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風の唄  作者: けんじ
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二人の人魚

「にしてもでけーな」

海面からは触手の部分しか出ていないが、それだけでも直径三メートル以上はある。

『多分本体はまだ海中だね』

「引きずり出すしかないかー、よっと」

メルクが手を一振りすると巨大な風の刃が現れ、霧を切り裂き触手の一本を真っ二つにした。しかしその直後、切り口から新たな触手が生えてきた。

「再生スピードが速いな……物量で押し切るしかないか」

さらに手を振ると先ほどの刃が無数に現れ、触手を切り刻んだ。しかし触手は切った端から次々に再生するのできりがない。さらに切り刻まれながらも執拗にメルクに攻撃してくる。それを躱しつつ、刃を作る、作っては切り、切っては再生し、また作る。その繰り返し。それでも触手は終わることなく触手を繰り出してくる。消耗戦になったらメルクが圧倒的に不利だ。その上視界も最悪だ。メルクも次第に息が上がり始めた。

「く、そ……あいつ底なしか?」

『どこかに魔力の供給源があるはず。でなければこんな再生ありえないよ』

「このっ!」

苦し紛れに海面に特大の刃を打ち込む。手応えはあった。しかし触手の動きが衰える様子はない。それどころか海中から新たな触手が飛び出てきた。

「やべっ」

メルクはすんでのところで躱すが、その新しい触手は他のものより長い。イカに例えるなら腕の部分か、その触手に体を絡め取られてしまった。万力の力で締め付けられ、体が潰れる音が聞こえる。

「〜っ」

言葉にならない呻き声を上げる。それでも触手を切り、なんとか体勢を整える。

「し……シル」

『わかってる!』

フライハイトの時と同様、まるで時を巻き戻したかのようにメルクの傷が癒えていく。

「や……べ」

しかし今度は頭を抑えて海面へ降下していく。

『メルク!大丈夫?』

あれからもうとうに五分など経っていた。メルクの体は限界にきていたのだ。そのまま海に沈む。海の中で風の魔法は使えない。使えたところで今のメルクにはできない相談だが。口から、鼻から空気が漏れ、体も動かない。あの海藻を食べてからもう二十四時間。水中で息をすることはできない。海面がどんどん遠くなる。光が遠くなる。意識が……

メルクの瞼が閉じられようとしたその時、人影が目の前に現れた。海中からでは逆光でその顔を見ることはできない。その人影はメルクに近づき、口付けをした。メルクは体内に何かが、温かいものが流れ込んでいくのを感じた。メルクには顔は分からずともそれが誰なのかわかる。

「カ……リン?」

「こんな事するの、あなたが初めてなんだから……もし伝説が本当だったら……責任、とってよね」

そう言ってメルクの背中を押した。力は強くない。でもとても力強かった。前に進む勇気をくれた。

「お姉ちゃんを、助けて」

「シル……まだ……出せるよな?」

『もちろん!』

腕を、足を、最後の力を振り絞って動かし、急浮上。今まで生きてきてここまで空気を吸うという事が幸せに感じたのは初めてだった。

「いくぞ」

メルクは右手を前に突き出す。

風が、凪いだ。

「シル、お前の剣を、俺によこせ」

開いた手のひらに光が集まる。それは風の精霊。それが形を成す。それは剣。精霊を集めて形を与え、武器とする、王にのみ赦された魔法。精霊の力の結晶、精霊具。

さらにメルクは左手を触手、いやその下の本体に向ける。

「てめえのツラ、拝ませろや!」

左手を勢いよく振り上げる。地響きが鳴り、凪いでいた風が勢いよく吹き荒れる。その風で辺り一面の霧が吹き飛んだ。風はどんどん強くなり、竜巻よりも、嵐よりも強く、激しく吹き荒れる。そして海中にいた触手の本体、クラーケンが巨大な水柱を上げて空へ吹き上がった。十七本の触手とタコのような頭、下から見るとわかる巨大な嘴。見れば見るほどおぞましい生き物だった。

