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相反する力

「サトキを返してもらうよ?」

「……!」

油断した。動悸がすることに囚われ、動けなくなってしまった。目の前に居る、行方不明だったはずの兄貴が突如目の前に現れ、喜ぶどころか、それは敵として現れたのだから、無理もないかもしれない。そんな俺を前に、戦いなれているのか……それとも、兄貴は俺のことなんて、どうでも良くなっていたのか、俺の左腕をねじ伏せると、後方へと投げ飛ばしたのだ。華奢な身体のどこに、そんな力があるというんだ。

「セイキ、何してたの?」

カヅキだ。クスクスと笑みを浮かべながら、兄貴と握手を交わして、余裕を見せた。サトキと、そしてもうひとりの短髪の少年も、カヅキの方へと向かう。

「あぁ、うん。ここのデータをハッキングしていたんだよ。今日のところは、退こう?」

「ハッキングって……何のデータだよ!」

オウガが立ち向かおうとした。しかし、アクア様がそれを制した。

「オウガ。彼らに刃向かってはいけません」

「あれ? 弱腰になったものだね。まぁ、戦いの神は、僕たちゼルク様の方だから……仕方ないか」

「カヅキ。もういいだろ」

「ミズキ……はいはい、みんな甘いんだから」

もうひとりの短髪は、ミズキというらしい。黒髪ロングのカヅキ。サラサラ茶髪のサトキ。短髪のグレーの髪のミズキ。そして、黒髪にグレーの瞳の……セイキ。彼らが、ZRの恐らくは中枢。一番上の位のチームメンバーなのだろう。


「じゃあね」


 ずっと忘れなかった……ずっと、聞きたかったはずの声。


 その声にて別れを告げる言葉が聞こえた。


 それから暫くは、その場から少しも動くことが出来なかった。


「復旧まで、どれくらい掛かりそうだ?」

ウルフスタイルの少年は、ノートパソコンと睨めっこしながら、外はねの少年の問いかけを聞いていた。

「うーん……全てのデータを抜かれていると考えた方がいいから、一ヶ月は軽くかかるよ、これは」

「そうか……一ヶ月、無防備の丸腰状態ってことだな」

外はねの少年は、重々しく息を吐いた。そして、虚ろな眼差しで冷たい床に腰を下ろしたままの俺と、視線がぼんやりとだが、合った。

「おい、シュウキ。休むのなら、自室で寝てろ」

「オウガ! そんな風に言わなくてもいいじゃない!」

俺の背中を支えている存在が居る。華奢な腕だ。声は甲高く、女性特有のものを持っている。

「この組織のデータなんて持ち出して、彼らは……ゼルクは、何を欲しているのでしょうか」

白いロングドレスを身にまとった、色素の薄い水色の髪の女性は、心配そうに周囲を見渡していた。

「怪我人は、もう居ませんか?」

「はい、アクア様!」

この国の神は、「守護の神」らしく、怪我人の治癒に自ら当たっていた。そういえば、「ゼルク」というものは、「戦いの神」だと黒髪ロングの者は言っていた。相反する力を持っているが故に、争いあうのだろうか。

 もしも、その奪われたデータの中に、神の力の分析結果などが含まれていたとしたら……どうなのだろうか。相手は戦いの神だ。自分には無いであろう「治癒力」を欲しているとしたら、そのデータ欲しさにハッキングすることも、考えられなくも無い。いや、むしろその力をもっとも欲するのではないだろうか。

「……っ」

「シュウキ?」

そのことを告げようと、口を開いたときだ。頭が割れそうな程の痛みが走った。その為、言葉を発することが出来ない。金髪碧眼の少女が俺の顔を心配そうに覗き込む。

「どうしたの?」

「……」

『シュウキ……どうした?』

ナツキの声がする。だが、それと同時に別の声……いや、思考が流れ込んでくる。


《余計なことはしない方がいいよ》


 聞き覚えのある声だ。兄貴の声……兄貴が、邪魔をしているのか? 俺たちは、よく似すぎているほどの一卵性の双子だった。親でさえ、見間違えるほどよく似ていたが、兄貴は俺なんかとは違って、何事にも秀でていて、気づいたときには、医者の卵になっていた。それが、七つの子どもで……だ。

兄貴は、天才だった。何に関しても、何に対しても。だからこそ、その「力」を、その「存在」を欲しているものは、多かったと聞いている。

「シュウキ、オウガの言うとおりだよ。ちょっと部屋で休もう?」

行方不明だと思っていた兄貴が、まさか、ZRなんていう組織のお偉いさんになっていたなんて、誰が思う。それも、こうして心のコンタクトを、いつでも取れる状態であったというのに、兄貴は……俺のことを、これまで一度たりとも助けようとはして来なかった。

 見て見ぬふりをしていたんだ。俺は、もう、何を信じていいのか分からなくなってきた。生まれてきたときから、唯一の理解者だと思ってきたというのに……俺は、とっくに裏切られていたんだ。兄貴から、見捨てられていたと分かった。

「……」

俺は知らず知らずのうちに、その場に座り込み俯いていた。

「……シュウキ」

ふんわりとした、やわらかな声色が耳元で聞こえた。

「少し、眠りなさい」

守護の神に頭を撫でられると、不思議とこころが落ち着いた。そして俺は、そのまま眠りに落ちた。



「どう?」

(シュウキ、怒ってるなぁ……)

