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風の唄  作者: けんじ
day by day
22/28

動乱の序曲

「わー!ふくがたくさんですね!」

アリサは興奮した様子で店に並べられた服を眺めていた。結局行く当ても無いということでアリサはメルク達の家に居候している。メルクとしては既に四人の居候を抱え込んでいる状況で更に一人増えた所で何かが大きく変わるわけでは無いのだがなぜかソフィアを始めメルク以外の全員が最初はいい顔をしなかった。その理由が何故なのかは結局メルクは教えてもらえなかったが大方彼女のエネルギー源である血の提供者の問題だろう、ということでメルクは納得している。

「この辺だとサイズが合うんじゃないか?」

こうして居候を始めたアリサだったがメルクの家と血で衣、食が揃ったところで困ったのが服だ。アリサは本当に着の身着のままで替えの服を一切持っていなかったのだ。その上アリサではソフィアやククの服は着られない。主に胸が邪魔をして。エリーのならば何とか着られなくもないのだがエリーもそこまで洋服を沢山持っているわけではない。ということで一同はアリサの服を買いに来ている。

「おーい、まだか?」

店の外からメルクは二人に声をかける。もうだいぶん長い時間服を選んでいる。服くらいさっさと選べと言いたくなったが以前ソフィア達の時にそれを言ったら非難轟々だったのでやめた。ちなみに何故二人かというとソフィアとククはメルクの隣で小さくなっている。理由を聞いても何も返ってはこない。ただソフィアが『格差社会です』と漏らしながら自分の胸を押さえたことで何となく理由は把握した。気にするな妹よ、そう言おうとして、やめた。傷口に塩を塗ることになりかねない。


「ただいまー」

「これで当面は事足りるだろう」

エリーは服や下着の入った紙袋を軽く持ち上げた。

「じゃ、次はご飯にしましょう!」

「しましょう!」

ククの提案に光の速さで乗ったのがアリサだ。彼女は吸血鬼と言うかそこから分化した淫魔と呼ばれる存在だ。だから人間と同じ食事をするだけでも生きてはいける。だが彼女曰くそれだけではものたりない、だそうだ。

「私もお腹が空きました、折角皆んなで街まで来たんですから外で食べましょうか」

「ソフィア様に付いて行きます」

これで賛成四、多数決で食事決定だ。まあ、元々メルクに決定権など無いのだが。


そして五人が入ったのはククお気に入りのカフェ、ドルチェだった。今日もこの店の看板娘の双子が注文を取りに来る。

「ご注文は何でしょうか」

「じゃあ……ここから……ここまで!」

アリサは満面の笑顔でメニューの端から指を滑らせ、そして一番下で止めた。さしもの双子もこれには顔を強張らせ、正気ですか、という目でメルクを見る。

「おいおい、さすがにそんなには食えないだろ」

「えー!おなかすいた!」

「じ、じゃあまずこの中で一番食べたいものを選んで、それで足りない時は追加することにしましょう」

大きな体でだだをこねるアリサをソフィアがたしなめ、何とかそれぞれ注文を済ませた。双子がぺこりと頭を下げて店の奥に消えてゆく。歩くたびに揺れるふさふさの狐耳と尻尾が何とも愛らしい。

「あの双子のあんな顔初めて見ましたよ」

双子は常に無表情だ。それにしてもこの店の常連であるククすら初めてということはかなりレアなものを拝むことができたというわけだ。メルクもお使いでたまに寄るのだがその時は何故かいつも以上に冷たくあしらわれるのだ。尻尾だろうか、とメルクは自分とククを交互に見ながら思った。

「ぜったいにぜんぶたべてみせます!」

ククの言葉で何故かアリサに気合が入っている。

「いやいや、無理して食べなくていいんだよ」


結局、アリサはメニューの端から端まで全て食べ尽くすことはできなかった。それでも四分の一くらいは食べたのだが。これからの食費を考えるとメルクは頭を抱えたくなった。

「これからはもっと頻繁に店に来るといいです」

帰り際、双子はメルクの服の端を掴んで言った。

「毎回ドーナツばかりばかり食べていたら早死にするです」

確かにメルクはこの店に来るたびに大量のドーナツを買うのだがこれは別に自分で食べる為ではない。単に頼まれているだけだ。そして頼み主はとても糖分の摂り過ぎで死ぬようなヤワな体はしていない。

「そしてもっとうちの店に貢ぐです」

この一言が無ければ単に可愛い双子、で終われるのに、とメルクは苦笑した。

「メルク?何をしているんだ?」

既に歩き始めていたエリー達が読んでいる。メルクは双子に挨拶をすると彼女達を追いかけた。


とんっ、とんっ、と軽い音を立ててククは軽くジャンプする。

「なにをしているんですか?」

「食後の運動だ、アリサもするか?」

「食べた後は少しでも動かないとすぐに脂肪になってしまうからな」

エリーは足の関節を伸ばしながら言う。メルク達の間では食後の運動と言う名の組み手が日常と化していた。因みにメルクの家始めた街の外れにあるため多少激しく動き回っても迷惑はかからない。

