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勇者vs四天王

作者: あざといーす
掲載日:2014/02/27

──何度死に掛けたか分からない、だが間違いなく奴はここに居るのだろう


 俺は目的地に辿り着けた思いもあってか、周囲の気配に意識を割きつつ、これまでの道程に思いを馳せた……。


 


 勇者としてこの世界に召喚されてより1年


 修行として仲間と挑んだ数々のダンジョン入り浸りの日々で勇者としての身体能力と魔力を生かし、強力な装備を手に入れ、もはや知られている人類種側の領土にあるダンジョンは全て制覇及び沈静化させた。


 残りがあるとすれば魔人種の支配する領土や絶体不踏地域のものだけだろう。


 ──魔人


 薄墨色の肌を持ち、見た目は人類種のヒューマン(人間)と大差ない姿をしているが、魔力は人類種が持つそれを大きく凌駕し、肉体能力においても人類種の及ぶところの無い種だ。


 聞く所に寄ると魔人種は種族内で最も強大な者を『魔王』と仰ぎ、一定の統治をしているらしい。


──魔王! 勇者として召喚されたからには避けて通れない道だ


 俺は魔人の情報を得る為、森外れに住むと言う大賢者の元を訪ねた。


 大賢者は俺の内包する魔力や装備を一目見るなり頷き、四天王の位置を記した地図を下さった。


 この地図によると四天王の一人は通称「地獄の蒸釜」と呼ばれる熱帯林の奥地にいるらしい。


──如何にも魔の者が好みそうな場所だ。


 俺は仲間達と共に王宮へ向かい王や俺を召喚した姫の前で四天王を攻める旅に出る旨を伝えた。


 しかし、ここまで一緒に戦ってきた仲間は尻込みし、姫に至っては泣き縋り引き留め、王に至っては無謀と諌めてくる始末だ。


──なるほど確かに仲間達は一緒に迷宮を制覇こそすれ勇者補正のある俺とは違って深部では実力の差が開いてしまったのでそう思っているのだろう。


──王様や姫の態度を見るに魔人族は余程強大な相手なようだ……。


──だが! 誰かがやらない限りこの世に平和が訪れる事は無いだろう。


 俺は引き留める皆を振り払い、一人地獄の蒸釜へと旅立つ事にした。


 確かに皆が引き留めるだけあり、地獄の蒸釜での戦闘は過酷だった。


 迷宮の深部で見かける魔物が昼夜問わず襲い来る上に感覚を惑わせる地形と気候もあり常に気が抜けない、俺は地図の目印と感を頼りに足を進めた。


 その様な状況が一週間程続いただろうか、周囲の状況が徐々に変わってきた事に気付く。


 魔物の襲撃がなりを潜め、代わりに前から漂ってくる強大な魔力の波動を感じたのだ。


 周囲を警戒しながら慎重に足を進めると、開けた地形と城壁とも取れる石造りの壁が視界に入ってきた。




 

 唯一の出入り口と思われる門は閉じられておらず、ここから見る限り門番の様な者も居ない。


──罠か? いや、ここまで来たのだ罠を考え手をこまねいていても始まらない。


 俺は周囲への警戒を維持しつつ門へと歩を進めた。


 後少しで門に辿り着く、そんな時だった。


「よくぞここまでたどり着いた勇者よ!」


 前方より強大な魔力を迸らせた魔人『達』が現れたのだ。


「お前たちは!?」


──その強大な魔力に圧されながらも辛うじて声を上げる事が出来た自分を褒めてやりたい。


 現れた魔人の中で一際大柄な体型の身の丈ほどもある大剣を持った赤銅色の髪の男が、地獄の底から聞こえる怨嗟の音色の如く、低く響き渡る声で返してきた。


「我は四天王が一、炎のブレイズホーン!」


──何ていう事だ、まさか領域に入った傍から目標に出会うとは……。


──だが、チャンスでもあるこの領域内を探索して消耗するよりここで戦った方がまだ勝機はあるだろう。


 俺はすぐさま戦闘に入れるよう魔力を全身に漲らせた。

 

 だが、いざ臨戦態勢をとったその時ブレイズホーンと共に現れた魔人達が驚愕の言葉を告げてきのだ。


 水色の衣を纏った女が豊満な胸を押し上げ


「我は四天王が一、水のウンディルメディ!」


 緑を基調とした軽鎧に身を包んだ女が 


「我は四天王が一、風のエルストーム!」


 黄土色した毛皮の腰蓑を巻いた筋骨隆々の男が


「我は四天王が一、土のドアルガイナス!」


 そしてどこか捉え処のない気配を漂わせる、気を抜くと見失ってしまいそうな……実際声を発するまでそこに居るか確信が持てなかった黒髪の男が


「我は四天王が一、陰のシャドウネビル!」


 俺はくじけそうになる心を繋ぎとめる事に辛うじて成功すると、状況を理解しようと努める。


──何という事だ!四天王達が俺を待ち伏せするべく貼っていた罠に掛かってしまったというのか!おのれ四天王め!…………四……天王?


