三題噺 [金貨] [蜂蜜] [魔法使い(魔女)]
西の森には、大金持ちと噂の魔法使いがいた。
その噂を聞いた、村一番のよくばりで卑しい男は、
どうにかその金をくすねることができないだろうかと考える。
「西の森の偉大な魔法使いさま、
どうかあなたの館で働かせていただけないでしょうか」
「食事と住む場所さえいただければ、
それはもう、精一杯頑張ります。
魔法のホウキにも負けません」
そうして男は、
召使いとして、魔法使いの館で働くこととなった。
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あれから少しの間、住み込みで働いているものの、
いっこうに魔法使いの財宝が見つからない。
寝室の掃除をしながら、目を皿の様にして探しても。
地下にある、蜘蛛の巣が張り巡らされた、
物置の荷物をあらかたひっくり返しても。
半ば諦めかけていた男だったが、
ある日のこと―――――――。
「私は、植物たちに食事を与えてくる。
お前は決してこの部屋に入るんじゃないぞ」
そう告げた魔法使いの手には、
金貨がいくつも握られていたのだ。
「えぇ、えぇ、わかりました。
絶対にその部屋には入りませんとも」
やっときたチャンスだと、魔法使いが部屋に入り扉を閉めたところで、
こっそり、その様子を伺うことにした。
魔法使いが扉の近くにいないか、耳をそばだてて確認して、
音を立てないよう、静かに扉を開ける。
少しだけ開いた扉の隙間から、
魔法使いが、部屋の中心にある壺の中に、
金貨を入れている様子が見えた。
壺は――――黄金色に輝く液体によって満たされていた。
あれは、蜂蜜だろうか。
一枚、二枚、三枚―――――――。
入れた金貨の分だけ、蜂蜜は溢れ出てくる。
零れ落ちた蜂蜜は、地面に吸い込まれ、
植物たちは喜んだように、葉や蔦を揺らしていた。
財宝の山は見つからなかったけど、
少なくとも金貨は見つかった!
この部屋の扉には、鍵はついていない。
男は、どうにかして、壺の中の金貨を盗んでやろうと決心した。
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そんなことがあった数日後――――。
ちょうど、魔法使いが出かけている時。
男は、とうとう部屋の中に入ってしまった。
部屋の中央に置かれた壺の底には、
魔法使いが入れていた数倍の量の金貨が。
まるで山のように積み重なっていた。
壺ごと持ち去ってやろうとも考えたが、
どうやら、台ごと地面に固定されているようだった。
どうしたものかと観察しているうちに、
男は、その金貨の輝きに目が眩み、
居ても立ってもいられず、壺の中に思いっきり手を突っ込んでしまう。
金貨を握りこめるまで握りこもうと、
腕を奥へ、奥へと沈めてゆく。
そして――――――――、
男が腕を引き抜いた頃には、大量の蜂蜜が地面へと零れ落ちていた。
植物たちは、いきなり降ってきた大量のごはんに大喜び。
もっとたくさん食べようと、一斉に地面から顔を出し、大きく口を開く。
「ひっ――――――――」
もちろん、そこにいた男は――――――――――――
リハビリ三題噺第六弾
[金貨] [蜂蜜] [魔法使い(魔女)]
グリム童話っぽくしたつもりなんですが、どうなんでしょう。
イメージは割と早い段階で浮かびました。
植物は、某赤帽子の口から火を噴くあいつでも想像してください。
壺に入っている蜂蜜がそんなに簡単に溢れるものなの?みたいに感じた人。
そこは童話なんで、温かい目で見ていただけると嬉しいです。
クリスマスには、初版のグリム童話全集を自分にプレゼントする予定です。
今の時代、ポチるだけで手元に商品が届くんだから凄い。