「セイキ?」

「あ、うん。今は、眠ってるよ」

「へ?」

「あ……っ」

しまったと、僕は頭をかいた。ついつい、シュウキのことが気になってしまって、データ整理のことよりも、シュウキのことを考えてしまっていた。そのことを悟られまいとしていたけれども、みんなを誤魔化せたって、カヅキの目は節穴じゃない。

「あの子……双子なんだね」

「……うん」

誰が見たって、双子だ。だから僕はこれまで、出来る限り外には出なかったんだ。


 ゼルク様の秘蔵っ子。


 ここ、ZRの主であるゼルク様は、戦いの女神。その戦いの術を全て受け継いだと言われているのが、紛れもない……リーダーであるカヅキでもなければ、副リーダーであるミズキでもない。情報処理担当の、僕であった。

 そういう肩書きもあって、ZRのトップクラス、ライアV1に所属しているけれども、実際戦線には表立って来なかったし、どちらかといえば、こういう情報処理能力や、医療能力を買われて、雇われてもいたから、それで吊りあいは取れていたんだ。けれども今回は、AZにシュウキが居ると分かったから……そして、AZの女神、アクア様の「守護の能力」についての解明を命じられ、僕の力も必要になり、敢えて……というよりは、是が非でも、AZに行かなくてはならなくなったんだ。

 だけど、そんなことを言ったって、僕はこれまでシュウキがどれだけ北部の街のひとに惨いことをされてきたときでも、見て見ぬふりをしてきたことに変わりは無いし、僕がこれからも籍を置くところは、此処、ZRであることに変わりは無いのだから、今更兄面に戻って、変にシュウキに期待を持たせたり、肩入れしたりすることをしない方がいいことは、重々分かっている。そこまで僕も、愚かではないと自負している。

 僕たちZRのV1メンバーも、敵国であるAZのG1メンバーも、皆同い年だ。齢十七。これまでに、各々の人生を歩んできて、たまたま今は、同い年で揃っただけで、十七歳の者が代々仕切ってきた訳じゃない。僕たちの先代V1メンバーの中には、すでに僕は在籍していたけれども、他の人たちは僕より年上だった。

 どうして、世代交代されたかというと、その理由は簡単。ここは、力のある者が勝ち残る組織。ミズキ、サトキが先輩より力をつけて上のクラスに上がってきたんだ。そして、現リーダーであるカヅキが、一番最後にV1に上ってきたメンバーだった。


 その前に、ひとり行方をくらました「先代リーダー」が居たけれども……その存在は、今では皆の記憶から消されはじめている。それは、意図的に……だ。


「で、どうするの? セイキ。戦い辛くないの?」

「やるときは、やるよ」

嘘だ。僕には、シュウキと戦う勇気は無い。あれが、精一杯だ。

「ふ~ん?」

それを、カヅキは見抜いている。そのことに、僕も気づいているし、カヅキも僕が見抜いていることに、気づいている。

「まぁ、いいけどね。いざってときは、セイキは置いていくよ」

「カヅキ……」

嬉しいような、寂しいような、複雑な心境になった。僕は眉を寄せてグレーの瞳を曇らせた。

「それで? データの方は……?」

「簡単には解明出来ない。でも、AZのクリスタル内部の構造なら、直ぐにでも出せそうだよ」

「それはよかった」

黒髪を腰近くまで伸ばしている少年、カヅキは、少し謎に包まれていた。師匠というものを持たないのに、ずば抜けて強い。そして無邪気に見えて、冷酷な一面を持ち合わせている。ちなみに、うさぎのぬいぐるみとつぶつぶみかんのジュースがお気に入りという、子どもっぽさも、残っている。寝るときなんて、いつもうさぎのぬいぐるみと一緒だ。

「まぁ、焦ることは無いだろ? カヅキ」

ミズキだ。グレーの短髪頭にそれと焦げ茶色の瞳を持った少年は、この中では一番の長身。そうは言っても、そこまで抜きん出て背丈が高い訳でもない。ミズキは、知性派ではなく、戦いのセンスがいい。サトキは、僕と一緒でどちらかといえば情報収集能力派だった。色素の薄めの茶髪に、茶色の瞳を持っているサラサラヘアーで、ボブスタイル。それがサトキの特徴。

「そうだよ。AZは終わったも同然」

サトキが楽観的にそう言う中、カヅキだけはそうとは受け取ってはいなかった。

「それはどうかな」

くすっと笑みを浮かべると、つぶつぶみかんの缶ジュースの蓋を開けて、ごくごくと飲みはじめた。

「ふわぁ……美味しい。余裕がないと言えば……セイキも休んだ方がいいね。これ、飲む?」

柑橘系は、別に嫌いじゃない。

「うん、飲むよ。ありがとう、カヅキ」

そして僕は、カヅキのストックからひとつ、つぶつぶみかんを貰った。そういえば、かづきはこのジュースをどこから仕入れているんだろう。レイガン星には、こんな飲み物はない。思い当たるところといえば、昔、僕が家族と住んでいた「地球」という星。

「地球から仕入れてるの? このジュース」

「うん、そうだよ? 地球に遊びに行ったときに、美味しくてついついハマっちゃって」

にこりと笑みを浮かべ、背丈の小さなカヅキは子どもっぽい笑みを浮かべた。カヅキの身長は一六〇も無い。僕は、一六五くらいだから、カヅキより、ちょっとは高い。サトキは更に若干高くて、一七〇程。ミズキは一七五を切るくらい。背丈の関係も、大体AZのメンバーと揃っている。カヅキより、女の子のセリナは背丈が低いくらいで、あとはユウガがサトキくらい。オウガがミズキくらいだった。




 そして、シュウキは僕と一緒。



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