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【521 聖皇の決断】


【521 聖皇の決断】



〔本編〕

 ダードムスの疑問に対して、ジュルリフォン聖皇はニヤリと笑い、話を始めた。

「ダードムス! そちは本当に鋭いところを突いてくる。話が早くて良い、そちのいう通りだ。一つに統合してしまえば、それこそ大陸内の争いは、ほとんど無くなる。八國にするというのは、大陸内の争いを無くす目的であれば、お世辞にもうまい方法とは、朕は思わない。

 そもそも、ヴェルトの史書は龍王暦元年から始まっているので、それ以前の歴史は、ほとんど文字として残っていない。龍王暦よりさらに一万年前の神話の話が伝承されているだけで、そういう意味では、ヴェルト大陸がどのように混沌としたかは、具体的には何も分からない。

 実際に龍王暦以降の時代より混沌としていたのか? そもそも、龍王暦元年の数年前に、何故いきなり八人の神が、この大陸の統治に赴いたのか? その原因となる事柄が一切、史書には記されていない。あまりにも、龍王暦以前の歴史が不明過ぎる。

 今のウバツラ龍王である八大童子のリーダーのコンガラも、その点について疑念を抱き、その疑念から端を発し、八國統治より争いがなくなる大陸を一つに統治するという大改革を構想し、実現させようとしたわけだ。

 その準備段階として、朕である清浄比丘ショウジョウビクが大陸に送り込まれた。そして、朕が送り込まれた七年後に、第七童子である制多迦セイタカ童子が、朕の補佐役として送り込まれたわけだ。

 それが、宰相ザッドであるが、どのような事情かは不明だが、ザッドであるセイタカ童子を中心軸として、聖皇国による統一事業が動き出したわけである。

 確かに八大童子の格からすれば、第三童子の朕より、第七童子の方が上であり、ザッドが送り込まれた七年後は、朕がジュルリフォン聖王子に扮した頃から、事情が変化したのかもしれない。

 いずれにせよ、我がリーダーのコンガラは、他の八大龍王にはその事情を一切打ち明けず、ヴェルト大陸統一の大改革を実行に移そうとしていたらしいが、どうやらそれが裏目に出て、第七龍王マナシを中心とする反ウバツラ派に敗れ、監禁されてしまったらしい。

 これで、ウバツラことコンガラの構想も立ち消えになり、朕とザッドにも、他の八大龍王の制裁の手がおよぶと覚悟していた。

 実際にマナシは、自分の守護國であるバルナート帝國を利用して、ソルトルムンク聖王国の当時のコムリーニ聖王を殺害し、聖王国の王城を占拠し、聖王国を滅亡へと追い込んだ。

 マナシは、堂々と八大龍王間で取り決めた八國滅亡禁止の約定を名実ともに破棄したことになる。

 それが、龍王暦一〇五〇年から始まったヴェルト戦役の始まりだが、朕は幸運なことに、反マナシ派の第三龍王シャカラ龍王の助けを得て、王城奪還を果たし、見事に聖王国を復活させることに成功した。

さらに監禁されていたコンガラ童子も、反マナシ派の龍王の力で助け出され、逆に反ウバツラ派は、マナシ龍王を筆頭に、ことごとく敗れさったらしい。

 詳しいことは地上にいる朕には分からないが、今、朕と連絡がとれるのはコンガラ童子だけで、コンガラ童子によるとウバツラ側であったシャカラ龍王、第四龍王ワシュウキツ龍王、そしてマナシ陣営から寝返った第二龍王バツナンダ龍王も、反ウバツラ陣営と争った結果、共倒れになったらしい。

 つまり、この八か国連合との戦いさえ乗り切れば、我がリーダー、コンガラの理想としているヴェルト大陸統一がなされ、本当に争いのない世界が訪れる。

 そしてこれは、ミケルクスドのラムシェル王が演説で述べたような、地下の魔界の神の策謀によるものではない! コンガラ童子が、地下世界の邪神と手を組むなど、絶対に考えられない。そして、朕もそのコンガラと同じ気持ちである!」

 ダードムスは、ジュルリフォン聖皇ことショウジョウビクの、この言の葉に真実を感じ取り、喜ばしい反面、今自らが抱いている一つの危惧について語った。

「陛下のおっしゃりよう、私も深く感じ入りました。そしてそのお言葉の実現に向け、私も微力を尽くさせていただきます。

 ……それゆえ、ザッドであるセイタカ童子の統一のやり方というものは、陛下のその理想を著しく阻害するものであることをここにはっきりと述べさせていただきます!

