吸血鬼!?夜の闇に棲まう者 前編
「ソフィアさん、エリーさん、吸血鬼の噂、知ってますか?」
夕食時、三人でテーブルを囲んでいた時にククが唐突にそう切り出した。ちなみにメルクは今日は遅くなるから、と未だ帰ってきていない。最近はこんなことが増え、三人で食事をすることも多くなってきている。
「吸血鬼って、あの吸血鬼ですか?」
「はい。夜空を飛び回って、うら若き乙女の血を吸う、あの吸血鬼です」
「いえ、私は初耳ですが」
ソフィアは首を傾げ、エリーに視線でバトンを渡す。
「うーん……あ、そういえばパン屋のおば……お姉さんがそんなことを言っていた気もするな」
いるはずもないのにエリーはきょろきょろと部屋を見渡す。二人の『どうせ噂話』とまともに聞く耳を持たない態度を受けてなおもククは食い下がった。
「どうやら本当の話らしいですよ、目撃者も居ますし、何より犠牲者だって出てるんですから」
「その人、寝ぼけてたんじゃないですか?」
「それか酒の飲みすぎ、とか」
そもそも吸血鬼というものは絵本の中に出てくるおとぎ話の中のキャラクターなのだ。よくある『暗い夜道を一人で歩いてはいけません』といった教訓を子供に教え込むためのものだ。普通ならここで笑い話として片付けられる頃合いだがククは引き下がらなかった。
「むー!そんなに疑うなら明日その人に会いに行ってみましょう!」
と、いうわけで三人はとある古道具屋の店先に立っていた。中には歯の欠けた櫛から何に使うのかわからないものまで古道具が所狭しと並べられており、その奥から眼鏡を掛けた小柄な主人が古道具の海をかき分けかき分けして姿を現した。
「お客さん、あんた運がいいよ、今何と動物に変身できるクッキーが……」
「あの、私たちは吸血鬼に襲われたって聞いて来たんですけど……」
主人は五十は超えていそうな年齢で、とてもうら若き乙女とはかけ離れている。
「ああ吸血鬼ね、それは僕じゃなくてせがれね」
「少しお話を聞かせてもらってもよろしいですか?」
「いいよ、ついてきて」
あまりの軽さに若干拍子抜けしながらも主人の後に続いて店の奥に入り、二階の部屋の前で立ち止まった。
「お前に話を聞きたいって人が来てるよ」
「いいよ」
三人が部屋の中へ入るとそこにはベッドから上半身だけ起こした少年がいた。肌の色は白く、顔立ちも中性的で一見女の子に見えないこともない。
「君が……吸血鬼に?」
「うん、そこの窓から突然入って来たんだ」
少年はベッドのすぐ横の窓を指差した。
「それで、足音も立てずに僕の所まで来て」
三人は一様に息を呑む。
「でも僕が男だってわかるとすぐ帰っちゃった」
「へ?」
先程までのリアルかつホラーな語りとは対照的なあっけない幕切れ。思わずククは変な声が漏れてしまった。
「それだけ……ですか?」
「そうだよ」
「じゃあ他に何か……言ったりしてなかった?」
少年はしばらく顎に手を当て、考え込むポーズをしていたがやがてぽんと手を打った。
「そういえば最後に『この辺で一番可愛い女の子はどこ?』って聞いてきたな」
まあうら若き乙女の血を好む吸血鬼ならばそう聞くのは当然と言えば当然なのかもしれないが間違って男の部屋に侵入したりその男に一番可愛い女の子を聞いたり、と言い知れぬ間抜け感をソフィアは感じていた。
「そ、それで、何て答えたんですか?」
ククは鼻息荒く少年に詰め寄る。
「パン屋のミリアさんかな、って」
結局その後も有用な情報が聞き出せることはなく、ククたちは古道具屋を後にした。
「結局何もわかりませんでしたね」
「でも吸血鬼が存在する、ってことはわかったじゃないですか」
「それもあやしいものだぞ?彼の話ではローブのようなものを着ていて顔もわからなかったみたいだし、唯の変質者じゃないのか?」
そのエリーの言葉に何か反論しようとククは口をもごもごさせたが、結局何も言葉が浮かんでこなかったようで黙り込んでしまった。
「ま、まあとにかく、もうこのことは忘れてご飯にしましょう」
ソフィアの号令でエリーもククも頭を入れ替え、今夜の献立についてあれこれ意見を出し始めた。家に帰り、食事をして風呂に浸かればこんなつまらない噂話など忘れていつも通りの日常に戻る……かに思われたが事件はこれで幕引きとはならなかった。
「え、エリー!クク!」
ベッドでぐっすり眠り、吸血鬼のことなどすっかり忘れていたククとエリーの元へ血相を変えたソフィアが駆け込んできた。
「どうしたんだ?買い物にしては早いが……」
「違います!先程パン屋に行ってきたのですが……」
ソフィアが昼食の買い出しにパン屋へ向かったところ、あの元気なおばちゃんが珍しく店を空けていた。気になってソフィアがミリアに聞いてみた所、何と昨晩何者かに襲われたというのだ。ふと吸血鬼の話を思い出したソフィアはおばちゃんにその時噛まれたという傷痕を見せてもらった。