 俺は呆けそうな気持ちを引き締め、相手の挙動に視線を合わせつ思考を巡らせた。


──俺の聞き間違いか?いや、だがしかしこいつ等は確かに己を四天王と言っていた、見たところ感じられる力に大差は無い。


──はっ!?なるほど……魔人族も一枚岩では無いという事か、ここで俺を倒し魔人族内での地位を確固たるものにしようとやってきたのだろう。


 1人相手にするだならば死闘となるだろうが勝利は得られるだろう、だが相手は5人、もはや勝機を見出す事も出来ずこの場を切り抜ける事に意識を切り替え考える。


──四天王と言われる魔人が実は5人居たとは名前からして人類は誰も気付かないだろう、ここは戦闘を抑え情報を持ち帰り体制を整えるべきだ。


──逃げ切れるか?いや、逃げ切るんだ!俺の帰りを待ってくれている姫の為にも!


 撤退する事に意識を切り替え、徐々にではあるが間合いを離し、相手の挙動に集中する。


 こちらの様子に気付いた四天王の一人が動き見せる気配を感じると、俺は強化魔法を無詠唱で使用し、森へと逃げ込むべく足に力を入れた。


 だがその瞬間、俺は絶望に至る声を聞くこととなる。


「クスクス、どうなされたのですか勇者さん?」


 この様な場所でなければ聞き惚れてしまいそうな透き通った女性の声が……。


 背後の森から四天王を上回る強大な気配が複数現れたのだ……。


──馬鹿な!?四天王に意識を集中してこそすれ撤退経路の気配も常に探っていた、確かに背後には誰も居なかったはず!


 すると先程の声の主が俺が振り向くより早く背後から抱き止めた。


──何!?ここに至るまで動作が読めないだと!?


 潜入する予定で鎧をマジックポーチに入れていた事が仇とはならずに済んだ事に雀の涙程の安堵を感じると共におそらく、いや、間違いなく豊満だと思われる胸を押し付けながら声の主は次の言葉を放つ。


「どこに行こうとしてたのかしら?ゆ、う、しゃ、さん?」


 小さな子供を叱る様な声色で放たれた言葉は平時であれば状況も相まって興奮してしまうかもしれない。


 だが俺は現状の絶望感に膝の震えを抑える事が精一杯だった。


 背後の気配が今すぐ俺をどうこうしようとしていない事に気づき、声の震えを抑えつつ誰何する。


「クスクス、私は四天王が一、極光のレイファリスですわ」


 レイファリスが答えたのに続くように残りの魔人も声を発した。


「僕は四天王が一、闇天のダナトスだよ」


「吾輩は四天王が一、時空のゼノトラクである!」


「わらわは四天王が一、音鎖のトゥルフォークじゃ!」


 俺は今度こそ驚愕の拭いきれない表情を隠すことも忘れ考える。


──ば、馬鹿な!?何故四天王がこれ程までに……それ程魔人達は意思の疎通が取れていないのか?いや、しかし魔人は『魔王』の元、一定の統治をしていると聞いたが……。


 現状が全く理解できず、思考の渦に飲み込まれそうになった時、炎のブレイズホーンが俺の疑問の答えとなる大きな声を発したのだ。


「おぉっ!レイファリス様も皆様も、随分と早いお越しでしたな」


 その問いにレイファリスは嬉しそうに声を返している。


「勇者さんが来ると聞いたものだから、嬉しくてつい」


──レイファリス『様』だと!?そうか、そういう事だったんだな!?

 

──つまり新たに表れたレイファリス達が裏……いや、真の四天王だったのだろう。


 会話に寄って若干緩んだ拘束から抜け出し背後を振り返ると、真の四天王達は余裕の笑みを浮かべてこちらを見ている。


 先程の会話からするに俺がここに訪れるという情報は完全に伝わっていたらしい、もしかすると人類側にスパイ、もしくは裏切り者が居たのかもしれない。


 ここから感じられる気配ですら間違いなく一人でも俺より上であろう真の四天王が4人、そして背後の門には四天王が5人もはや逃げ切る事は不可能だろう。


──もはや生きて帰る事能わず……か、姫、すまない!


