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風の唄  作者: けんじ
3/28

2つの戦い、そして……

男の大剣が熱で真っ赤に染まる。触れただけで大怪我は免れない。真一文字に飛んでくる大剣をメルクはジャンプして躱す。しかし男はそのまま慣性に乗って蹴りを繰り出した。それをメルクは剣で受けるが、そこは摩擦のない空中だ、そのまま吹き飛ばされてしまった。

「でかいガタイしてるくせになかなか柔らかい戦い方だな」

「型にはまっていてはこの世界は生き残れんよ」

男は大剣を構え、炎で体をブーストし、猛スピードで突っ込んで来る。メルクはこれも躱すかと思いきや逆に前進した。男は一瞬戸惑ったものの、これはしめた、と渾身の力で大剣を振り下ろす。その瞬間、メルクは剣でがら空きの胴体を斬りつけた。男の体は鎧で覆われていたがその鎧はいとも簡単に切断され、斬られた所からは血が滲む。しかし振り下ろされた大剣はそのまま地面に叩きつけられる、とはいかず、なんと大剣も炎でブーストして一回転し、背後のメルクに斬りかかってきた。

「まじで?」

これにはメルクも反応できず、剣で受ける。しかしまともに受けれただでは済まない。そこで剣を斜めにし、力を受け流す。しかしそこでも慣性とは逆方向にブーストし、剣の軌道を変える。メルクは今度も剣で受け流そうとしたが間に合わず、真正面から受けてしまった。当然吹っ飛ばされ、地面を跳ねる。

「ててて……」

「まともに受けたのに折れていないとは、なかなかいい剣を使っているな」

「これは特別製なんでね」

メルクはふらつきながらも起き上がり、再び剣を構えた。

「そうか、ならばこれならどうかな?」

男は剣を熱するのを止める。すると男の周りに無数の火の玉が現れた。

「これを躱しきれるかな?」

火の玉が一斉にメルクに襲いかかる。メルクは長く息を吐き、いつかの時と同じように剣で火の玉を消していく。夜の街に明るく輝く火の玉とメルクの剣が躍る。火の玉は次々とメルクに向かって来るが、その中に一つだけ明後日の方向に、民家に向かって飛ぶ火の玉があった。

「やべっ」

メルクは壁を足場にして飛び、その火の玉に剣を当てた。しかしその瞬間に背後から討ち漏らしの火の玉がメルクの背中に当たってしまった。メルクは地面に叩きつけられ、左腕が嫌な音を立てる。

「うぐっ」

メルクの左腕はだらんと垂れ下がり、動く気配はない。

「なるほど」

男は顎に手をやり、しばし考え込むと、手を上に、天に掲げた。

「私もできればしたくなかったが……君を信じているよ」

メルクが空を見上げると、そこにはさっきの五十倍はありそうな巨大な火の玉。

「おいおい正気か?街までぶっ壊れるぞ」

「それを君は見過ごせまい?それに、こんな薄汚い街などいくら壊れようと知ったことではない。ここに人間など住んではいないのだからな!」

そう言って腕を振り下ろす。それと一緒に巨大な火の玉も降ってきた。

「くっそおおおおおおお」

メルクは腕ごと火の玉に剣を突っ込んで風を起こす。しかし巨大な火の玉にメルクの魔力では焼け石に水。消滅させられず、火の玉は空中で爆発する。これが幸か不幸か被害が広く、薄く分散してしまい、酷いところでは民家数軒が潰れてしまっていた。そして、火の玉に突っ込んだメルクの右腕は焼け爛れ、剣を持つことさえできていなかった。

