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歪んだ正義

「双子の片割れが、悪さをしている……あんたや仲間たち、アクア様を危険に晒しているんだ。大丈夫なんかじゃない!」

「シュウキが悪い訳じゃないでしょ!?」

「……なんで、なんでそこまで俺に関与する!」

「私は、シュウキに助けられたからよ!」

そう言って、セリナは俺の左腕を強引に掴んだ。華奢な色白の腕で、常に長袖を着ているため日に焼けず白い肌のままな俺の腕を強く握る。真っ直ぐに澄んだ青い瞳は、臆することなく俺を捉えていた。

(助けられた……?)

俺には、身に覚えのないことだ。もしかしたら、兄貴と間違えているのかもしれない。顔も声も同じなんだ。両親ですら、俺たちを間違えていたほどなんだから、他人であるセリナが間違えていても、なんら不思議なことではない。そしてそれを、気にするほど俺も子どもじゃない。

 ただ、負い目は感じている。兄貴は何でも出来る優秀な医者の卵であり、今では敵とはいえ、トップクラスの「戦士」なんだ。落ちこぼれの俺とはまるで違う。双子でここまで違う道を歩むものも、珍しい。

「忘れちゃったんだね……やっぱり。でも、いいの! 私は本気なんだから!」

「何が本気なんだ?」

「そ、それは……」

セリナは顔を赤く染めた。その意味を、俺は悟ることが出来ない。

「セリナ。私情でシュウキを留めてしまってはいけません。彼の人生を大きく変えてしまうのですから」

「でも! 北に帰すの!? シュウキ、また虐められるだけじゃない!」

「その言い方はやめてくれないか……俺が、惨めになる」

俺は頭を抱えた。この少女は、どこまでも真っ直ぐなのはいいけれども、無鉄砲なところもあると感じた。そして、素直すぎるその性格は、ときに残酷なことを突きつける。

「ご、ごめん……そんなつもりじゃ」

「いい。分かってる」

俺はもう一度、重々しく溜息を吐いた。何だか、これでは駄々をこねているのは俺の方みたいじゃないか。でも、神は俺を此処から出したがっている。それは、俺を邪険にしている訳じゃないことも、分かっている……むしろその逆で、俺のことを考えてくれているからこその、判断なんだ。俺は俯いた。

「……シュウキ。正直な気持ちをお話します」

「……?」

神はこれまでベッドに腰を掛けていたがゆったりと立ち上がり、俺と並ぶと俺の両手をそっと握ってきた。

「私はあなたに、此処に残って欲しい。アイルG1のメンバーとして、共に歩む道を選んで欲しいと思います」

「……でも」

「そう、思っていたのですが……ZRのトップクラスに、あなたのお兄さんが居るとなると、私にも、どの道が正しいのか分かりかねるのです」

「俺にも、何が正しいのかが分からない。どうすることが最善なのか、見つからない。でも、俺は此処には居てはいけないと思うんだ」

素直に、俺の気持ちをぶつけてみた。俯いたまま、顔を神から逸らす。直視できないほど、神の瞳は澄んでいた。

「あなたに今、居場所はあるのですか?」

「……」

鋭いところをついてきた。俺は思わず言葉に詰まる。動揺したところで、何も変わらないことは分かっているが、動悸が治まらない。


 いつから俺は、独りになったんだろう。


 いつから俺は、こんなにも弱くなったんだろう。




 はじまりは、七つのときからだと思っていた。俺が七つのとき。当時はまだ親友であったひとの「弟」が亡くなった。どうして死んでしまったのかは、定かではない。だからこそ、親友は何かを「敵」として、自分を保ちたかったのかもしれない。親友は、弟の死因を「俺」だと決め込んでしまった。理不尽でしかない。けれども、当時は幼かった俺には、そこを理解することは出来なかった。いや、理不尽極まりないのだから、大人であっても理解は出来なかったかもしれない。

 それからというもの、口伝で「シュウキが殺した」なんていう嫌な噂が流れ、俺は孤立していった。親友も、俺のことなんて見向きもしなくなったんだ。そのときはまだ、兄貴も居た。兄貴だけは、俺の味方だった。だから俺は、どれだけ学校で蔑まれようとも、なんとか生きていられたんだ。

 だけど、生活はさらに一変することになる。親友はあるとき、珍しく俺と再び遊びたいと、声を掛けてきたんだ。子どもである俺は、喜んで親友の後に続いた。でも、そこは……古びた館で、薄気味悪いところだった。そこの地下室へ行くと、何やら怪しげな臭いがして……直感で逃げなきゃいけないと、感じ取った。でも、もう遅かった。扉は閉ざされ、儀式がはじまっていた。


 呪いの儀式。


 破滅の戦士を、生み出す儀式。


 何のために、破滅の戦士の血を俺に宿らせたかなんて、分かるはずもない。ただ、俺をさらに孤立化させたかったのか……理由は何であれ、次に目を覚ましたときには、俺の左腕には見たことも無い刻印が施されていた。左手首から、肘にかけて、脈打つように刻まれた謎の紋章。それが、破滅の戦士の証であることを知ったのは、それから割と直ぐのこと。


 俺は、当時住んでいたレイガン星北部の小さな町から、姿を消した。


 それと同時期、兄貴も行方をくらましていた。


 はじめは、俺に関係していたのかと思っていた。俺に責任があると思っていた。だけど兄貴がそれから、どのようなルートを辿ってZRに行き着いたのかまでは、まだ分からないけれども、優秀な兄貴のことだ。きっと、殆どの時間を要することなく、入隊していたんだろう。そこで何をしているのか……俺が北の者から虐げられていることを知りながら、何をしていたのかなんて、今となっては知りたくもない。


 双子だからといって、テレパシーが必ずしも使えるとは限らない。


 だけど俺と兄貴は、間違いなく精神世界で繋がることが出来ていた。


 それを兄貴は、敢えて自ら繋がりを絶っていた。



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