身内状況と方針
お久しぶりです、雪下です
日が照りつける石段は、水をたらせば蒸発しそうなほど熱せられ
そんな日差しに、半袖短パンという俺はペットボトルを片手に近所の神社を訪れていた
「あーあちーよー・・・」
数歩歩くごとにペットボトルの水を一口程度口に含ませる
境内を抜けて、奥に続く神社の名物・・・”無限鳥居の石畳”の入り口で立ち止まる
そこは太陽の日差しを大きな木々が遮って、涼しい木陰を夏に提供してくれる
そしてーーーその鳥居の影からこちらを見る人影があった
「何隠れてるんだ?」
「・・・・・・」
「おーい」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しばらくの無言
「沙羅~」
「・・・っ、はい」
名前を呼ぶと、鳥居の影からそっと姿を現す
白い髪を長く伸ばし、巫女装束に身を包んだ少女が出てきた
「ホラ、遊びに来たぞ」
「・・・はい」
彼女の名は沙羅 ”白狐” 沙羅
俺の、数少ない友人の一人だった
「ふぁ・・・もう朝か」
大人しく目覚めて襖を開ける
すると木陰に遮られながら、朝日が部屋に差し込んできた
空気汚染なんていざしらずの新鮮な空気を肺に無理矢理送り込み、深呼吸
「あ、起きてたんですね」
と、何故か割烹着の沙羅がしゃもじを片手にこっちに来た
「朝ごはん、もうすぐできますから~」
「わかった、すぐに行く」
大きな尻尾を揺らしながら台所に向かう沙羅はどこか嬉しそうだった
リビングで俺を待っていたのは、質素な日本伝統の朝食だった
ふっくら白米を茶碗に盛って、そして豆腐と赤味噌を使った濃いめの味噌汁
鮭の切り身という三点・・・なんだが
「・・・どうかしました?」
と、疑問げに俺の顔色を窺うように沙羅が見ていた
「いや・・・誰かに作ってもらった飯を食うのが久しぶりすぎてな」
というのも、俺は捨て子だからだ
天涯孤独ってやつだ・・・自分の力で食っていかなきゃならなかった
職を探して、皿洗いから始まって料理、アルバイト・・・金貯めて勉強しまくって大学いって
そうして行った結果、俺はとあるサービス業の統合管理職にまでなった
でも・・・俺の中にある心が、いつも何かを欲していたんだ
金でもない、うまい飯でもない
自分でも何かわからないその正体不明の黒が
いままでずっと俺の心の中にあった
それが、ここで生活し始めてから
ほんの少しだけ、和らいだ気がする
俺の気のせいかもしれないがな
「それじゃ、いただきます」
「「いただきます」」
そうして、朝食を頂く
やわらかご飯を口に運び、米の甘さを味わいながら味噌汁を口に含む
「うまい・・・」
もう、それしか言いようが無いんだ
こんなの、この味気ない人生で初めてだ
「はいっ。ありがとうございますっ」
にっこり、笑顔が眩しい友人は
いつも通り、昔と同じように優しかった
「さて、今日はお母さんとお父さんがうちに来ます」
と、沙羅が落ち込み気味に発表する。
ま、それなら俺がここに居るってのは好ましくないな
「ふむ・・・それなら俺は部屋から出ない方がいいな」
「そうですね。すみません・・・」
「気にするな。そんじゃ、俺は部屋で寝てるとするか」
と、襖を開けて自室に戻る
さて、今から何をしようかねぇ・・・とりあえず寝るか
「沙羅~居るの~?」
と、玄関先からお母さんの声が聞こえた
「はい、お母さん」
「あらあら、久しぶりだわね沙羅。元気にしてた?」
「はいっ!!病気なんてしていません」
「伊羅は?」
「私もです。お母さんこそお体は?」
「私は大丈夫よ。ね、お父さん」
母の後ろでキセルを咥える紺色の和服に身を包んだ人が私達のお父さん
「ああ。そうだな」
「・・・どうかされましたか?」
「いや・・・別になんでもない」
キセルをふかし、居間から外を見上げるお父さん
「・・・何かあったんですか?」
「お父さんの事?私は別に何も知らないけど・・・」
「(匂うな・・・これは人間の匂い・・・それも男のものだな)」
時折訝しげな顔になるが、沙羅達が人間をここに連れ置くはずがない
前の住職が存命の頃は、何度か人と接する機会が沙羅にはあったようだ
その事を私達に話していた頃は、本当に沙羅は心から楽しそうだったものだ
「さて、沙羅もそろそろお年頃だわね・・・お見合いとかはする気はないの?」
「えっと・・・ありません・・・」
「あら、前まで悩んでたじゃない。何かあったの?」
「いえ・・・」
沙羅の様子が少しおかしいな・・・
何かこう・・・少し気持ちに迷いが見える
「んー・・・あっ!!もしかして」
「?」
「想い人ができたの?」
「ーーーーーっ!!」
一瞬にして、沙羅の顔が赤くなる
ちょっとまて・・・
「それは、本当なのか?」
「・・・(こくっ」
どこの馬の骨だ?