「何と、本当に身を挺して街を守るとはな、見上げた根性だ。しかし両腕ともその有様ではもう戦えまい?」

しかしメルクは絶望でも、恐怖でもない。余裕の表情で笑みを浮かべる。

「ああ……ごめん、俺手ぇ抜いてた、 今のでお前に手加減は要らないってわかったわ」

「手加減?ハハ、笑わせるな。まだ隠し球があるとでも?」

男は笑い、しかし油断なく大剣を構え直す。

「シル!」

そうメルクが叫ぶと、メルクの隣にあの少女がふわりと現れた。相変わらずその足は地面に着いていない。

「あっちゃー、こりゃ派手にやられたねー、右腕なんかグロすぎて食欲なくすよー」

「いいから早く修復してくれ、これすっげー痛いんだから」

「わかったよもー、人使い、いや精霊使いが荒いんだから」

そうシルと呼ばれた少女は言うと、焼け爛れたメルクの腕を舌で舐め始めた。するとメルクの腕が時間を巻き戻したかのように元に戻っていく。

「な……それは伝説の……貴様、何者だ?」

男の余裕の表情が驚きに塗り潰される。

「あんたに答えてやる義理はないな」

その間にシルはメルクの左腕も舐め終わり、メルクは地面の剣を拾った。

「ふぅ、美味しかった。ご馳走様でした」

「シル、さっさとカタをつける。力を貸してくれ」

「……わかった」

そう言うとメルクは、シルの後頭部を掴み、そっと抱き寄せた。そして、二人の唇が触れ合う。それだけでは終わらなかった。今度はシルからメルクの口に舌を入れ、恍惚の表情を浮かべる。

「んっ、あむっ、じゅるっ、んんっ」

「このっ!」

男も、ただ見ていたわけではない。大剣を構え、体をブーストして大剣を振りかぶった。しかしその大剣はメルクに触れること叶わず、その腕は胴体と今生の別れを告げた。

「うぐおぁっ!」

男は仰向けに倒れた。その周りに血だまりが広がっていく。

男が死に際に見たメルクの左の瞳は蒼穹に輝いていた。

「ふーっ、やっちまったなー」

先の爆発で倒壊した家々を眺めながらメルクは呟いた。辺りには騒ぎを聞きつけた人々がちらほらと見える。

『まあ……あの規模の火の玉だからね……仕方なかったんじゃない?』

「『仕方なかったんじゃない?』じゃねえよ、何人も巻き込んじまったんだぞ?」

『……』

「どうした?」

突然黙りこくったシルをメルクは怪訝な目で見つめた。

『あそこに……生きてる人いるよ』

シルが指差したのは崩れた建物。よく見ればどこか見覚えがある。あの獣人の少女がいた店だった。

「つっ……」

メルクは痛みに耐えるように頭を抑えて地面に膝をつく。

『だ、大丈夫?もう共振を切った方が……』

「いや、まだ敵がいるかもしれない。それに共振を切ったらこの瓦礫をどかせないだろ?」

メルクは再び立ち上がり、瓦礫をに向かって歩いていく。


耳を劈く轟音で私は目を覚ました。でももうその時には手遅れ、私は瓦礫の下敷きだった。屋根裏から落ちて、柱まで倒れてきている。体を動かそうにも柱が邪魔で動かせない。足の骨は折れていずともヒビ位入っているだろう。

でも生きている。こんな時は自分の獣人の体が恨めしくなる。もう、いいのに。こんな世界で生きていくくらいならここで死んだほうがどれほど楽だったか……

「何で生きてるんだろう」

不意にそんな言葉が漏れる。いや、こんな時だからこそ心の中の声が漏れてしまったのかもしれない。

「ちょっと待ってろ」

だから、そんな言葉が返ってくるとは思っていなかった。


メルクが指を少し動かすと一陣の風が吹き、瓦礫を持ち上げた。やはり中にいたのはあの料亭の少女。

「ほら、立てるか?」

メルクが手を差し伸べる。しかし少女はメルクの手を掴もうとはしなかった。

「どうした?動けないか?」

少女は怯えているのか、ふるふると首を振るばかりだ。

「俺、覚えてないか?昨日この店に来たんだけど……今は目の色がちょっと違うけどさ」

少女はメルクの顔をじーっと見つめ、ピクッと犬を思わせる耳が動いた。

「あの時はごめん、何も言ってやれなくて、ほら」

メルクはもう一度少女に手を差し伸べた。少女はごわごわメルクの手を掴む。メルクが腕を引くと少女は顔を顰め、足の脛の辺りを抑える。

「痛むのか?」

メルクが聞くと少女は首を縦に小さく振った。それを見たメルクは少女に背を向けた。といっても見捨てたわけではない。そのまま腰を下ろす。

少女はぽかんとしていたが、メルクの意図を察したようでその肩に腕を回す。メルクはそのまま立ち上がり、宿へと歩き出した。

「あの、ありがとございます」

「いや、ごめんな」

「え?」

メルクのまさかの謝罪に少女は首をかしげる。

「多分俺が助けたかったのはお前じゃないのかもしれない……あと、もうあんなことは言うな。世界は広い、お前が思っているよりずっと、な」


さて、時間は少し遡り、メルクが大剣の兵士と対峙している頃、エリーは宿への道を急いでいた。急がなければ、エリーの頭にあったのはそれだけだった。メルクは自分があの男と戦う代わりに私にソフィアを託した、その思いがエリーを走らせた。

