束の間の休息
初めて入るそこはシュウから見てもガラクタの山としか思えないようなものの山だった。しかしこれらがおよそ値段のつけられないほど貴重なものだというから驚きだ。暗い部屋の一角にそれはあった。部屋の隅っこにシュウもタケルに教えてもらわなければ気にも留めなかったであろう古ぼけた槍が。シュウにはこんなものに伝説の精霊王が宿っているとは思えないような代物だったが今はこれにすがる他に道は無かった。
恐る恐る槍に触る。何も起きない。今度は思い切り握ってみた。すると今までは何も感じなかった槍から強力な魔力が溢れてくるのを感じた。次の瞬間、シュウは真っ暗な空間にいた。そこは全くの無。自分が浮かんでいるのか、落ちているのか、それすらもわからない。しかしあの強力な魔力は変わらず目の前にあった。
『何の用だ、人間』
暗闇から若い男の声が響いた。
「あなたが精霊王ヘリオスか」
『何の用だと聞いている』
「あなたの力が欲しくて来た」
『何の為の力だ』
「何の為?」
シュウにとっては力に理由など無い。ただ任務の遂行に必要だから。シュウにとって力とはそれ以上でも、それ以下でもない。だから答えに詰まった。しかし、シュウがそれに答える必要はなかった。
『お前は力に対する欲望がない。力の意味を知らない。何の為の力?それを返せぬ者に、ただの歯車に興味はない。死ね』
「シュウ様、遅いですね」
ユイとタケルがいるのは城の一角にあるシュウの執務室。シュウが地下宝物庫に入ってから大分経った。もう日が地平線に半分ほども隠れるくらいに。
「あー夕焼けが綺麗だねぇ」
ユイに相づちは打たずタケルは呑気に紅茶を飲んでいる。ユイにはどうもタケルが好きになれなかった。シュウの師匠であり、火の国最強とまで呼ばれる腕を持っている。尊敬に値する人物と頭では解っていながらもこの男の発する空気というか、オーラというかに禍々しさのようなものが混ざっている感じがするのだ。
「第一大隊長殿!聞いているのですか、もうどれ位経ったと思って……」
「ああ聞いてる聞いてるよ、これだけ待って帰って来ないんだ、もう無理かもな」
「そんな……」
「ヘリオスは今までにも何人も挑戦する奴はいたが誰一人帰って来なかった……大隊長クラスの人間がだぜ?俺はあいつならいけると思ったんだけどなー」
まるで他人事である。流石にユイもこれには怒りを抑えることができず、剣を抜く。
「貴様ぁっ」
細剣はまっすぐにタケルの心臓を狙う。しかしユイの神速の突きもタケルを捉えることはできず、剣はソファーに突き刺さった。
「おいおい、俺を舐めてもらっちゃ困るな?」
ユイの首筋に刃が突きつけられる。タケルが好んで使う刀という片刃の武器だ。その薄い刃は剣のように叩き斬るのではなく、純粋に人を、肉を切り裂くことに特化している。
熱い。それはシュウが初めて感じる感覚だった。幼い頃から強い魔力に恵まれていたシュウにとって火とはもはや自分の一部だったのだ。しかし今は身体中が熱い。槍から手を離そうとしてもまるで手が槍に張り付いたかのようで離れない。火が体を舐める。一か八か全力で手に魔力を集中させる。すると何とか手を外すことができた。
部屋のドアが開いた。
「シュウ様!」
シュウはそのまま床に崩れ落ちた。すかさずユイはシュウに駆け寄った。
「まさか戻ってくるとな……じゃ、後は任せた」
タケルは部屋を後にする。しかしユイはそんなことなどどうでもよかった。シュウが生きて帰ってきた。それだけで嬉しかった。
「すまんな、槍は手に入らなかった」
「いいんです。あなたが無事なら……」
翌朝、ユイの献身的な介護の甲斐あり、シュウはすっかり回復した。
「シュウ様、まだ休んでいた方が……」
「いや、だめだ。奴らがあそこから出発するとちょうど明日あたりにリムルを通るはずだ。確実なルートがつかめるのはここを逃したらな無い」
