【008 初めての戦い】
【008 初めての戦い】
〔本編〕
龍王暦一〇五〇年五月三日未明。コムクリ村がバルナート帝國の一団に襲われた。
数にして三十人程度。全て白い鎧の兵士であった。
コムクリ村には徴兵によって、今、三十歳未満か六十歳以上の第一段階の民、もしくは二十歳未満か七十歳以上の第二段階以上のランクの民しか原則いなかった。
村には火がかけられ、逃げまどう人々は次々と殺されていった。村民も全員兵士であることは前に述べたが、村民達は皆、実戦経験はほとんどが皆無であった。
そのため、大陸最強の兵と言われるバルナート帝國兵の襲撃の前には全く無力であったといえるであろう。
ハクビ、マーク、レナの家にも敵の襲撃が近づいてきた。
「「どうしよう」」マークとレナは途方に暮れていた。
「とにかく逃げよう! このままではみんな殺される……」
「でも、もうそこまで迫ってきているよ!」
ハクビの言葉にマークが応じた。
「大丈夫だ! 僕に策がある……」
ハクビはそう言うと、マークとレナにその策を伝えた。
策とはレナを囮にハクビとマークが奇襲を仕掛けるというものであった。
「分かった! このまま何もしないで死ぬわけにはいかないからな!!」
マークが言った。
「私もハクビ……あなたを信じます!」
レナの言葉であった。
三人は生き延びるため帝國軍と戦う決意をしたのであった。
小屋の裏側の窓から外に出たハクビとマーク。
マークが屋根にあがり、ハクビは家の脇の死角になるところに待機した。
そうこうする間に帝國軍の兵士が三人やってきて、マーク達の家に火を放った。
ほどなくレナが入り口からとびだし、家の前で気絶したふりをする。
帝國軍の兵士は、若い女性一人と思い、各々の武器をおさめゆっくりとレナに近づいていく。
三人の兵士は完全に油断していた。
次の瞬間である。
屋根の上にいたマークが矢を放ち、その矢が帝國軍兵士一人の右腕に突き刺さった。
びっくりして屋根を仰いだ兵士達に、小屋の脇からハクビがとびだす。
ハクビは右手で長斧を真横に構え、それと同時に短斧を一人の兵士に向かって投げつけたのである。
短斧は正確に一人の兵士の額を割り、あわてて剣を抜こうとしたもう一人の兵士を、横一閃に薙ぎ払らわれたハクビの長斧が確実に仕留めていた。
最初にマークの矢に右腕を貫かれた兵士は、他の二人が倒されたのを見て、あわてて逃げ出した。
マークが二の矢を放ったが、その兵士には届かなかった。
ハクビは兵士が逃げたのを見て、マークが屋根から降りるのを手伝いながら言った。
「すぐに応援の敵兵がやってくる。逃げよう」と……。
〔参考一 用語集〕
(神名・人名等)
ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年)
マーク、レナ(コムクリ村の住人。マークが兄で、レナが妹)
(国名)
ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅の建国した國)
バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯の建国した國。金の産地)
(地名)
コムクリ村(ソルトルムンク聖王国の南西部にある小さな村)
(兵種名)
第一段階、第二段階(兵の習熟度の称号。第一段階より第二段階が上)
〔参考二 大陸全図〕