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104 カミーラを嫌いにならないでね


「メアリーから伺いましたよ」

 城内を訪れて、メアリーに案内された開口一番は、拍子抜けの一言に尽きた。


「私の歯を調べたいのですね」

「あーーー」

 先日はグリーン系のドレスだった。系と色彩を明示しないのは、洋次が正確な色を覚えていないから。


「本日は黄金色のとてもお似合いのご衣装で」

「ふふお目に適ったのですね。でも、色彩は太陽を吸い込んだお花の色ですわ」

「そんな表現ですか。あの吸血族は」

「稀人」

 洋次とカミーラの真ん中に割り込むメアリー。一応、公式の場に近いので、洋次とは呼ばない。カミーラが主人だし、まだ洋次は公認の稀人ではないので敬称略になる。


「少々覚え間違いがあるようですが、吸血族は稀人のセカイの吸血鬼とは異なる点が多々御座います。日輪、陽光で苦しむような不浄な怪物とは違うと意識をお改めください」

「そうですか。まあご一緒に遠出して今更でしたね」

 ミーナーを治療してコンラッドの覚え、好感度を上げることに集中し過ぎていたのだ。


「それで、どのような?」

「ああ、ブーメラン」

 言葉のブーメランだと痛感した。カミーラにとって洋次はご機嫌を取りたいお兄さんなんだ。自分の牙がないコンプレックスよりも洋次にホメられたい衝動が優ったらしい。


「まず、単純に歯を視せてください」

「はい」

「令嬢、それはキスの際の待機のポーズです」

 目を閉じてなぜか祈るように手を合わせるカミーラを、赤面したメアリーが注意する。


「そうですか、でも歯医者様なんてどの様な作法をすれば」

「その、大きく歯を開けてください」

「ま」

 ぽふ。ぽふぽふ。メアリーの巨峰連山の谷間に顔を埋めたカミーラ。一回お姫様の小さい頭が動く度にメアリーが軽くて、でも甘い吐息が漏れる。余談になるけどメアリーの赤化は濃度が上昇。


「恥ずかしいです」

「では、これにて終了します」

「メアリーぃ。そりじゃマズいでしょう」

「あの」

 赤面するツイン美少女。


「どうしましょう。お口の香水なんて王都でも希少でワルキュラ家ではとてもとても」

「そのままを拝見したいのです」

 礼儀だし、令嬢・伯爵家のお姫様に懇願しているから片膝を硬い石の床に落としている。


「あの、笑いませんか?」

「誓って笑いません。本当に本当、真剣なんです」

「あの、カミーラを嫌いにならないでね」

「嫌いになる理由なんかありませんよ」

「初めての歯医者です。笑わないでください」

「それでは、まずお席に」

「稀人。必要な道具は御座いますか」

 どうも、さっきから医師と患者の会話じゃない。気取られたのだろうか、メアリーが洋次とカミーラに割って入る。


「そうですね。ナプキンを数枚。そしてコップか椀と二個、それに水差しをお願いします」

「それでは一旦」

「まあ退席するのですか」

「令嬢」

 メアリーが道具を揃える間、謁見の間に洋次と二人きりにできないから、カミーラも退席させるのだ。


「待ってます」

 そう言い添えるしかない洋次、これでも『モンスターの歯医者さん』だ。



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