渓谷都市リムル。レミ大陸で最も豊かな街であり、西大陸と東大陸を別つ谷を唯一越えることのできる街である。王女がシュウの憶測通り西大陸の湖の国に渡るつもりならば必ずリムルを通らなければならない。そこならば確実に王女を見つけることができる、そう考えたのだ。
「わかりました」
二人が準備を整え、馬車に乗り込もうとした時、伝令兵が走ってきた。
「ミツヅリ第四大隊長殿に司令部より伝令です!王女は殺すのではなく生きたまま捕らえてこい、以上です!」
「了解した。と司令部に伝えてくれ」
突然の任務変更は突然の状況変化等に伴い割とよくあることだ。とはいえ殺害から捕縛に変わったことには違和感を覚えた。しかしそれが上の意向だ。黙って従う、それ以外の選択肢はシュウには無かった。
リムルに到着するとそこは流石最も豊かな街と呼ばれるだけあり、活気に満ち溢れていた。フライハイトのようにスラム街なども無い。
「まずは宿か」
持って行く荷物は最小限とはいえ、持ったまま街を歩くのは流石にきついし、何より邪魔だ。だからといって馬車にそのままにしておくわけにもいかない。ちなみに服は普通の服だ。軍服では目立つからだ。
宿に荷物を置き、早速街に出る。しかし街は広い上に人でごった返しており、王女を探すのは骨が折れそうだ。
「この中から探すのは大変ですね」
これはあくまで極秘任務のため人手はシュウとユイだけだ。
「仕方ない。ユイは街の入り口で見張りだ。俺は街を探す。一回りしたら合流しよう」
王女達が通るのは明日か、早くても今日。もう着いているということはあれ、既に出発したということはないだろうというシュウの予測である。方針を固め、歩き出そうとしたその時、
「あ……」
ユイの服にスープがかかった。相手は空色の髪と瞳をした少女。
「す、すみません」
隣の黒髪の青年が必死で謝っている。
「は、はい、大丈夫……」
ユイはタケルの時に感じた寒気と同じようなものを感じ、逃げるようにその場から離れた。
「どうした?」
「いえ、何でも……」
ユイにもその寒気の正体が何なのかはわからなかった。
「まあいい。それよりも服、汚れてしまったな」
荷物は最小限にしたため、替えの着替は無い。汚れたり、破けたりしたら現地調達が基本だ。
「仕方ない、買いに行こう」
「すみません……」
二人が訪れたのは少しハイカラな洋服店。理由は簡単、一番近かったからだ。
「シュウ様、私はこういった所に来るのは初めてで……」
「いらっしゃいませ、どのような品をお探しですか?」
女性の店員が店の奥から出てきた。
「その……」
シュウが何か答える前に店員はユイの服の汚れを見つけ、女性もののコーナーに連れて行く。シュウとしては店員が選んでくれるならそれに越したことはないのだが。
「お嬢様にはこれがお似合いですよ」
店員が持ち出したのは水色のワンピース。
しかしそうなると腕や脚が露出することになる。それはユイが嫌だろう、シュウはそう思った。
「いや、それはちょっと……」
「そうですか?ではこれなんてどうでしょう。きっと彼氏さんも喜びますよ」
すると店員はスカート部分が長めの黒いキャミソールと白くて袖の短い半袖のTシャツを持って来た。どうやらもっと露出しろ、と要求していると勘違いしたらしい。これではさっきの倍は露出している。次はどんな服を持ってくるかわからない。そこで仕方なくシュウは自分で選ぶことにした。
「い、いや、いい。自分で選ぶ」
「そうですか?ではごゆっくり」
シュウとて私服にこだわる方ではない。まして女性ものとなるとなおさらだ。そこで無駄とはわかっていながらもユイに好みを聞いてみることにした。
「何か好みはあるか?」
「いえ……」
生まれてこのかた見たことがない綺麗な色や装飾の服に目移りしているようだった。その中でも特に目を惹かれているのは先程のワンピース。しかしそれでは傷も見えてしまうだろうし何より動きにくい。それは任務後に買ってやろうと決め、結局長いズボンと襟のないブラウスと鎧の下に着るような組み合わせになってしまった。
