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【603 天界最終決戦(九) ~潮目が変わる~】


【603 天界最終決戦(九) ~潮目が変わる~】



〔本編〕

 シャカラがコンガラの熾烈な攻めを受け続け、ついに十時間が経過した六月日の午前八時。

 シャカラの防御も、既に限界を超えていた。

 厳密にいえばとっくに限界は超えているが、そこはシャカラの必死の食い下がりで、何度も死地に陥りながらも、かろうじてそこから逃れた。

 シャカラは、既に騎乗していたカリウスから降りている。

 攻めるのであれば、カリウスの機動力は有効だが、今、コンガラの攻めを受け続けるのであれば、カリウスへの騎乗は、あまり有効でないどころか、場合によってはカリウスが先にコンガラのやいばに倒れてかねない。

 それを察したシャカラは、コンガラの熾烈な攻めが始まって六時間が経過した六月日午前四時、カリウスから飛び降りたのであった。

 小型龍ドラゴネットのカリウスも、シャカラの意図をすぐに察し、シャカラが飛び降りた後は、少し距離をとり、シャカラとコンガラの戦いを見守っている。

 むろん、コンガラに隙があれば、いつでも、両者の一騎打ちに介入するつもりではいたが、少なくともコンガラの今の攻めにそのような兆候は見られない。

 攻撃に偏重した戦いを演じているコンガラは、ある意味隙だらけではある。

 カリウスからしても、その隙をつこうと思えば、つけるわけであるが、それでも今のコンガラの驚異的な速度から鑑みるに、カリウスのあぎとや爪がコンガラの身体に届く前に、コンガラの持っている武器が、カリウスを切り裂くであろう。

 技の多彩さから考えて、隙と思える箇所が、本当に隙なのかも判断に迷うところであった。

 まさしく『攻撃は最大の防御』という言葉どおりの戦況である。

 しかし、そのカリウスが自らの命を賭して、コンガラに攻めかかるべきではないかという究極の選択を、選ばざるを得ない状況にまで、事態が切迫していた。

 カリウスのマスターであるシャカラに、絶対的な危機が、目前まで迫っていたからである。


 シャカラは満身創痍まんしんそういである。

 コンガラの一撃による肋骨の骨折もさることながら、数か所は、コンガラの攻撃を鎧の上から受けながらも、内出血でおさまらず、実際に傷口として開いていた。

 幸いにもシャカラの、魔力を用いず、自動的に術式を発動できる神の潜在的魔力により、止血は出来ているため、出血多量によるショック死という事態について、今のところ心配しなくても大丈夫である。

しかしそれも止血が精一杯で、傷口を治癒するまでには至っていない。

 さらに、コンガラの驚異的な速さと、熾烈さを兼ね備えた攻撃による衝撃で、コンガラの攻撃による直接的なダメージではないが、シャカラが、その攻撃を受けるたびに身体を酷使したことによる筋肉への負荷が、筋肉を限界にまで疲労させ、さらにいくつかのすじなどは、シャカラの限界を超えた無茶な動きや、コンガラの攻めの衝撃に耐えきれず、傷ついたり、場合によっては切れたりしている。

 それでも、シャカラの四肢のいずれかが全く動かせないほどのダメージではないため、シャカラの精神力が途切れない限り、シャカラは戦い続けられる。

 闘神であるシャカラの精神が先に屈するとは考え難いので、その心配は無用ではあるが、さすがにこのまま放っておいてはいけない事柄が、一つだけあった。

 コンガラの攻めを一手に引き受けているシャカラの武器である長斧の、耐久のことである。

 半永久的に使用でき、さらに自己修復能力を持つ神の武器――長斧ではあるが、今のコンガラの攻めは、その長斧が耐えられるかどうかという程の熾烈さであった。

 長斧自身の自己修復能力が追いつけるレベルではないのは当然として、コンガラの次から次へと投影される古代の神々の武器により、長斧の刃も柄も無数の傷を受け、表面の傷のみならず、武器の内側への直接的な衝撃が届き、この日の午前七時半を過ぎたぐらいから、長斧自身が悲鳴を上げているのではないかと思われるような、空気を切り裂くような音と、微妙に揺れるような衝動を、長斧自らが起こし始めたのであった。

 シャカラからしても、長斧のこのような現象はおそらくは初めての体験かもしれないが、それでもシャカラの両腕に直接響いてくる衝撃から、神の直感で長斧の耐久の限界を感じ取ることができた。

 シャカラの、長斧耐久の見立ては後五十分。

 つまり、午前八時を過ぎた今、後二十分弱で長斧が限界を迎えるということになる。

 極芸の神であるシャカラの武器は、長斧と短斧の二つのみ。それ以外はない。

 シャカラには長斧を失っても、まだ短斧が残っていることになるが、短斧は、柄の短さから鑑みて、攻めに特化した武器である。

 今のコンガラの攻めを受け続けるのに、短斧は適していないので、長斧は必須ということになる。

 極論すれば、シャカラの右腕が仮に失われるより、長斧を失うことの方が、今の状況にとって深刻な事態なのであった。

 それをシャカラからの天声で知った白い小型龍カリウスにとって、ここは自分が強引にでもコンガラとシャカラの戦いに介入して、シャカラに一瞬とはいえ、攻めに転ずる機会を作らせる必要が生じたと感じた。

 そしてそれによって十中八九、カリウスはコンガラによって倒されるとであろう。

 むろん、カリウスが自分の命を惜しんで、二人への介入に躊躇するような龍でないのは、改めて言うまでもない。

 それでも、自分の一命を賭けての介入で、シャカラの攻めに転ずる機会が作ることができなければ、結局、カリウスもシャカラも、コンガラの前に倒れるという結果となり、カリウスの死が無駄となってしまう。

 そういう意味から、カリウスの二人の戦いへの介入のタイミングは、非常に重要であった。

 しかし、長斧の寿命が訪れるのは刻一刻と近づいている。

 つまりカリウスが、いつまでも介入のタイミングを計って待っていられる状況ではない。

 午前八時十五分。シャカラの見立てで、長斧の耐久が後五分という時。

 カリウスは、二人の戦いへの介入の時間を、今から午前八時二十分までの五分間の間に必ず実施すると心に定め、それをシャカラとカリウスだけに通じる天声によって、シャカラに告げた。

 遅くとも後五分後にはカリウスがコンガラに攻めかかるということであり、結論として、それはカリウスの最後を意味していた。

 しかし、カリウスの悲壮ともいえるその天声での告知に対して、シャカラからの天声の応答は意外なものだった。

“カリウス! それは無用だ! 今、潮目が変わった!! 僕らの勝ちだ! 僕らの粘り勝ちだ!!”




〔参考 用語集〕

(八大龍王名)

 沙伽羅シャカラ龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王とその継承神の総称)


(八大童子名)

 矜羯羅コンガラ童子(八大童子のうちの第八童子である筆頭童子。八大龍王の優鉢羅龍王と同一神)


(神名・人名等)

 カリウス(沙伽羅龍王に仕えている白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう)


(付帯能力名)

 天耳・天声スキル(十六の付帯能力の一つ。離れたある一定の個人のみと会話をする能力。今でいう電話をかける感覚に近い)


(竜名)

 ドラゴネット(十六竜の一種。人が神から乗用を許された竜。『小型竜』とも言う)


(武器名)

 短斧(シャカラの得物の一つ。短い柄の戦斧)

 長斧(シャカラの得物の一つ。文字通り長い柄のついた戦斧)

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