満月の下を可能な限り速く走る。その甲斐あってか数分で宿にたどり着くことができた。宿の前でエリーが立ち止まると、一台の馬車が走り去っていくのが見えた。エリーは頭に沸き起こる最悪の考えを必死に押し殺し、宿の階段を駆け上がる。そして自分達の部屋のドアを半ば蹴破るようにして転がり込んだ。しかし本来ならばそこにいるべき人は、ソフィアは、いなかった。

「……くそっ」

怒りに任せて短剣を床に突き刺す。この時エリーはソフィアがいなくなったショックで判断力が鈍っていた。だから普段なら簡単に気づけたであろう背後からの襲撃に対する反応が一瞬遅れた。後頭部に強い衝撃を感じ、意識が遠のく。しかし突き立てた短剣を自分の脚に突き刺し、無理矢理意識を繋ぎ止める。エリーが振り返るとそこに立っていたのは紅の鎧を着た兵士。人数は三人。エリーは条件反射でもう一本の短剣を抜き、一番近い兵士に斬りかかった。短剣は見事に男の喉を掻き切り、鮮血が飛び散る。残りの二人も剣を抜き、同時に襲いかかる。エリーは死んだ男の体を盾にし、後ろに飛びすさった。ここでエリーの思考が追いついた。

「貴様ら、ソフィアをどこへやった」

「ソフィア?何の事だ?」

「おい、こいつが風の国の王女なのか?」

火の国の兵士も困惑している。しかし今のエリーにそれを観察する余裕などありはしなかった。短剣を構え直し、一気に接近する。そして兵士の脇腹、ちょうど鎧と鎧の隙間に短剣をねじ込み心臓を切り裂く。これは王宮で習った短剣術ではない。スラム時代、エリーが生き延びる為に短剣を振るっていた頃の技だ。そしてもう一本の短剣で振り下ろされた剣を受ける。しかし短剣と剣では重さが違う。短剣は床に転がってしまった。しかしエリーはすぐに間合いを取り、死んだ兵士の剣を拾うとそれを投げつけた。当然のようにかわされるが、その一瞬の隙を突いて短剣で喉を裂く。ここでエリーの意識は途切れた。


宿に帰ったメルクがまず見たもの(瞳はもう普通の色だ)は壁中に飛び散った血痕、転がった四つ……いや三つの死体、そして血塗れで倒れているエリーの姿だった。メルクは背中の少女を廊下に下ろすとエリーの元に駆け寄った。

「まだ息はあるな……治せるか?」

『多分ね』

シルはそう言うとメルクに唇を寄せる。

「んっ……」

しばらく唇を重ねた後、メルクは今度はエリーに口付けをした。

「あっ」

シルは複雑な顔で唇に手を当てる。しかしその声はメルクには聞こえなかったようで、メルクはエリーから口を離す。すると先程のメルクと同様、エリーの傷がまるで時を巻き戻すかのように消えて行った。