「これでいいか?」
一応確認を取ってみるとユイは目を輝かせて頷く。そして試着室へ向かった。
「あの……」
「よし、行くか」
「……はい」
店を出て数歩も歩かないうちにユイがシュウの袖を引いた。そして躊躇いと、恥じらいとがない交ぜになって俯きながらでこう言った。
「私達も、その、側から見るとそういう関係に見えるのでしょうか」
そういう関係、ユイの言わんとすることは察しがついた。先程の店員の発言が原因だろう。しかしシュウには生憎そういった経験がない。と、言うより興味がなかった。
「分からん、そんな事より任務に集中しろ」
だからそう素っ気なく答えるだけで見向きもしなかった。
「すみません」
それから二人は別れ、ユイは入り口に、シュウは街を歩き回ったが特に大きな収穫を得る事もなく一日が過ぎた。
翌日からはシュウは出口、ユイは昨日と同じく入り口に立った。その日も特に変わった事はなく、時間だけが無為に過ぎた。街に入り口と出口は一つずつしかない。そこから吐き出される雑踏の顔を一人ずつゲートの横で確認する作業。そんな恐ろしく眠くなりそうな仕事の中、シュウは気づいた。あの巨大な竜巻が上がった場所。そこは確か魚人の町があった所だ。ならばそこで船を調達した可能性は?港は火の国が抑えている。だからそれは避けるだろう、そう今までは思っていた。しかしもし、万が一にも魚人に知り合いが居たとしたら?火の国に知られずに渡航することができる。
「ちッ!」
シュウは歯噛みした。完全に手落ちだ。船ならばもう通り過ぎてしまっている可能性もある。確かにシュウの計算は間違っていた。しかしその中にメルクが昏睡していた時間という誤差をシュウは知らない。しかしこの手落ちによって奇しくも結果は的中することになった。居たのだ。今、まさに船に乗ろうとしている人影が、風の国第三王女、ソフィア ルナ レ テンペスタが。ユイを呼ぶのももどかしく、その船に向かって瞬時に巨大な火球を放つ。フライハイトでトウマが放った火球の倍はある大きさのものを。火球が船体に当たり、爆音と、人々の悲鳴を響かせて爆発を起こす。しかし手応えはなかった。直前で脱出したようだ。
船に揺られる。アクランタから出発して一日、
「メ……ルク……」
エリーはまるで干された布団の如く甲板に干されていた。まだ事には至って居ない。彼女の女としてのプライドがまだ勝っているというわけだ。そう。船酔いである。恐らくソフィアに『甲板に出て風に当たってきたらどうですか?』とでも言われたのだろう。しかし甲板に出たらメルクが居た。エリーの事だ、ソフィアにこんな醜態を見せたくはない。しかしメルクにも見られたくない。さっきの唸りは早く出て行け、という意味なのだろう。そうメルクは解釈し、船室へ入った。メルクだってエリーに恥をかかせたい訳じゃないし、一人ならば有事の際に少しは気が楽だろう。そんなメルクなりの気遣いだった。
「メルクさん」
そう話しかけてきたのはクク。何を聞かれるかはもうわかりきっていたメルクは先に回答する。
「あと二十日くらい。東大陸の方がでかいからまだかかるぞ」
ククもエリーを見ていられなかったのだろう。二十日、確かに長いがそれでも歩いて行ったら途方もない日数になっていた訳で。そう考えると大分短縮されたと言えよう。でもこのままではエリーがあまりに不憫なので途中に寄り道をする事にした。つまりリムルだ。そこにならあと一日も経たずに到着する。そこでエリーを休ませよう、メルクはそう考えた。
流石噂に聞く渓谷都市リムル。船着き場からとてつもない人と物の数。
「す……凄いですね……」
一人は目を丸くし、
「私も初めて来ました……」
一人は目を輝かせ、
「……」
一人は未だダウン中、
「わーい!久しぶりの外だー!」
一人は飛び周り……?