我が愛娘を嫁に取ろうとしておる愚か者は
「お父さんお父さん、妖気妖気」
妻に気づかされて、自分が出していた妖気を抑える
「すまない、そいつはどんな奴だ?」
「・・・優しくて、強くて・・・何度も助けてくれて、昔も私と遊んでくれていた人です」
「あら?もしかしてよく遊びに来てた人間の子の事?」
「多々羅、お前はその男を知っているのか?」
「ええ、私は影から沙羅を見守っておりましたから」
知らんぞ!?そんな事は!!
「黒髪の普通の人間の子供でしたよ」
「そうか・・・沙羅、本当なのか?」
「・・・はい」
俯く沙羅はどうやら恥ずかしそうにしていた
ふむ・・・しかしな・・・
「人間との婚姻は認める訳にはいかん。理由はお前も判るだろう?」
「・・・はい」
「それなら、その男の事は忘れろ。それが白狐一族としての正しい判断だ」
「・・・・・・」
そうだ、それでいい
沙羅・・・お前はこの白狐の血を受け継ぐ者なのだ
人との関わりなど、一族の未来に比べれば軽いものだ
「お父さん」
「何だ多々羅」
「その子はーーー」
と、多々羅が言いかけた瞬間、沙羅が顔を上げた
「もう・・・いいのです・・・」
透明な雫が沙羅の頬を伝う
「私は・・・ずっと一人で・・・ぐすっ・・・」
沙羅は両手で顔を塞いだ
それでも、指の隙間から涙が溢れた
そしてーーー
スタァンッ
と、隣の部屋とを隔てる襖が音を立てて開いた
そこに立っていたのはーーーー
「沙羅を泣かせるな」
男・・・それも
「人間・・・貴様、何故ここに居る」
我らが最も恐れ、最も忌むべき存在であった
なんか寝転がって今後の白弧家の経済計画を練っていると
向こう側で話し声が聞こえた
大半は小声で聞こえなかったが
「・・・ぐすっ・・・」
沙羅の泣声だけは、はっきりと耳に届いた
ああ、出る幕じゃない
出る幕じゃないのに・・・くそっ
体が勝手に動いちまう
気が付いた時にはーーー
スタァンッ!!
俺は、その仕切りを跨いでいた
「沙羅を泣かせるな」
そこに居たのは、中年の男・・・沙羅達の親だな
「人間・・・貴様、何故ここに居る?」
ゾクッ
その一言に、背筋に悪寒が走る
でも・・・臆する訳にはいかない
「俺がどこに居ようが勝手だ、アンタには関係ない」
言った瞬間、反射的に首を傾けた・・・やっぱりな
「・・・ほう、いい反応だな」
直立してはいるが。その右手にはいつの間にか刀が鋼の刃をむき出しにしていた
「いや、少し遅れた。アンタも速いな」
まいったな・・・掠っちまったよ
ある程度予想はできていたが、流石に予想以上の速さだ
頬の傷口を拭う
まずいな。エモノが何も無い・・・つまり、防御できないんだよな。あの超高速居合いを
つまり、俺の選択はただ一つ
「んじゃ逃げるわ」
逃げの一手に尽きる
「ほう?貴様、この森から逃げられると思っているのか・・・面白い
さあ逃げろ。どこまでも追い続けてやる」
不敵にも、俺に背を向けたぞこのバカ
んなら、やる事だだ一つだな
「伊羅、アレ貸してくれアレ」
「え・・・アレって・・・あれですか?」
と、伊羅が壁にかけてあったものを取って来る
「これ・・・ですよね・・・?」
「ん。コレコレ。あんがとよ」
渡されたものを持って、スタスタとおっちゃんの後ろに歩み寄り
握り締めたそれを大きく振りかぶり
「そぉいッ!!」
ベキィッ!!