「うんどうですか?やります!」

「おう、じゃあまずは俺が相手するか」

メルクはアリサと向かい合う。アリサは両腕をだらんと下げて構える素振りを見せない。だがこれでククとエリー二人を相手に互角以上に戦ったやり手だ。メルクが気を引き締めたい瞬間、既にアリサの姿はメルクの目の前にあった。

「うっわ!」

咄嗟に上体を逸らして拳を躱す。しかしその状態から拳を九十度回転させ、さらに一歩踏み込んで心臓を打撃しようとする。

「ひゃあ!」

……のだがアリサは地面の石に足をとられ、メルクの方につんのめる形で倒れこんできた。

「痛っててて……」

仰向けに倒れたメルクの体の上にアリサは倒れている。丁度メルクの体がクッションになって怪我をせずに済んだようだ。

「おーい起きろ、怪我はないか?」

一応聞いてみる。返事は無い。

「おい、大丈夫……」

アリサは勢いよくメルクの首筋に噛み付いた。そしてそこから漏れ出す鮮血を幸せそうに啜る。


「もう十分か?」

メルクがそう言うとアリサは慌ててメルクから飛び退いた。

「す、すみませんでした」

「いや、血を吸うのはいいけど次からは事前に一言あるといいな」

「は、はい」

アリサは赤い顔をさらに赤くする。その間にメルクの首筋の歯型は綺麗に消えていた。

「その傷の治り方……」

アリサは怪訝そうにメルクの首筋を見る。しかしそれ以上突っ込まれる前にメルクは言った。

「よし、続きと行こうか」

するとアリサもそれ以上聞くのは諦めたようで両腕をだらんと下げた。顔の赤みも既に消えている。

「参ります!」

アリサは一瞬でメルクとの間合いを詰め、懐に体をねじ込んだ。

「んなっ……」

先程も桁違いに速かったが今度はさらにスピードが上がっている。だがそれだけではない。動きのキレ、タイミング、全てにおいてメルクの予想を軽く上回っていた。メルクもククとの組み手である程度は獣人のスピードに慣れているつもりだったが所詮ククは戦闘においてはまだ初心者。場数を踏んだアリサとは比べるべくもない。

メルクは綺麗に心臓に掌底、鳩尾に肘打ちを食らい、二、三歩よろめいて尻餅をついた。

「メルクさんが……」

「倒された、のか?」

隣で組み手をしていたククとエリーも思わずその光景に釘付けになった。今までの組み手でメルクは尻餅どころか攻撃をまともに受けたことすらなかったのだ。

「ててて……」

「あの、大丈夫でしょうか」

メルクの顔を心配そうにアリサが覗き込む。メルクはそれに笑顔で応え、立ち上がった。

「今のは油断したけど今度は……」

そう言いながらメルクが関節を伸ばし始めた時だった。

「お取り込み中、よろしいでしょうか」

銀色の髪を揺らしながら一人の少女が現れた。その後ろには縦はソフィアの二倍、横に至っては三倍はあろうという巌のような大男が控えている。

「あ、あなたはあの時の……」

「はい。ソフィアさん、あの後は無事に王城へ辿り着けたようでなによりです」

その少女はいつの日か道に迷っていたソフィアを助けてくれた、あの少女だった。

「リリーナ様、事は急を要します」

ソフィアと会話を始めようとするリリーナを背後の大男が窘めた。少し残念そうに目を泳がせたがすぐにリリーナはメルクに向き直った。

「メルク ハインライン、フェルナンド王がお呼びです」

「……わかった。少し準備があるから先に行っててくれ、俺もすぐに追いつく」

「メルク、事態は一刻を争うのだぞ」

「わーってるって、ちょっと着替えをするだけだよ」

巌のような大男は一瞬メルクに厳しい目を向けるがソフィア達の視線に気づくとリリーナに私達は先に行っていましょう、というとメルクに背を向けた。


坂を下った二人の姿が見えなくなるとメルクは途端に表情を厳しくし、ソフィア達に向き合った。

「メルクさん、今の人達は……」

「説明してる暇はない。ソフィア、エリー、クク、今すぐここを離れる準備をしてくれ」

皆さんどうも!この度は投稿が大きく遅れたことをお詫び致します。言い訳を言ってもいいですか?いいですよね?まあそんなものは無いんですけど。たまたま11月の末と12月の頭に予定が詰め込まれてただけです。なんですかね、書き溜めておけばこんなことにはならないんでしょうけど……そこまでコツコツできる人間でもないんです。まあこんな人間ですけど今後も生暖かく見守ってくれるとありがたいです。

本当はここでストーリーについて一言書く所なんですけど今回は枠が一杯になりそうなのでやめときます。ではまた!

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