それを見届けるとメルクは今度は廊下で待っている少女の足に添え木をし、包帯で巻いた。

「これで大丈夫だろ、また痛くなったら言ってくれ」


エリーが目を覚ますとそこには見覚えのない天井。反射的に身を起こそうとすると頭に激痛が走った。

「おいおい、あんまり動くな、お前頭殴られたんだから」

「そうか……私は……」

自分の不甲斐なさと情けなさて、目から涙が溢れる。

「ごめんなさい……ごめんなさい……私は……ソフィアを、守れなかった……」

「そうだな、守れなかったと言うよりお前の自己中心さが招いた結果だな、お前が夜ホイホイ出歩いたから結果的にソフィアが一人になった」

「……」

エリーは言葉も出ない。その代わりに涙が出た。叱られた子供が流す涙と同じものだ。エリーがさらに謝罪を続けようと口を開こうとする前に、メルクはでも、と続けた。

「頭殴られて脚に短剣突き刺してまでよく戦ったな」

そう言って頭を優しく撫でた。それによって少し落ち着いたのか、エリーは同じ部屋に居心地悪そうに座っている少女が一人、いることに気づいた。

「メルク、そこにいるのは……」

「ああそうだよ、あの料亭の子」

「あの、ど、どうもです」

少女は立ってぺこりと頭を下げる。

「ああ、そういえば自己紹介がまだだったな、俺はメルク、メルク ハインライン」

「私はエリー マーズ、です」

「わ、わた、私はクク、でしゅ」

噛んだ。おそらく自己紹介なんてしたのは産まれて初めてだったのだろう、ククは顔を真っ赤にして照れる。

「それじゃクク、いきなりで悪いけど何か食べるものを買ってきてくれないか?エリーに何か食べさせないとな」

そこでメルクはさりげなくククを部屋から追い出す。ククも何かを感じ取ったようでこくんと頷いてメルクから財布を受け取り、買い物に行った。

「さあ、ソフィアの事だけど」

その話題に触れるとたちまちエリーの顔が暗くなった。

「お前が俺と別れてからの状況を説明してくれ」


「単刀直入に言う、ソフィアは火の国に捕らえられたんじゃないな」

メルクはエリーの話を聞き終わるなりきっぱりとそう断言した。

「だっておかしいだろ、なんでソフィアを攫った後にわざわざ宿に入る必要があるんだよ」

「じゃあ誰が……」

「多分人身売買の連中だろうな」

エリーの目が目を大きく見開く。それはそうだ。それは法律上は禁止されている行為だからだ。

「じゃあ早く助けに行かないと……」

「それについては俺にあてがある。心配するな。お前はとりあえず休め」

その時、ちょうどよくククが袋を抱えて帰って来た。

「あの……私が作ってもいいですか?あの、その方が体にはいいと思うし……だめだったらいいんですけど……」

「ああ、頼むよ」

その返事に少女は顔を輝かせ、尻尾をぱたぱたさせながら料理を始めた。


それから数分後、テーブルの上には美味しそうなお粥が二つ、並んでいた。

「何で二つ?」

メルクが一つをエリーに渡しながら聞いた。

「え、あの、作り過ぎちゃって……いらないなら捨てます……」

たちまちククの笑顔が萎み、耳が垂れる。

「いやいやいや、食べる!食べるから!いやー、誰かの手料理なんて食べたのいつぶりだろ……熱っ」

メルクは慌ててお粥にスプーンを伸ばす。とても美味しかった。

「美味しいな、こんなに美味しいお粥を食べたのは初めてだ。な、メルク」

「……」

エリーからも好評のようだ。しかしメルクは黙りこくってお粥を見つめている。

「お口に合いませんでしたか?」

「え?あ、いや、美味しいよ、凄く」


お粥の入った鍋が空になり、一息ついていると、メルクから切り出した。

「クク、俺たちはもうこの街を出る。もうお前を縛るものは何もないはずだ、これからどうするんだ?」

ククはしばらく考え、メルクに向き直った。

「メルクさん達に同行させていただくことはできますか?」

この答えはメルクも予想していなかったようで、しばし面食らった顔をしていた。

「私、これから行くあても無いんです。それに……メルクさんは私に言いました。世界は広いって。私はメルクさん達と一緒になら私の世界を見つけられるような気がするんです」

ククの表情は真剣だった。しかしメルクにはそうおいそれと許容することはできなかった。この少女を思えばこそ。エリーはそれを察したようで、

「私からもお願いする」

「は?」

思わず間抜けな声が出てしまう。それほどにメルクにはエリーがククを巻き込むことが予想外だったのだ。しかし、そもそもそこからメルクの考え方は間違っていることにメルクは気づいていなかった。

「あの店で、ククを見たときに幼い頃の私と重なったんだ。寂しくて、悲しくて、でも頼れる人もいなくて、あるのは厳しい現実だけで、だから私には母が輝いて見えた。だから……」