持っているものが折れるくらい強く殴った。さらば俺のエモノ、お前の耐久度は結構よかったぞ
ちなみに、俺が持っているものは・・・
「ごがっ!?ひ・・・卑怯・・・ものが・・・」
ゴム鞠付きの・・・・竹製孫の手(105円消費税5%込み)
ゴム鞠の部分が脳天ど真ん中に直撃させた
「卑怯もなにも、アンタ勝手に背中向けるとか舐めプしてたんだろうが
さて、刀没収~」
持ち主の下を離れた日本刀を取り上げ
鞘に戻して沙羅に投げる
「えっあっ!?わわっ」
「持っといてくれ。さ~て・・・」
目の前で転がりもがいている男に向かって
「説教の時間だぜぇ?」
色々聞きたい部分と、色々問い詰めたい部分を胸に
俺は額にムカつきマークを作っていた
「・・・でだな・・・かくかくしかじかこういう訳でここに居るんだ」
「だったら、なぜ帰ろうとしないんだ?」
「アンタこの家の経済状況知ってるか!?
流石にコレ放置して帰るとか人間じゃねぇよ!!」
と、まあ、何故か
沙羅の親父を説教する流れになってるんだが
「いや・・・実は・・・」
と、沙羅の親父が何かを言いたかったんだろうが
ぐぅ~・・・
「・・・後は語るまい」
「な・に・が・語るまいだバカ!!飯に困って飢え死にとか神様としてダメだろ!?
そりゃ参拝者や崇拝者も見放すわ!!そこは神の力で何とかしろよ!!」
「できるものなら何とかしているのだ!!」
「逆ギレしてんじゃねーよ!!」
「できぬからこうやって腹をすかせるしかないのだッ!!」
「諦めんなよぉぉぉぉッ!?」
色々突っ込み所が多すぎて笑えないんだが
「まあ、やっぱりあの時の子だったのね」
そんなバカの横で同じく正座をしている人は、恐らく沙羅の母親だろう
「どうも、ていうか、俺を知ってるんですか?」
「あら、そうだったわね・・・私は白狐多々羅です。娘がお世話になってます」
上品にあいさつをしてくるその人は、歳を感じさせないほど若々しかった
それこそ、沙羅のお姉さんみたいな感じだ
「どうも・・・草むらの狐さん」
「あら・・・気がついていたの?」
「そりゃ・・・木の陰から耳や尻尾出てたら気がつきますよ」
「・・・お恥ずかしい限りです」
・・・親子そろってかわいいなこの狐の神様は
残念だが伊羅がしっかりするのも頷ける
「丁度よかった、狐の神様の取りまとめは誰ですか?」
「私だ」
「お前だったのか(呆れ」
神様をお前扱いするが、もう俺の中で沙羅パパのポジがバカで確定したからな
修正はしばらく効きません
「何だ?娘の事か?」
「まあ当たらずとも遠からずだな
今、この白狐一家の財政状況・・・世界の人々に聞けば全員が納得するだけの火の車状態なんだが
それを解決すべく”白狐神社再興計画”を思考中だ
神様は崇められて、その恩恵を受ける代わりに神の力をほんの少し与えるって事で
言ってしまえば交換をしている訳だ。今の収入源が少ない賽銭のみ
また、お守りや御札は現在品切れ・・・本殿の管理もできない状況
こうなったら取り壊されるのも時間の問題だ
その証拠に住職さんが亡くなられてからこの状態まで堕ちるのは
そう時間はかからなかったハズだ・・・違うか?」
「・・・・・・」
「沈黙は肯定と受取る。今現在この家は俺の預金で凌いではいるが、預金も無限ではないので
いつかは底を突く。そうだな・・・どう足掻いても向こう一年以内には確実になくなる計算だ
そうなるまでに、神社再興計画を消化、補完しなくてはならない
これが今できる唯一の手段だ」
「ふむ・・・」
「まず第一段階として神社の清掃、補修管理の徹底だ」
「そうなると人手が必要だな。式をつかおうではないか」
「式?式神ってやつか?」
「そうだな。私達の神の力・・・神力を使って呼び出す神の手足だ
姿は人の姿なので怪しまれないはずだ」
「んじゃその案を採用する。一編に全てはできないから効率よく行おう」
「・・・だが」
「?」
「腹が減って力が出ん・・・」
「沙羅!!伊羅!!6万渡すから親御さん達にとびきり最高にうまい料理よろしく!!」
「「えぇっ!?」」
「手加減無用!!今回は節約考えんでいい!!山の幸海の幸問わず今日は楽しむぞ!!」
やれやれ、明日から忙しくなりそうだ
「さっきお金が厳しいって・・・」
「その6万以上の働きをしてもらえば問題ない
それに予定通りこなしていけば段々と収入が増えるハズだ
だから行動は早く行う必要性がある。飯で時間と労働力が買えるなら安いモンだ」
地道にでもいいが、時間が経過するにつれて悪化する状況下である故に
駆け足である程度進めなければならない
落ち着けば、あとはゆっくりでいい
うわぁぁぁぁ気がついたら時間こんなにも経過してたわけです
すみませんでした
意見感想募集中
よろしくお願いします