 『目的のために手段を選ばない』については、ある程度は理解できます。しかし、目的を根幹からくつがえすような方策を、その『手段』に加えてはいけません! あくまでも、許される範囲での選択肢の中から手段を選択するのであって、全ての手段から、それを選んではなりません! それは禁じ手であり、ザッドはそれを平然とやってのけております。

 地下世界の魔族を利用すること然り、必要以上に他国の民を殺すこと然り、極めつけのゴンク帝國のように一國の王をおとしいれた上で、國を弱体化させるなど言語道断!

 さかのぼれば、湖でのジュルリフォン聖王子の死も、あれは陛下をジュルリフォン聖王子に仕立てるためにセイタカ童子が仕掛けた策謀ではないかと疑いたくなるぐらいです。

 何故、争いをなくす目的で、大陸統一を目指しておられるコンガラ童子が、セイタカ童子のやり方を黙認しているかは、私の理解の及ばないところではありますが、八か国連合の誕生という、ここまで事態が切迫した背景には、反聖皇国というより、反ザッドで、八か国の利害が一致したせいだと、私は考えております。

 陛下におかれましては、ザッドことセイタカを切り捨てる決断を下さない限り、聖皇国内の民衆も納得いたしませんし、私もこの戦いを仮に勝つ方向へ導けたとしても、ザッドが宰相でいる限り、そこに私の安寧はありません。

 むしろ勝った先に、私への功績への報いとして、私の破滅が待っていると考えれば、とても全力で聖皇国と陛下のために働こうという気持ちが、陛下に大恩を感じている私であっても、芯から湧きあがってはまいりません。そのような私が、いくら友人や仲間、あるいは部下に聖皇国と陛下のために戦うことを促しても、その根底の不安は、必ずギリギリのところで露呈いたします!

 陛下! そのことをご理解いただければ……!」

「朕が、心の友であるそちを見殺しにするわけがあるまい! そして共に戦う、そちの友人や仲間、そしてそちの部下たちを粛清するなどあってはならないことだ! ダードムス! そちの言う通りだ!! ザッドは除く!! 同じ八大童子であっても、セイタカのやり方には、朕も我慢の限界であった!!」




〔参考 用語集〕

(八大龍王名)

 跋難陀バツナンダ龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王とその継承神の総称)

 沙伽羅シャカラ龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王とその継承神の総称)

 和修吉ワシュウキツ龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王とその継承神の総称)

 摩那斯マナシ龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王とその継承神の総称)

 優鉢羅ウバツラ龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王とその継承神の総称)


(八大童子名)

 清浄比丘ショウジョウビク(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第三童子)

 制多迦セイタカ童子(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第七童子)

 矜羯羅コンガラ童子(八大童子のうちの第八童子である筆頭童子。八大龍王の優鉢羅龍王と同一神)


(神名・人名等)

 コムリーニ聖王(ソルトルムンク聖王国の前王。四賢帝の一人。故人)

 ザッド(ソルトルムンク聖皇国の宰相。正体は制多迦セイタカ童子)

 ジュルリフォン聖王子(龍王暦一〇四〇年の舟遊びで亡くなった聖王子)

 ジュルリフォン聖皇(ソルトルムンク聖皇国の初代聖皇。正体は八大童子の一人清浄比丘)

 ダードムス(ソルトルムンク聖皇国の碧牛将軍。聖皇の片腕的存在)

 ラムシェル王(ミケルクスド國の王。四賢帝の一人)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王 優鉢羅ウバツラの建国した國)

 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國)

 バルナート帝國(北の強国。第七龍王 摩那斯マナシの建国した國。金の産地)

 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王 徳叉迦トクシャカの建国した國。飛竜の産地)

 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王 沙伽羅シャカラの建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ)

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