「するとですよ?その傷痕の形が……」
ソフィアは指で小さな円を作った。
「これくらいの小さな穴が二つ、あったんです」
人間ではどう噛んでもそのような傷にはならない。と、いうことは残る可能性は一つだ。
「まさか……」
ククはゴクリと唾を飲んでエリーと顔を見合わせる。
「それで、おばちゃんは吸血鬼の顔を見たのか?」
エリーはお姉さん、と訂正するのも忘れて身を乗り出す。しかしソフィアは首を横に振った。
「背中からいきなり噛まれたそうで今回も顔は……」
「でもどうして吸血鬼はおばちゃんを狙ったんでしょう?」
ククがそう素朴な疑問を口にした。よく考えてみればそうだ。少年の話では次の標的はミリアになりそうなものだが。向こうに何か深い考えがあってのことなのか、それとも……
「とにかく、これ以上被害者が増える前に吸血鬼を取り押さえよう」
ひとまず疑問は棚に上げ、エリーの一声で一同は深く頷き合った。
「それで、私はお母さんの部屋に居ればいいんですか?」
夕暮れ時、日が地平線にその三分の一を隠した頃に三人はミリアの部屋にいた。ミリアをおばちゃんの部屋に避難させ、ソフィアはミリアのベッドに横になる。エリーとククはそれぞれ家の中と外で身を潜める。単純な囮作戦だ。吸血鬼が窓からソフィアを襲おうと侵入した所を内と外から挟み討ちにしようというのだ。
そして運命の夜。不気味なほど静まり返った夜の帳から一つの人影が音もなく姿を現した。窓のガラスに手をかけ、手が入るほどの小さな穴を開けるとそこから鍵を開けて、窓枠に体を乗り出す。そしてベッドに手を伸ばそうとした瞬間、洋服タンスに隠れていたエリーが飛び出した。
「動くな!」
短剣をローブを着た人影の首元に突きつける。しかしローブの人影はおよそ人間とは思えない反射速度でエリーの腕を振り払い、窓から飛び出した。
「クク、逃げられた!」
「任せてください!」
煙突の上からククが飛び降り、組み伏せようとローブの人影向かって飛びかかる。人影は一瞬ギョッとしたようにたじろいだが冷静に身を躱し、そのまま屋根を蹴って隣の家の屋根伝いに走り出した。
「逃がしませんよ!」
ククも負けじとダッシュをかける。流石のローブの人影も獣人のククの脚力には勝てなかったようで、あっという間に距離を詰められる。
「こ……のっ!」
ローブの人影をつかもうとククは精一杯右手を伸ばす。しかし素早い身のこなしで右手は空を掴んだ。
「まだまだ……」
右手を伸ばした影響で大きく前傾したまま前に倒れこむ。しかしククは屋根に手を付き、一回転してさらに前に加速、しかしそれもすれすれで躱されてしまった。さらにローブの人影は屋根を強く蹴り、大きく前方、城の方向へと跳んだ。
「と、とんでもないですね……」
流石にククでもあのような真似はできない。あと一歩の所まできたのに、と半ば諦めかけていた所にエリーが追いついてきた。
「クク!私を力一杯投げ飛ばせ!」
「え?」
「早くしないと間に合わなくなる!」
「わ、わかりました!」
エリーの気迫に押されるままククはエリーの足を掴み、遠心力で初速をつけると勢いよく投げ出した。
「に……がすか!」
屋根を蹴って跳ぶローブの人影の足にエリーは太ももから引き抜いた小剣を投げつけた。小剣の柄頭にくくりつけてあるワイヤーがローブの人影の足首に巻きつく。そしてワイヤーを巻き取るとピンと張ったワイヤーが高速で跳ぶローブの人影の足を止め、人影は落下していった。
「やった!」
しかしそう思ったのも束の間、何とローブを破り、人影からまるで蝙蝠のような翼が生えてきたのだ。翼を羽ばたかせて落下を止め、足首に絡まったワイヤーを解こうと動きを止める。しかしローブの人影も想定していなかった事があった。エリーは翼を持っていない、故に自分で止まることができないのだ。これは当のエリーも今しがた気づいたようだがもう遅すぎた。
「うわぁ!」
「ひゃっ!」
空中でローブの人影とエリーは激突、綺麗な水平投射の弧を描いて地面へ吸い寄せられてゆく。
「ん?」
そして二人はたまたま道を歩いていた青年に激突した。
どうも、pcゲームが2つにスマホゲームが4つ……抱えてるゲームが増えてきて中々忙しい……充実した毎日を送っております。
そういえば先日パソコンのキーボードを買い換えました。以前使っていたのはもう四年ほど働いてくれていたのでそろそろ替え時かな、と。今度こそは少し奮発していいものを買おうと意気込んで行ったのですが結局いつものコスパ重視になってしまいました。こんなこと、よくありますよね?