メルクはさらに高く飛び、剣でクラーケンの触手を斬る。一つ、また一つ、その動きを目で追う事はもはやできない。風よりも速く舞い、嵐よりも強く剣を振るう。再生するよりも早く。その姿は風の国の神、アイオロスそのものだった。触手を全て斬られ、巨大な頭だけとなったクラーケンにメルクは剣を突き立てる。そして静かに囁いた。

「なあエレン、もう自由になっていいんだ、カリンは一人でも生きていける。だから、もう楽になってもいいんだ」

剣から伸びた竜巻が頭を内部から破壊する。

それを見届けるとメルクは再び力なく海へと落ちていった。

そのときククは弾け飛ぶクラーケンの肉片の中に何かキラキラと輝きながら沈んでいくものを見つけた。光を追いかけていくとそこにはクラーケンの触手に刺さって抜けなかったあのメルクの剣があった。



「ミツヅリ様、あれは……」

荒れ狂う暴風、跳ね上がる巨大なタコの怪物。そしてそれを肉片にした一人の風使い。

「ああ、あれが風の国の生き残り、か」

そう、これからシュウが排除を命じられるであろう人物であり、トウマの仇でもある人物。

「ですが逃げたのは第三王女とその侍女の二人であったはずです。第三王女はあれほどの魔力は持っていなかったはず、侍女がエルフ族でもない限り……」

いや、シュウの記憶では一人だけ、思い当たる人間がいる。いや、『いた』。当代最強と呼ばれた前国王を超えたと云われ、今では既に処刑されたはず、の人物が。

「ユイ、帰るぞ」

シュウは手にしていた望遠鏡をしまい、馬車に乗り込んだ。『このままでは足りない』そう感じながら……



カリンとエリーでメルクを抱えて血まみれになっていたベッドに寝かせた。一通りの治療を終えると全員の視線がカリンに集まった。

「カリンさん、教えていただけますか、以前この町で何が起きたかを」

カリンはしばらくの間ためらっていたがついに口を開いた。

「ククはもう気づいているみたいだけど、メルクは以前、二年前にもここに来ているの。その時はこの町はもっと大きくて、今の二倍くらいはあったかな……」


ー二年前ー

「お姉ちゃん、海岸に人が……」

いつものように姉、エレンと散歩をしていると砂浜に青年が倒れているのを見つけた。

「何?本当だ」

「どうしよう?怪我をしているみたいだけど……」

「うちで手当てしてあげよう、カリン、精霊草を持ってきて」

精霊草は食べた者に一時的に水精霊の加護が与えられるという不思議な植物だ。その精霊草をすり潰して青年の口に流し込む。そして家まで連れ帰り、傷の手当てをした。傷は深く、すぐには完治しそうになかったが、青年は二日ほどで目を覚ました。

