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【499 国葬と神器(二) ~帝王の宣言~】


【499 国葬と神器(二) ~帝王の宣言~】



〔本編〕

 王族以外の他が三種の神器を目にすることが許されるのが、聖王の戴冠の儀のほんの数時間である。

 聖王の戴冠の儀が、平均して二~三十年に一度程度。

 聖王が長命であった場合、四~五十年は、三種の神器は衆目の目には晒されないこととなる。

 そして実に龍王暦が始まって以来、王城マルシャース・グールは一度も敵の手に堕ちたことがなかったのである。

 それほど、聖王国が強大だったこともあるが、ヴェルトの國を滅ぼすことを禁じた八大龍王間の盟約からして、その中心国であるソルトルムンク聖王国の首都が他国によって侵略されるというのは、八大龍王筆頭であるウバツラ龍王の面子に関わり、それは広い意味で八大龍王全体の面子にも関わってくる。

 つまり、聖王国王城の陥落は起こってはいけない重要な事柄だったのである。

 そのようななか、龍王暦一〇五〇年と一〇六一年という二回のマルシャース・グールの陥落は、八大龍王が不在だったとはいえ、千年の長い歴史の中で絶対に起こってはいけないはずの事が、わずか十年程で二度起こっているのであるから、非常に奇跡的な事件といえよう。

 いずれにせよ、一〇五〇年の最初のマルシャース・グール陥落の際に、バルナート帝國は、初めて敵として聖王国王城の中心部に足を踏み入れ、そこから三種の神器を接収したのであった。


 時を今に戻す。

 龍王暦一〇六一年二月一四日午前十時。

 バルナート帝國の帝都であり王城でもあるドメルス・ラグーンにおいて、ソルトルムンク聖王国の功臣であったンド大臣の国葬が、厳かに行われた。

 約二時間に及ぶこの葬儀の締めくくりに、バルナート帝國の現帝王であるネグロハルトから、参列している民衆に向けて、言の葉が述べられた。

 その帝王の言の葉は非常に衝撃的なものであり、それは一つの宣言でもあった。

 ここにその全文を余さず記す。


「我がバルナート帝國の国民、並びにその他のヴェルト大陸の人々全てに、余の言の葉を伝える!……」

 この言の葉で、帝王の演説が始まった。

「本日は、ヴェルトの一國であるソルトルムンク聖王国を、長年に渡り支えてきたンド大臣閣下の葬儀を、バルナート帝國が國を挙げて執り行ったところである。

 今、余が述べた聖王国とは、現在、ヴェルト大陸に國と僭称し存在しているソルトルムンク聖皇国のことではない! 余が語ったソルトルムンク聖王国とは、龍王暦一〇五〇年に我が國が滅ぼした国家のことである!」

 このネグロハルト帝王の言の葉に、国葬参列者からは、一様に驚きと衝撃が期せずして起こったのは、想像に難くない。

 帝王は、その衝撃によるどよめきが鎮まるまで、あえて言の葉を続けなかった。

「皆のうち大半は、余が大きな勘違いをしていると思っている! 余は今のどよめきをそう捉えた……」

 ある程度、民衆が静まった頃合いを見図り、帝王が演説を再開する。

「聖王国から改名したソルトルムンク聖皇国は、新たに聖皇国だけの暦を使うなど、ヴェルトの守護神であられる八大龍王の存在を完全に否定し、数多くの悪業を積み重ねてきた。

 しかし、その聖皇国が誕生したのは、今から四年前の龍王暦一〇五七年であって、余の語った一〇五〇年の聖王国滅亡は、余の勘違いと多くの者が受け取っていると思われる。

 そして大半の者のその根拠は、一〇五〇年のソルトルムンク聖王国滅亡後、同じ年の一〇月末にジュルリフォン聖王子が聖王に戴冠したことにより、ソルトルムンク聖王国が復活したという事実に立脚している。

 しかしながら一〇五〇年一〇月末の聖王戴冠の儀は、実は儀式として成り立っていない! 儀式自体が無効なのである!

