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01 プロローグ・霧

 ずっと不思議だったことが本作の発端です。


『どうして吸血鬼はいつも牙が健康なのだろう』

『どうしてドラゴンはいつも鋭い牙なんだろう』


 その疑問を自分で導くのが、拙作、かもしれません。




 実際に作者が知る限り、現実世界でも歯医者に特化した獣医を知りません。


 なら異世界では、獣医やモンスター獣医はいても、「モンスターの歯医者」はいないんじゃないかなと思いました。


「またか」


 板橋洋次、高校一年生十六歳。お一人様登山中、予告なく霧が発生。おかげで視界がどんどん悪くなっている。


「って天気予報ダメじゃん。コンパスもヤバいし」


 洋次は多分先々月までは所属高校の山岳部々員だった。多分、だったと適当な表現をしたのは、部員たちとの接触が皆無になっている事情のせいだ。


「どこか雨宿りの場所を。いや、座れる場所でいいから」


 登山の大鉄則。なんてものじゃない。入門書とかハウツー物に書いてあった対処法で、道に迷ったり天候が怪しかったり霧が発生したら下山撤退。あるいはその場を動かないで待機と記してあった。


「いつでも今月もお一人様だよな」




 先々月。その時までは間違いなく洋次が所属していた高校の山岳部の恒例行事。大型連休を利用して卒業生と合同でキャンプをする本格的な登山会を実施した。



「先輩、山頂に雲と霧が見えます。下山しましょう」


 薄雲が次第に濃くなり、上空の山頂付近からもやか霧が発生している光景が目に映っていた。洋次は部長たちにコソコソと耳打ちする。


「お前、バカか。先輩が有給使って参加された登山会を台無しにするのかよ」

 別の上級生にも怒られた。

「まだ雨は降ってないぞ」


 洋次は高校入学してから登山部に入った初心者で、一方部長は年季の入った経験者。素人の付け焼刃の知識は速攻却下された。

 でも、そんな僅かな会話をしている間に雲は厚くなり視界も段々と悪くなっている。


「少しヤバくない?」

「霧、ヤバげに濃いんじゃね」

「シャツ濡れてない?」


 女子部員の愚痴の合唱が始まりだした。どうするよ。とお互いの顔色を見合う男子もチラチラといる。


「誰かさんが縁起悪い話するからだ」

「だから下山して、麓の民宿で一泊しましょう。有給を使ってくれた大先輩の『ありがとうございます会』は、そこで」

「だからよ」


 ああ。健康的な白い歯列が不健全に陳列している。


「山小屋の予約はどうすんだ。民宿の金は?」

「でも、なにかあったら」

「はっ。なにか、ねぇよ」


 素人でも登山家が山に唾を吐くなんて。


「この登山会は毎年恒例。登山ルートだって庭みたいなもんだ。多少の霧くらいなんでもない。それに俺の経験と勘だと、なんてことない霧だ。すぐ晴れる」


「でも霧だけじゃなくて」


 洋次の正論は呟きレベルまでトーンダウンしていた。


「ならお前一人残れ」


 洋次は霧が晴れるのを独り待つ羽目になった。実際は登山の強行には洋次以外にも躊躇いの色も散らばっていた。でも恫喝に吸収されて消えた。あくまで霧の発生を問題視した洋次は部長たちから、たった独りでその場の残留を命じられた。


「はん。弱虫が。部なんて辞めろよ」

 追い抜きざまの捨て台詞が洋次を傷つける。

「でも、霧が」



 防水ジャケットをリュックから取り出したとほぼ同時に森の木々が雨だれを謳い始めた。

「やっぱ振ったな」


 やがて霧だけではなく小雨も身体を冷やした。でもじっと独りで雨が止み、霧が晴れるのを待った洋次は登山を再開した。


『霧が出たら下山、あるいは動かない』


 この鉄則を墨守した洋次には下山の選択が最も自然だった。でも、もしかしたら──。


 結構入念に下準備をした洋次でも身体が芯まで冷える降雨だった。だから、もしかしたら誰か、特に女子部員が立ち往生しているかも。確か今年は三人、洋次同様の登山未経験者がいたはずだ。彼女たちにとって登山はハイキングや行楽の延長で、遭難とか死亡とは別次元、異世界のお話しでしかない。


「で、現実に雨だし」

 部員を助けなければ。


「行くか。雨、頂上の方はどれだけ降ったかな」


 汗なのか雨だれなのか、別の水分なのか。何度か額や頬を拭いながら洋次は頭に叩き込んでいたルートを追跡した。もしも──のために。

 もしも立ち往生している部員がいれば、洋次の主張も認められる。


 そして──……。


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