「あ……ぐっ」

青年は目を覚ますなり上半身を起こそうとする。しかし傷が痛んだのかすぐにまた倒れた。

「だめだよまだ起きちゃ、あなたの傷、かなり深かったんだから」

「ここ……は……」

「ここはアクランタ。あなたは砂浜に倒れてたの。覚えてない?」

「人……魚?」

青年はエレンの下半身を見て、驚いたように目を見開く。

「そう。私の名前はエレン。あなたの名前は?」

「俺はハー……いや、メルク。メルク ハインライン」

「そう。じゃあメルク、だね。私のこともエレンでいいよ。それより……」

「お姉ちゃ……きゃっ」

部屋に入ろうとしたがメルクが起きているのを見て驚いたのか、慌ててドアの陰に隠れてしまった。

「あの子はカリン。私の妹なんだけどどうにもあなたを怖がっててね……ほら、あいさつしなさい」

姉に急き立てられ、ドアの隙間から少しだけ顔をのぞかせるが、

「カリンです」

とだけ言って走り去ってしまった。

「ごめんなさい、あとでちゃんと言い聞かせるから……それより、お腹空かない?」

メルクは首を縦に振った。

「ちょっと待ってて、今何か作ってくるから」

そう言って部屋から出ていった。

ほどなくしてエレンは匂い立つシチューを持って来た。

「これはエレンが?」

「当たり前でしょ、でなきゃ誰が作るの。ほら、あーん」

「いやいや、自分で出来るって」

「嘘言わないの、まだ腕もまともに動かないのわかってるんだよ」

そう言って強引にスプーンをメルクの口へ運ぶ。ついにメルクも根負けして黙って口を開いた。

「……うまいな」

「そう?よかった。地上の人の口に合うか心配だったんだー」

それから十分もかからずシチューの器は空になった。


数日後、メルクはドンドンと手荒く家のドアを叩く音で目が覚めた。

「はいはーい」

エレンが出る音が聞こえた。メルクは立ち上がり、部屋のドアを開けてみると何か怒鳴り合う声が聞こえた。

「おいエレン!お前地上の人間をこの町に入れるとは何事だ!」

「そうだ!もし伝説が本当だったらどうするんだ!魚人族の恥だぞ!」

「だから!伝説は伝説であって、もし、も何もないの!それに、怪我してた人を放っておく方が恥よ!」

そして数分間口論した後、エレンは乱暴にドアを閉めた。

「お姉ちゃん……やっぱりあの人は帰した方が……」

「大丈夫、心配しないで。あと、今後絶対にそういうことは言わないこと」

不安げな顔をするカリンの頭をエレンは笑顔で撫でた。

「エレン」

「メルク、聞いてたの?」

「まあな、もう俺は帰るから、今まで世話になったな」

そう言ってドアに手をかけるメルクの腕を後ろからエレンが掴んだ。

「だめ、まだ全然傷が癒えてないのにこのまま帰すなんて私のプライドが許さないもの」

「でも俺がいると……」

「心配しないで、私はこう見えても強いんだよ?ほら、気を取り直してご飯にしよ」

そしてまるで何事もなかったかのようにエレンはキッチンに入っていった。リビングに残されたのはメルクとカリンの二人。

「私は、あなたを認めるつもりはないわ」

二人、リビングで気まずい時が流れる。そんな時、

「カリンーそこの棚からオコロンのエキスをとってくれない?」

その瞬間、ビクッと電流が走ったかのように素早く立ち上がり、カリンは棚に手を伸ばす。

「んー、んー」

しかしカリンでは身長が足りず、目一杯背伸びしても瓶に手が届かない。

「ほれ」

メルクが瓶を取って渡すと、カリンは顔を真っ赤にして、

「こ、こんなことをしても私はなびかないわよ」

と、言ってキッチンへ走っていった。


食事が終わり、一息ついているとキッチンから甘い香りが漂ってきた。

「みんなー、食事のデザートができたよー」

エレンが持って来たのは美味しそうなカップケーキ。早速カリンが手にとっている。

「ほら、メルクも食べて」

メルクも一口食べてみる。美味しい。今までに食べたことがないほど美味しかった。あまりの美味しさにメルクが絶句していると、

「どう?お姉ちゃんのカップケーキは最高なんだから!」

なぜかカリンが嬉しそうにしている。

「ほらほらメルク、早く食べないと私が全部食べちゃうぞー」

エレンが食べ始めるとみるみるケーキが減っていく。

「あ、こら一人で食べるな!」

メルクもあわててがっつく。

「もう、私の分も食べないでよ?」

みんなでわいわい言いながらケーキを食べているとたくさんあったケーキもあっと言う間になくなってしまった。

「ちょっと、あんた聞いてる?食べ過ぎなのよ、私の分まで食べちゃって」

「文句ならエレンに言えって、エレンが一番食ってたろうが!」

「ふふっ」

エレンが思わず笑みをもらした。

「エレン?何がおかしいんだ?」

「メルクが初めて笑ったな、って思って」

メルクが目を覚ましてからもう幾日も経つが確かに笑ったのは今日が初めてだった。


その日の夜、

「あっ」

「エレン?どうした?」

「オコロンのエキス、さっき使い切っちゃったの忘れてた、ちょっと買いに行ってくるね」

「いいよ、もう暗いし。エレンの料理ならそのエキスがなくても美味いって」

「だーめ、料理は妥協したらおしまいなの」

この時点でメルクは何か嫌な予感がしていた。しかしそれはあくまで予感であり、確信は持てないでいた。

「じゃあ私も行く」

カリンもメルクと同じ予感を感じていた。

「そう?そんなに心配しなくてもいいのに」

そう言ってエレンとカリンは夜の帳へと、足を踏み出した。


遅い。あれから一時間、往復で二十分もかからないところに店はあるはず。しかも今は夜なのだ。早めに帰ることはあれど遅くなることはないはずだ。先程の嫌な予感がメルクの頭をよぎった。体は動く。頭も働く。剣もある程度なら扱えるだろう。メルクは二人を探しに夜の闇に向かって駆け出した。