 つまりジュルリフォン聖王子は、聖王には成っておらず、したがってソルトルムンク聖王国は、一〇五〇年に復活はしていないということだ! それについて、余が今から皆に説明しよう」

 さすがに帝王のこの言の葉は、にわかには信じられないものであった。

 そして、これから説明するというネグロハルト帝王の言の葉を、参列者は聞き耳をたて、一言も聞き漏らすまいという雰囲気に満ち満ちた。

「ソルトルムンク聖王国の聖王になるには、戴冠の儀式を行うことが必須ではあるが、その儀式には、二つの要素が整っていなければならない! 一つが、聖王国の守護神であられる第八龍王優鉢羅ウバツラ龍王の儀式への参列と、戴冠の承認。

 そしてもう一つが、聖王国建国の際に、当時のウバツラ龍王から賜ったと伝えられる三種の神器が、儀式の祭壇に供えられているということである。

 しかし、一〇五〇年一〇月のジュルリフォン聖王子の戴冠の儀において供えられていた三種の神器は、真っ赤な偽物である!

 なぜなら、我が父亡きロードハルト前帝王が、一〇五〇年三月の聖王国王城を陥落させた際に、三種の神器を接収し、そのまま我が帝國帝都であるドメルス・ラグーンに持ち帰ったからだ!

 つまり一〇五〇年一〇月に、ジュルリフォン聖王子は、王城マルシャース・グールの奪還は果たしたが、その時に聖王子は、三種の神器を我が國から取り戻してはいない! 当然である! 一〇五〇年一〇月の段階で三種の神器は、帝都にあった!

 大方、王城内で三種の神器が見つけられず、聖王戴冠の儀に支障が出ると判断した佞臣の姑息な入れ知恵で、偽物を用意したのであろう。

 要するにジュルリフォン聖王子は、未だソルトルムンク聖王国の聖王にはなっていない! そのような者を聖皇に戴くソルトルムンク聖皇国は偽りの国家である! そのような偽りの国家と、余や我が帝國が、共に手をとって歩むことなどあり得ない!

 余の親愛なる帝國国民! 今こそ、余と共にそのようなまがい物の国家を、ヴェルト大陸から除くために立ち上がろう!! 帝國国民! 今こそ立ち上がる時である!!」


 ネグロハルト帝王の聖皇国への宣戦布告と言えるこの言の葉に、沈黙を守り続けていた国葬参列者の間に、怒涛のような歓喜のどよめきが起こり、それは間もなく国葬会場すべてを飲み込んだ。

 そして、『ネグロハルト帝王万歳!!』、『バルナート帝國万歳!!』の言葉が一丸となり、国葬の会場は異様な盛り上がりをみせたのである。


 国葬は野外で行われ、祭壇の近くには席が設けられており、そこには王族、帝國重臣、他国の来賓など重要人物が座っていたが、その後方は広大なスペースが設けられ、誰が参列してもいいようになっていたのである。

 おそらくは、十万人以上のバルナート帝國国民を始めとした、全てのヴェルトの國の民が参列していたであろう。




〔参考 用語集〕

(龍王名)

 優鉢羅ウバツラ龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王とその継承神の総称)


(神名・人名等)

 ジュルリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の王子)

 ネグロハルト帝王(バルナート帝國の帝王)

 ロードハルト(バルナート帝國の前帝王。四賢帝の一人。故人)

 ンド(元ソルトルムンク聖王国の老大臣。故人)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王 優鉢羅ウバツラの建国した國)

 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國)

 バルナート帝國(北の強国。第七龍王 摩那斯マナシの建国した國。金の産地)


(地名)

 ドメルス・ラグーン(バルナート帝國の帝都であり王城)

 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖皇国の首都であり王城)


(その他)

 三種の神器(ソルトルムンク聖王国の聖王の証。「聖王の冠ケーニヒ・クローネ」、「聖王の杖ケーニヒ・シュトック」、「聖王の剣ケーニヒ・シュヴェーアト」の三つの宝物)

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