 俺は生きて帰る望みを捨て一人でも多くの四天王を道連れとするべく、自爆魔法用の魔力を限界まで体内で練り上げる為、丹田に意識を集中する。


──思えばこの丹田に意識を集中させて魔力を練り上げるのも、前の世界で習った古武術の応用だったんだよな、姫は大喜びで新技術だなんて喜んで皆に言いまわっていたし、今となっては懐かしい。


 レイファリスとブレイズホーンはもはやこちらなど眼中に無いかの如く会話に集中しているが、残りの四天王共の視線はこちらだ、魔力隠蔽魔法を体表面に掛けつつ、魔力の練り上げを続ける。


 一瞬皆の視線がこちらに向き、感付かれたかと焦ったが会話は途切れる事無くこちらに何かしてくる気配も無い。

 

 二人は5、6分も話して居ただろうか、俺は緊張感と魔力の練り上げに集中して居たため正確な時間は分からない、あと少しで魔力の高まりは限界を超えるそんな時だった。


 不意にレイファリスが俺の方を向きこう言い放った。


「あらあら、勇者さんごめんあそばせ、お待たせしてしまったようですわね」


──ちっ!もう少し会話していればいいものを


 俺は不機嫌そうな表情を隠すこともせずに浮かべた。


「勇者さんの準備も整っているようですし、では私どもの居住区に招待しますわね」


──なに!?こちらの魔力の練り上げに気付いたというのか?いや、そんな筈はないだろう、現にこいつ等は何の警戒もしている様子もない。


──大方俺が死の覚悟を決めた事を感じたのだろう。


──いいさ、だがただでは死なんぞ!貴様らの何人かは確実に道連れにしてやる!


 四天王に囲まれながら俺は死出の門を潜る、門を通り抜ける途中何やら抵抗を感じたが恐らくこいつ等が俺を弄ぶ為に用意した罠だったりするのだろう。


──あと少し、あと少しで魔力が溜まり切る!


 体内の魔力の渦をそう読んだ俺は表面上は不機嫌を保ったまま中央の神殿の様な所に連れて行かれた。


 道すがら光景を観察すると、視線を感じるのだが誰ともすれ違う事無く歩を進められてしう、やたらと人類圏の情報を俺から聞き出そうとしてくるレイファリスに心を乱されそうになったがその様な手には乗らない。


 その豊かな双丘に腕を取られて多少魔力の溜まりは弱まったがそれだけだ、大丈夫、問題ない。


「勇者さん、あそこが目的地ですわ」


 レイファリスの声に俺は目の前の建物を観察する。


──俺の処刑場所はあの禍々しい魔力を感じる神殿の前と言う訳か……。


 人類圏にあったダンジョンから感じるそれを数倍濃縮した様な空気を感じる。


──なるほど、俺では歯が立たないはずだ、こいつ等はこんな禍々しく過酷な環境の中、己を鍛えて来たのだろうな。


 残りの生を惜しむつもりは無いが、俺は彼我の環境に羨ましい様な同情の様な複雑な感情を抱いてしまった。

 

 だが、それとこれとは別だ、なるべく大勢を巻き込める様、細心の注意を払いながらその時を待った。


 レイファリスは神殿入口の階段を登り終えると広場を振り向き話し始める。


「勇者さんがお越しになりましたわよ!皆いらっしゃいなさい」


 拡声の魔力が込められているのだろう、その声は壁で囲まれたエリアに響き渡るかの様な大きさだった。


 そして、その声に導かれるかの如く周囲の建物より、見た目は老若男女様々だが、人類とは比べられない程の魔力を内包した人影が集まり始めた。


──何てことだ!どいつもこいつもかなりの力を秘めている、それにこれ程の数が居たとは……。


──今の俺が溜めこんでいる魔力で果たしてどれ程道連れに出来るだろうか?


 魔人の実力と人数に俺は魔力暴走による極大禁術を使用する事を決意する。


──大気中の魔力崩壊で絶対不踏地域並の環境になってしまうが、これだけの戦力に攻められたら人類では一溜りもないだろうしな。


 環境汚染は前の世界に居た頃の感覚からすれば忌避感が強いが背に腹は代えられない。


 何としてもここで魔人の進行を食い止めるべく、魔力暴走の準備に入った。


 もはや周囲の様子に気を配る余裕も忘れ魔力への負荷を掛け続ける俺に対し、人込みから抜け出してきた兄妹と思われる魔人の子供達が前に出て声を上げた。


「あんちゃんが勇者か、おいらは四天王が一、暴虐のジャジャって言うんだよろしくな!」


「ジャジャ抜け駆けするなよぅ、勇者さん僕は四天王が一、不断のポロリスです」


「おにいちゃんたちずるい!あたしはちてんのうがいち、みわくのピッコロリスです!」


──どう見ても3人しか居ない。


 人類圏でならば微笑ましいと思えてしまうが、3人とも人類種の大人並の魔力を内包している。可哀想だとは思うが、魔人種の危険性を再確認した俺は更に体内の魔力へと負荷を掛け続ける。