「無事だといいんだが……」

まず向かったのはエレンの行きつけの店。調味料専門店だ。家から歩いて十分もかからない。

「エレンがどこに行ったか知りませんか?」

店員はメルクの足を見て驚きと、少しの興味でしばらく表情が固まっていたが、

「もう三十分以上前に買い物をして出て行ったよ。家には帰ってないのかい?」

昼間の男達とは違い、メルクに偏見を持っているという訳ではないようだ。結局有用な情報は得られなかったが、これでますます嫌な予感が現実になろうとしている。何か事件に巻き込まれたのではないか、不安に急き立てられメルクは足を速めた。探すあてなどなかったが、それでもじっとしてはいられなかった。予感。そう予感だ。現実じゃない、ありえない。そう自分に言い聞かせながら……

唐突に地をかける足に何かがぶつかった。何か固いもの。コロコロと転がるそれを追いかけ、手に取る。何かラベルが貼られているようだったが、暗くてよく見えない。しかし感触はまるいビン。街灯の下まで行って光にかざしてみる。『オコロンのエキス』そう書かれていた。

「メルク……なの?」

路地から声が聞こえた。弱々しく、今にも消え入りそうな声が。メルクは暗い路地を覗き込んだ。

「エ……レン」

そこには一人の人魚が横たわっていた。変わり果てた姿のエレンが。

「ここで……何があった?」

返事はない。メルクは家へと走った。エレンを抱き上げた腕と服にべっとりと血が付いたのを、腕の中でみるみる温もりが消えていくのを、感じながら。


家へと入り、ベッドに寝かせる。その時初めてメルクはエレンの顔を見た。そこには以前の美しさの欠片もなかった。大きく晴れ上がり、血を流して原型を留めていない顔。全身傷だらけで所々骨も折れているようだ。

メルクが治療をしようとすると、エレンが服の裾をつかんだ。

「カリンを……助けて」

「カリン?カリンはどこにいるんだ?」

今まではエレンを運ぶのに必死で忘れていたが一緒に出かけたはずのカリンが見当たらない。

「お願い……」

それだけ言うとエレンの腕は力なくベッドに落ちた。メルクは一瞬迷ったがエレンを寝かせたまま家を後にした。


「はあっ、はあっ、はあっ」

走る。走る。走る。灯りもない街を。闇雲に。わけもわからず。歩き慣れているはずの町なのに道がわからない。怖い。寂しい。しかし走るのをやめたらもう動けなくなることくらい私にもわかる。涙で視界が歪んで前もよく見えない。

「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」

逃げる。逃げる。逃げる。

突然壁にぶつかった。水の壁に。一度止めた脚はもう動くことを拒否して言うことを聞かない。

「よぉ」

さっきの魚人だ。

声が出ない。恐怖と、疲労で、助けを呼びたいのに。

(たす……けて)

「てめえらみたいな魚人の誇りを捨てた者には罰を与えなければならない」

返答は非情だった。

(たすけて)

精霊が震えたのを感じた。

(たすけて)

ぎゅっと目を瞑る。これから何をされるか、そんなことは考えたくなかった。

「た……す、けて」

「ほいよ」

水がぐらり、と揺れるのを感じた。

恐る恐る目を開けてみる。そこには見覚えのある背中。さっきまでそこにいた男の姿はなかった。

「ほら、帰ろう」

手を引かれる。それは大きくて、温かくて、安心できて、思わず涙が出た。それを隠すように私は胸に顔を埋めた。メルクは黙って頭を撫でてくれた。


「お……お姉ちゃん!」

カリンは横たわるエレンに抱きついた。エレンは優しく頭を撫でている。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