「おいシル!何勝手に出てきてんだよ!……えっとこれはだな……」
メルクはシルがソフィア達に自分について説明したことを知らない。だから慌てて説明を始めようとした所にシルがソフィア達は自分を知っている、ということだけ、をを明かした。
「ったく、俺が寝てる間に……」
やれやれ、と首を振る。
「ならいいや、ソフィア、クク、街を回ってこいよ、俺はエリーが復活するまでここにいるわ」
「それなら私が……」
言いかけたソフィアの言葉を遮るように、ククはソフィアの腕を引っ張って街へ繰り出した。
「メルク……ありがとう」
「ソフィアも少しは休んだ方がいいだろ」
しばらくの間道行く人々を眺めていたら幾分酔いも治まったらしい。元気にソフィア達の後を追いかけようとエリーは言ってきた。
「メールクー私も遊びたいー」
「あーわかったわかったよ」
二人に押し負け、メルクも腰を上げる。街をソフィア達を探しつつ散策していると屋台から美味しそうな香りが漂ってきた。作っているのはスープ。強い日光と人々の熱気で蒸し暑いがそれでもスープは食欲をそそる。
「美味しそうだね」
ぼーっと煮え立つスープを眺めているシル。
「これください」
「え?いいよ私は……」
でも欲しかったんだろ、とシルに熱いスープの入ったコップを渡す。それをシルが受け取って……
「あ……」
とはいかなかった。メルクの手から離れたコップはシルの手をすり抜け、通りかかりの人に直撃してしまった。
「す、すみません」
とっさにメルクは頭を下げる。しかし相手は何も言わずそそくさと行ってしまった。まるで何かから逃げるように。
「ごめんね、私うっかりしてたよ、まさか自分の体が無いことも忘れるなんてねははは」
「シル……君の体は……」
エリーがおずおずとシルの肩に手を触れようとする。しかしその手は空を撫でるばかりだった。目にはしっかりと映っている。声も聞こえる。髪の微かな太陽の香りだってする。でも触れないのだ。実体が無い。これが概念の存在なのか、とエリーは思った。言われた時はまるでちんぷんかんぷんだった言葉。しかし今はその意味を肌で感じ取っていた。
「スープ、無駄にしちゃったね……ごめん」
無理矢理作った笑顔。メルクはその目尻に微かに涙が浮かんでいたのを見逃さなかったし、エリーはその笑顔の裏で何かに耐えているような脆さを感じ取っていた。
街を歩いているうちにとうとう入り口近くまで来てしまった。ちょうど街の半分ほど回ったことになる。
「おいエリー、ちょっと来い」
メルクは突然エリーの袖を引っ張ってそばの飲食店の中に引っ張り込んだ。
「お、おい何だ突然……」
「あの入り口の所、見てみろ」
エリーは入り口の門の辺りに視線を流すが特に変わった様子はない。何の変哲もない雑踏が行き交っているだけだ。
「何かあるのか?私にはわからないが……」
「門の下、よく見てみろ、さっきシルがスープぶっかけた奴がいるだろ」
言われてみれば先程の少女が門の下に立っていた。服は着替えたようだが。
「あの子がどうかしたのか?」
エリーは未だ合点がいかないようだ。
「あいつは火の国の兵士だな、さっきからずっとあそこに立ってる」
エリーの表情が一気に強張った。何せ今はソフィアと別行動しているのだ。ソフィアの側にはクク一人、幾ら獣人族と言ってもククは戦闘訓練など受けてはいない。襲われたらひとたまりもないだろう。エリーは無意識に腰の短剣に手を掛けた。
「おい待て待て、今騒ぎを起こしたらソフィアまで巻き込むことになる。あいつがどこかに行くまで待つしかないだろ」
エリーはむーっと頬を膨らませていたが昼食を食べ終わった後も少女が動いていないのを見ると諦めたようだった。
そうこうしている間にも日はどんどん沈み、最後の一欠片も地平線の彼方に消えた。当然のように店は一斉に閉まる。空いているのと言えば宿くらいだ。
「仕方ねえな、今日はここに泊まろう」
メルクはとある宿の『お泊りコース』なるものを注文した。
「お、おい本当にここに泊まるのか?」
部屋に入るとエリーはメルクの袖をぎゅっと掴んだ。いくらエリーと言えどここが何をする場所かくらいは知っていた。
「ベッドはお前が使えよ」
「じゃあメルクはどこで寝るんだ?」
「そら床しかないだろ」
早くもメルクは床に寝転がり、寝る準備を始めた。エリーはしばらくの間自分の中の何かと戦っていたが、
「ベッド……使ってもいい」
「は?」
エリーのまさかの発言につい間抜けな声が漏れてしまった。
「だから、変なことしないなら……」