 そんな3人に触発されたのか周りに居た魔人達が群がり、我が我がと捲し立てて来た。


「おりゃぁ四天王が一、剛力のパワフリャイドだで、よろしくな勇者さん」


「うちは四天王が一、魅房のエロティリアよ、よろしくねぇ勇者さんっ♪」


「ぼ、僕は四天王が一、不落のヤオインゲン!よ、よろしくね!」


──…………ぇ?


──どうなっているんだ!?何でこう、どいつもこいつも四天王、四天王と……。


 俺はあまりの事態に集中を切らし、せっかく溜めた魔力を拡散させてしまう。


──しまった!これが狙いかっ!


 狡猾な魔人の手口に掛かってしまった己を


──せめて死ぬ時位は潔く逝こうか……、見た所人類種と変わらない文明を持っている様だし、辱めを受ける事も無いだろう。


 生を諦め、俯きそうな頭を『せめて最後は』と堪えている所にその人物は姿を現した。


 いつの間にかモーゼの十戒の如く人波が割れ、身の丈程もある大杖を持ちかくしゃくとした姿勢でこちらに向かってくる老齢の魔人が。


「ようこそ参られた勇者殿!儂は四天王が長、癇癪のオーウェルシュレイジンガーじゃ」


──ふむ、さしずめ先代の四天王とかなんだろうな。


 俺はどうせ死ぬのだからと疑問に思った事を口に出した。


「何故四天王がこれ程までにいるかですと?可笑しな事を言う勇者殿じゃな」


 長は何が可笑しかったのか肩を震わせながら驚愕の答えを語りだす。


 俺は長の話を聞き、内容を理解すると脱力し膝から崩れ落ちた。




──結論から言うとここは四天王の一人が住んでいる所ではなく、『四天王の町』というのが正しい名称だった、大昔の魔人族の四天王が作り上げた前線の町だったらしく、住民の名乗りもそれに影響を受けた様だ。


──更に言うなら、人類種と魔人族は敵対しておらず、逆に大陸中のダンジョンを相互物資支援の上、比較的危険度の少ないダンジョン発生地は人類種、凶悪なダンジョン発生地は魔人族と活性化を抑える活動をしていたらしい。


──尚、俺がここに来る事は一週間前、つまり俺が旅立った時には既に姫から長に通信魔術による連絡が入っていた。ついでに姫が婚約者のエルフの王子と結婚する為、参加の意志の確認も……どうやらこちらが本題だったらしいが。



──……恥ずかしい、穴があったら入りたいとはこの事だ。




 それから更に1年が過ぎた、俺は魔人圏のダンジョンをレイファリス達と共に沈静化させて回った。


 どのダンジョンも人類圏の比では無く凶悪なダンジョンばかりで最初の頃は俺ですらただの足手まといでしかなかったが、


 まぁ、そこは勇者補正で! 正直、俺が居ない方が早く沈静化させる事も出来ただろうが、レイファリス達の支援及び指導の元、どうにか肩を並べる事が出来るまでになった。


 今日も1週間振りにダンジョンの沈静化を済ませ『四天王の町』へ向かっている。


──待っていてくれよ!ピッコロリスちゃん!


 口に出した訳でも無いのに極寒の視線を向けてくるレイファリスに視線を合わせない様に俺は町へと急いだ。


 


 月日は流れ……。


 俺はダンジョンの沈静化の一線から退き、今は『四天王の町』妻を貰い悠々自適の生活を送っている。


──妻は誰かって?


──勿論ピッコロ……レイファリス様です!はい!


 何故か心を読まれているんじゃないかっていう位に感の良いレイファリスの尻に敷かれているが、2児に恵まれこれはこれで幸せなだ。


 今日は人類圏でまた召喚された勇者が魔人圏のダンジョンに入るべく向かっているらしい。


 先達として一応アドバイスでもしてやろうか。


 まぁ、俺の時みたいな事はそうそう無いだろうが念のためにな。


──おっと、そうこうしてる内に勇者君が来たようだまずは自己紹介から。



「俺は四天王が一、勇の〇〇だ!」



──俺も大概に染まってしまったらしい。


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