「いいの、私はカリンが無事ならそれで」

「ごめんなさい……」

「メルク、ありがと。カリンを助けてくれて」

それだけ言うとエレンは再び目を閉じた。

「おい、エレンは怪我人なんだ、寝かせてやれ」

それでも離れようとせずに張り付いているカリンを無理やり引き剥がし、メルクは居間に戻った。

「なあカリン、お前やエレンを襲った奴らは一体何者だ?」

「保守派の奴らね、この町は地上人を受け入れようとする改革派とこれまで通り関係を断ったままにしようとする保守派に分かれてるの。そんな中でのあなたの存在は保守派にとっては目障りだったんでしょうね」

「そうか……俺のせいか……」

「あ、で、でも出て行けっていう意味じゃないから、その、そうだとあいつらの思うつぼじゃない」

カリンは自分の言葉の意味を慌てて否定する。顔を朱に染めたその姿はメルクには初めて見せる表情だった。


「メールクー、お腹すいたー」

翌日、時刻は丁度お昼時。エレンは大分元気になり、食欲も出てきたようだ。

「おいカリン、これはどうするんだ」

「えーっと、それは……わかんないわよ!自分で考えて!」

料理のできない二人、台所で悪戦苦闘していた。

「くそ、おかゆくらいなら簡単に作れると思ったんだけどな……ほら、これならどうだ」

「まったく……っマズっ」

カリンが味見したおかゆを吐き出した。

「ちょっと、これ何入れたの?こんな物をお姉ちゃんに食べさせる気?」

「何って、お前に言われた通りにやったぞ?つーかお前、料理できるんじゃなかったのかよ」

「う、うるさいわね!もう一回、作り直し!」

そんなこんなで鍋と格闘すること三時間。

「な、なんとか口に入れても大丈夫なものができたな」

「ふふっ、そうね」

「お前なんで嬉しそうなんだよ」

「んー、なんでかしらね」

「ったく、じゃあ俺はエレンにコレ持ってくから、カップケーキができたら持ってきてくれ」

メルクはケーキがぐるぐる回ってるのを延々眺めているカリンに言った。


「あ、やっとできたんだ」

「ああ、ほれ」

メルクはおかゆをひとすくいスプーンですくい、エレンの口まで運ぶ。

「いやいや、自分でできるって」

「嘘つけ、腕痛いんだろ」

そう言って強引にスプーンを口の中に運ぶ。エレンは素直に口を開いた。

「……美味……しい」

「俺の前でお世辞なんて言わなくていいよ、不味いだろ?それ」

「ふふっ、でも美味しい」

「本当か?」

メルクも一口口に入れる。決して食べられないという程てもないが、美味しいかどうかと言われると不味い、としか言いようがない。そんな味だった。

「カリン、料理できないでしょう?それでも頑張ってくれたのが伝わるから」

エレンはまた口を開いて待っている。メルクはスプーンを運ぶ。

「なんかメルクがここに来たばかりの時を思い出すね」

「そうだな、その時とは立場が全く逆だけどな」


「じゃ、これ持って行くから」

空の器を持って行こうとメルクが立ち上がると、エレンがメルクの服をつかんだ。

「待って」

メルクが振り返ると、エレンはベッドから身を乗り出し、キスをした。

「……エレン?」

「これは私からのお礼。ほら、早く持って行きなさい」

朱くなった顔を隠すためか、恥ずかしかったのか、はたまたその両方か、頭まですっぽりと毛布を被ってエレンはモゴモゴと言った。


どうも!今回は過去編ということでアクランタで建てた伏線を片っ端から回収しようとして……無理でした。はい、いつかのあとがきと同じようなことを言います。本当は6話で終わらせるつもりだったんです!でもやっぱり想定より多くなってしまいました。俺だって!精一杯やったんです!やったんですよ!そんなバ◯ージ君みたいなことも言いたくなります。

さて、八月も中盤です。暑くて暑くてクーラーさんに不眠不休で働いてもらってます。電気代が恐ろしいことになる未来が見えます。おお怖い

それではまた!

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