……」

 この直後、一方的なバトルが展開しました。なお、メアリーは風魔法が得意です。



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