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【005 聖王国の誤算】


【005 聖王国の誤算】



〔本編〕

 龍王暦一〇五〇年三月一日。ソルトルムンク聖王国連合軍とバルナート帝國連合軍が、両国の国境付近の草原で対峙した。

 ソルトルムンク聖王国連合軍、兵二十一万、竜四万。

 バルナート帝國連合軍、兵十万、竜五万。

 今回の戦いにおいて、楽勝ムードであったソルトルムンク聖王国に、いくつかの誤算が生じていた。

 このうち、聖王国のみの兵数は二十万、対するバルナート帝國のみの兵数は八万。

 この当時の、ソルトルムンク聖王国の人口は約二千五百万人で、一般に、軍として動員できる限界数は、人口の一パーセントと言われているので、聖王国としては二十五万人を兵として動員できるという計算になる。

 今回の場合、聖王国がバルナート帝國に対して攻めるわけであるので、さすがに二十五万全てを動員することはあり得ないが、それでも限界動員数の五分の四を、今回の戦いに投入したこととなる。

 それに対して、バルナート帝國の人口は八百万人である。

 つまり、バルナート帝國の八万という軍勢は、帝國が動員できる限界兵数を全て投入したこととなる。

 バルナート帝國からすれば、今回の一戦に敗れるということは、国力差から考えても、國の滅亡に直結する要因となるので、全兵力の動員は当然なのかもしれない。

 しかし、ここまでは想定内のことである。

 問題の『聖王国の誤算』は、これ以降の事柄である。

 ソルトルムンク聖王国が、今回の戦いにおける大義名分として掲げている、コリムーニ老聖王のバルナート帝國による謀殺説であるが、実は、その決定的な証拠は無く、あくまでも状況から鑑みてというものであった。

 ソルトルムンク聖王国からすれば、バルナート帝國との国力から考えて、圧倒的に優位のため、バルナート帝國への宣戦布告の大義名分が、少々あやふやだとしても、そこは強引に押しきれると、考えての開戦であった。

 その強引さが、ソルトルムンク聖王国の構想していたバルナート帝國以外の、七カ國連合の構想を、結局、机上きじょう空論くうろんとさせてしまったのである。

 両国以外の一國、西の小国であるミケルクスド國はバルナート帝國へ味方した。

 今回のコリムーニ老聖王とロードハルト帝王の会談場所が、お互いの国境付近での会談という点から、聖王を仮にバルナート帝國が謀殺するに当たって、帝國の帝王自らが両国の国境付近に出張るというのは、非常にリスクの高い賭けであり、下手すると聖王国側によって老聖王死去の後、その場で帝王が害されてしまう可能性が高い。

 そのようなリスキーな賭けを、バルナート帝國の帝王が仕掛けるはずがないというのが、バルナート帝國側につくことを表明したミケルクスド國の見解であった。

 同じような発想で、南の弱小国で島国でもあるフルーメス王国は、どちら側にもつかない中立の立場を表明した。

 フルーメス王国の国力及び、南方という王国の位置から鑑みて、中立を表明したが、仮にミケルクスド國のように、バルナート帝國に近い北方に、フルーメス王国があれば、おそらくはバルナート帝國側についたであろう。

 ミケルクスド國とフルーメス王国の対応が影響したかは定かではないが、今回、最も戦力が期待できる援軍となるであろう北東の中堅国であるカルガス國は、単独で、バルナート帝國の後背に進軍するので、聖王国軍とは直接、合流しない旨を申し入れてきた。

 これは、戦略的に言えば、非常に有効な手段であるが、要は、聖王国とバルナート帝國が直接戦った上で、聖王国が有利と判断すれば、バルナート帝國の背後に兵を進軍させると言った、いわゆる、実質的な日和見ひよりみを決め込んだのである。

 南東の小国、クルックス共和国は八カ国中、唯一共和制をとっている國だが、その共和国議会が、聖王国側と帝國側に真っ二つに分かれ、なかなか結論が出なかった。

 原因は、聖王国のコムリーニ老聖王のバルナート帝國による謀殺の真偽がはっきりしないところであるが、いずれにせよ、共和制独特の決定法である多数決により、僅差きんさではあるが聖王国側が勝利したが、聖王国側陣営が、多数の賛同を得るために、いくつかの妥協案が用いたため、ソルトルムンク聖王国の援軍には、二千人弱の兵しか派遣できなかった。

 他の二カ国である南東の小国、ゴンク帝國と、北西の小国、ジュリス王国に関しても聖王国が考えていたよりも消極的な対応であった。

 結局、聖王国軍に直接、合流した他国の援軍は三か国であり、全てあわせて兵一万、竜に至っては千頭に満たないという有様だった。

 対して、唯一バルナート帝國へ、味方することを表明したミケルクスド國は、帝國への援軍として兵二万を派遣した。

 ミケルクスド國が、バルナート帝國へ援軍として送った二万の兵は全て、空を飛ぶ兵――飛兵であり、そのうちの一万が飛竜ワイヴァーンという、精鋭中の精鋭部隊であった。

 ミケルクスド國は、人口が三百万なので、國として動員できる兵の限界数が三万であるため、限界数の三分の二を援軍として、この戦いに投入したことになる。

 結果、竜の数は、聖王国連合側四万に対して、バルナート帝國連合側五万という数になった。

 一般に、竜一頭の戦力は、精鋭兵三人分に相当すると言われていることから、戦力的には、ほぼ互角という戦況といえよう。




〔参考一 用語集〕

(神名・人名等)

 コリムーニ老聖王(ソルトルムンク聖王国の王。故人)

 ロードハルト帝王(バルナート帝國の帝王)


(国名)

 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王 優鉢羅ウバツラの建国した國)

 バルナート帝國(北の強国。第七龍王 摩那斯マナシの建国した國。金の産地)

 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王 阿那婆達多アナバタツタの建国した國)

 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王 徳叉迦トクシャカの建国した國。飛竜の産地)

 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王 和修吉ワシュウキツの建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃)

 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王 沙伽羅シャカラの建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ)

 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王 跋難陀バツナンダの建国した國)

 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王 難陀ナンダの建国した國。ホースの産地)


(竜名)

 ワイヴァーン(十六竜の一種。巨大な翼をもって空を飛ぶことができる竜。飛竜ひりゅうとも言う)



〔参考二 大陸全図〕

挿絵(By みてみん)

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