顔を真っ赤にして、手をもじもじさせながら。そこにたどり着くまでに一体どれくらいの覚悟をしたのがメルクには計り知れなかったがそれでもエリーの精一杯の気遣いを無下にすることはできなかった。
「じゃ、お言葉に甘えて」
「い、言っておくが何かしたらただじゃ済まさないからな!」
「メルク、ねえメルク、起きて」
夜もすっかり更けた頃、メルクの耳元で声がした。
「ん……シルか?なんだよこんな時間に……」
起き上がりつつあくび交じりに応える。しかしシルの目はいつになく真剣だった。
「どうしたんだよ」
外は雲がちらほらと見えたがそれでもその隙間から細い月を見る事ができた。
「昼間の兵士なんだけど」
「あの門のとこにいた奴か?」
シルは黙って頷いた。
「……あの目……何されたらあんな風になるんだか。それに一人って事はないだろ、仲間がまだいるはずだ」
「ここで戦いになるのかな……」
「相手がじっとしててくれなきゃな、多分……そうなる」
シルの目に暗い影が落ちた。
「悲しいな」
「ま、襲われないのが何よりなんだけどな」
「うん……メルク……後悔、してない?」
「え?」
後悔、メルクは一瞬その意味がわからなかったがそれはあくまで一瞬、すぐにその意を理解した。
「別に?」
メルクの答えが意外だったのか、はたまた予想通りだったのか、シルは問いを続ける。
「本当に?力を使う度に命を削って、体の中に私を抱え込んで……」
「それでも俺はこれで良かったと思ってる、お前がいなきゃここまで来れなかったよ」
メルクはシルに笑いかけた。
「……そう、それが聞けたら十分」
夜が明けた。カーテンの隙間から眩い朝日が射し込む。一面ピンク色の壁紙に目がチカチカさせながらメルクはエリーを揺り起こす。
「おい起きろ、もう朝だ」
それから数秒と経たないうちにエリーはむくりと体を起こした。職業柄体の目覚めはいいようだが頭は未だに熟睡中のようだ。焦点の合わない目で部屋を見渡す。
「いやー、エリーも大胆だねー、まさか寝ぼけてあんな事するなんてー」
シルのその発言を聞いた途端、はっと目を見開き、身を守るように腕で体を抱く。
「何もしちゃいねーって、シル、あんまり煽るな、ほらエリーも冗談を信じるなって」
宿から出て数分、ソフィア達とは船着場のすぐそばの食堂で落ち合った。
「どうだソフィア、昨日は楽しめたか?」
「はい、ありがとうございます。ククさんにも大分お世話になりました」
「そ、そんな……私も楽しかったです。でもメルクさん達は昨日どこで寝たんですか?宿には帰って来なかったですよね?」
メルクが普通の宿だ、と誤魔化そうとしたがそれよりシルが一瞬早く、
「ククちゃーん、それは聞いちゃいけない領域だよー、何?それともそれなりの覚悟はあるって訳?」
実に楽しそうである。
「いやいやいや違うから!ちょっとやむに止むに止まれぬ事情があってだな……ってシル!嘘吹き込むんじゃない!エリーも何か言ってやれ」
慌ててメルクはエリーに話を振る。エリーのいつもの調子ならメルク以上に強力な否定を出してくれるはずだと思った。事実何もなかったのだから。……なのだが肝心のエリーは少し顔を赤らめて
「いや……うんそうだな、何もなかった、うん」
などと言って髪を弄り始めた。なんとも歯切れが悪い。いやそれどころではない。何せ隣でシルがニヤニヤ笑っているのだ。ククなどはすっかり乗せられて尻尾がぴんっと立っている。
「エ……エリーさん、ついに大人の……」
「昇らないから!何も昇ってないから!」
なぜかメルクが終始ツッコミに回る始末。しかしそこで丁度良く料理が運ばれて来た。そこで一旦話の腰を折ることができたとほっと胸を撫で下ろすメルクだった。
食事を終えると船の積荷が終わったという知らせが入った。
「もうこの街ともお別れですね……」
ソフィアが名残惜しそうに呟く。
「ま、ほとぼりが冷めたらまたくればいいさ」
後ろ髪を引かれる思いを胸に閉じ込め、船に足を踏み入れようとしたその時、ククの耳がピクッと動いた。
「飛び込め!」
「みんな!」
メルクとククが同時に叫ぶ。その直後、今まで四人がいた場所、そして船、桟橋が跡形もなく吹き飛んだ。
こんにちは!今回はシュウ達にスポットを当ててみました。シュウとユイは書いてて楽しいです。どちらも無口?というかクールキャラなので会話が進まなかったりもしますが……
最近、テストがありました。結果はお察しです。どうにかしないととは思いつつも遊んてましまう自分……皆さんは勉強の工夫ってしてましたか?教えていただけたら幸いです。
それではまた!