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戦士セリナ

「落ち着いた?」

扉が開くと、そこには金髪の少女が立っていた。缶コーヒーを持って現れたその少女は、青い瞳を持つセリナだった。服装が変わっている。黄色のワンピースから、黒のセパレートのブレザーのような服になっている。左の胸元にはAZのシンボルだろうか。刺繍がある。

「……」

俺はあの後、神の前でしばらく泣き崩れていた。何が悲しい訳でもなく、嬉しい訳でもなく……ただ静かに、涙が溢れてたまらなかった。そのときは、色々なことを思って泣いていたのかもしれないが、今は泣きすぎで頭が痛く、思い出そうとしても思い出せそうになかった。

「……ここ、シュウキの部屋にしていいって」

「……」

二段ベッドの下の段に、俺は座っていた。相部屋ということだろうか。人見知りをするタイプでもないが、誰かと長く居る生活をそんなに経験してきていない為、正直なところ、息が詰まりそうだった。

 その様子を察してか、セリナは俺の隣に座ると上を指差して応えた。

「安心して? ここ、一応相部屋だけど、そのひと今、行方不明中なの。だから、戻ってくるまではシュウキのひとり部屋」

「それは、安心していいのか? 行方不明って……」

穏やかな言葉ではなかった。何かの事件にでも巻き込まれているのだろうか。

「うん……急に、居なくなっちゃったの。でも、大丈夫。籍は空けてあるし……」

「そういう問題なのか?」

「もともと、自由人だったから」

どこか寂しそうな瞳の色をしたと感じた俺は、その人がセリナにとって大切な人なのだと察した。俺は、ふっと重い溜息を漏らすと瞳を閉じ、セリナの手から缶コーヒーを受け取った。話題を変えようとしたんだ。

「この部屋までは、男ふたりに支えられながら来たのは覚えている」

「あぁ、うん。オウガとユウガね?」

どちらが、どちらかは分からないが、外はねの少年と、ウルフスタイルの少年のことだ。

「ふたりは、あんたの……」

「セリナ!」

俺が「あんた」なんて呼び方をすると、セリナはすぐさま怒った顔をして、それを指摘し、訴えかけてきた。

「……セリナの、仲間なのか?」

そういうと、セリナはにっこりと笑って短く「そうだよ」と告げた。髪の毛はバレッタで留めていて、綺麗にアップでまとめてある。

「俺に、AZのことを教えてくれないか?」

「入る気になったの?」

俺のこの人生。七つの運命を迎えたあの日以来、どこかに属することなんて、あり得ないと思っていた。けれどもきっと、ここなら……「あのひと」なら、俺を受け入れてくれると、淡い期待を抱いて俺は、前に踏み出そうとしていた。

「……タダで居座る訳にもいかないし。俺でも働けるのなら、働きたい」

「うん! ママも喜ぶよ!」

そういえば「ママ」と言っていたけれども、誰のことだったのだろうかと、俺は疑問に思った。

「母親って……」

「うん、だからアクア様がね? ママなの」

「アクアさ……まっ!?」

俺は思わず驚きの声を上げた。そして内心で「似ていない」と思ってしまった自分を恥じた。

「あっ! 今、似てないとか思ったでしょ!?」

「いや、その……すまない」

ポーカーフェイスは苦手だった。クールさを気取っているつもりだけど、そういう訳でもないんだ。単に不器用で、いつもどんな顔をしていいのか分からないから、不機嫌そうだとか、無表情だと言われるだけであって、本当はこころに思ったこと等は、顔に出やすい性質だった。

「ま、仕方ないか。方や女神さまだもんね。私は戦士でさ!」

「戦士?」

頭の中で「破滅の戦士」という言葉が繰り返される。だが、彼女からはそんな空気を感じない。それに、戦士の印である刻印も今のところ見当たらない。

「そうだよ? ここ、AZは戦士が集う場所だもの。南半球を護るために、アクアさまを護るために、ZRから護るために戦う者が集まっているの」

「なるほど。それで若者が多いのか……」

戦争が起きていたなんて、知らなかった。俺は、ただひとり。自分だけが忌み嫌われているのだと思っていたが、国同士が争っていたなんて……それは確かに、大人たちも穏やかでは居られないだろう。

 俺は、セリナの姿を足のつま先から順に頭の上までじっくり見てみた。特別に筋肉質という訳でもないし、やはりどこにでも居るような単なる少女だ。けれども、「戦士」といっているんだ。彼女もまた、戦っているのだろう。今はヒールのある靴ではなく、黒のショートブーツを履いている。

「二十歳前後くらいかなぁ……多いのは。シュウキは、十七でしょ?」

「……年まで知っているんだな」

セリナはにっこり笑って、「当然」と答えたが、何が当然なのかが俺には分からない。

「髪の毛、自分で切ってるの?」

「……あぁ」

適当に切っていた。前髪はやや長めで左分け。シャギーを入れながら襟足はやや長く。昔からこのスタイルだ。

「器用だね。あ、缶コーヒー飲まないの? 冷めちゃうよ?」

「そうだな」

俺はせっかくなので、蓋を開けると手の中で温もりを放っていたそれを口にした。ほどよくぬるくなっていて、飲みやすかった。あまり熱いものは飲めない、猫舌だった。

「落ち着いてきたみたいでよかった。オウガもユウガも、心配してたから」

「あのふたりが?」

「うん」

何の関係もないというのに、心配されるなんて……どこまでもお人よしの組織かと、こっちが心配になってきた。もし、こんな平和な組織に災いが起きてしまったら。それこそ、やはり俺が疫病神ということじゃないか。何事もなければよいのだが……。


 俺は、コーヒーを半分ほど飲むと、厳しい目つきで先を見据えた。


 きっと、これから何かが起きる。


 そんな予感がしてならなかったからだ。



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