そこから先はメルクにも予想することができた。『私達がククの光になろう』それは同郷の、同じ境遇の経験からくる思い。巻き込むんじゃない。支えになるんだ、と。

「わかった。でもこれだけは覚えておけ、俺達の旅はいつ死んでもおかしくない」

ゴクリと唾を飲みながらもククはしっかりと頷く。

「でも、絶対に死ぬ覚悟はするな」

「え……」

次にククが何か言おうとするとメルクはそれを遮るように、

「エリーが動けるようになり次第この街を出る。多分ここからまたきつい道程になるからしっかり体休めておけ」

「私はもう大丈夫だ」

「そうか?じゃあこれから街を出る。二人とも何もないな?」

『何もないな?』とはこの街に思い残しはもうないな?ということだ。これはメルクなりのククに、特にエリーに対する気遣いなのだろう。それを理解してかエリーもククも黙って頷いた。


獣人族は魔法が使えない代わりに強靭な肉体と高度な鍛冶技術を持つ。しかしそれ故に野蛮だと恐れられ、奴隷として使われていた者も少なくない。しかし今では国際法で禁止されているものの、明確な抑止力には至っていない。


それから一行は街を出て南下、目的地は海底都市アクランタである。

「なあメルク、何でこれからアクランタに行くんだ?ソフィアとは関係ない気がするが……」

「ソフィアを捕らえたのはおそらく人身売買を職業にしてる奴らだ、そういう奴らは商品を一箇所に集めて船で輸送する。それまでは正直こっちから手の出しようがない。向こうもそう早くは動かないだろうしな」

「だからアクランタに行こうと?」

「まあそうだな、魚人族は海に関する利権を片っ端から握ってるから怪しい船が通ったら一発で分かる」

「でもそれじゃあ魚人族側に協力者が要りますよね?」

「そこは問題ない。俺にあてがある」

そこで会話は一旦途切れ、エリーはクルクルと短剣を弄び始めた。



トウマを含むフライハイトに潜入した兵が全滅した、という知らせが入ってからすぐにシュウには本国から招集がかかった。キャンプから馬車を全速力で飛ばし、本国へ向かう。普段ならばこんなことはしないのだが今回は招集主が招集主だ。急がない訳にはいかなかった。城門をくぐり、城に入る。町はすっかり戦勝ムードで表面上は沸いていた。

身なりを整え、謁見の間に足を踏み入れて王の前で跪く。ここの雰囲気には何度入っても慣れない。扉から直線上に国王が座っている。そう、今回の招集主な国王直々のものだった。国王の隣には大臣が三人、立っている。いつもはそれだけだ。しかし今日は違った。大臣の隣に一人、少女が立っていた。

「表を上げよ」

それは頭を上げてもいい、という合図だ。

「先の戦いではご苦労だった」

「恐縮でこざいます」

国王の仕事はここまで。この一連の流れは一種の慣例のようなもので、本題はここからだ。ここからは全て大臣が話す。

「その戦いではそなたの右腕、カンダ トウマを失ったと聞く」

「はい。惜しい人材をなくしました」

「そこで今回の戦いの功績を称え、新たな部下を授ける」

大臣がそう言うとその隣に立っていた少女が深々とお辞儀をした。よく見れば少女の格好はみすぼらしく、虚ろな目をしている。

「これは研究室が開発した戦闘に特化した強化兵だ。まだ試作段階だが充分実用に足る力は持っているはずだ」

「ありがたき幸せ」

そこで謁見の間での仕事は終わり。後は今回の戦争に関する報告書をまとめれば任務終了だ。と、言っても報告書は馬車の中であらかた片付けてしまった。後は提出するだけだ。


「シュウ ミツヅリ、報告書を提出に参りました」

シュウが大臣の部屋に入るとそこには先程の少女が居た。

「ご苦労、これを。」

シュウに渡されたのは一冊のレポート。表紙には『被検体028研究レポート』と書いてある。

「国王から賜ったものだ。大事に扱え。それと、君の任務は一時終了だ。追って次の任務を出す。それまで待機を命ずる」

「しかし、まだ第三王女が……」

「それについてはこちらで手を打つ」

シュウはそれは何か、とは聞けなかった。それが任務であり、命令だからだ。

「分かりました」

シュウが部屋から出ると少女も後ろからついてきた。


























3話目です!戦闘です!戦闘シーンを書くのって難しいですね。一応1話にも戦闘はあったのですがそこは飛ばしてしまったので。(手を抜いたわけではない)

もうすぐ梅雨です。梅雨は雨が多くなるし、ジメジメするので嫌いです。夏よ早く来い!

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