【004 村長語る】
【004 村長語る】
〔本編〕
さて、ソルトルムンク聖王国の多くの地域で、バルナート帝國との戦いに向けての兵の徴集が行われた。
ホルム一家の住むコムクリ村も、その対象であった。
コムクリ村の村長が、村の中央広場に全ての村民を集め、徴収の内容について語った。
「今回のバルナート帝國との戦いは、帝國によって謀殺された我が國の王であるコリムーニ老聖王陛下に対する復讐戦である! これから徴兵の対象となる者を発表するので、皆、速やかに出兵の準備をしてもらいたい。今日より、三日後には王城に向けて進軍を開始することとなる。
今回の徴兵対象は、第一段階の者のうち三十歳以上六十歳未満の男女。そして、第二段階以上の者のうち二十歳以上七十歳未満の男女である。このうち、十五歳未満の子がいるところは、両親のどちらかを徴兵から外して構わない!」
猟師ホルムと妻スリサは、四十代半ばの第二段階の兵なので、この徴兵の対象となり、戦地へ赴くこととなった。
村長からの話があった夜、ホルムがマーク達に語った。
「父さんと母さんは、今回の戦いに赴くが、心配することは何もない。我が聖王国が圧倒的に有利な戦だ。恐らくは、一月かからずに終結するであろう。しばしの別れとなる。マーク! 留守を任せたぞ!」
「はい、父さん! ご無事で帰ってきてください」
マークが、ホルムに答えた。
この時、マークは二十六歳。レナは二十二歳であった。
しかし、二人とも第一段階の兵であったため、今回の対象では無かった。
ハクビも、ホルムの遠い親戚で二十四歳の第一段階として、村長に紹介していたので、マーク達同様、対象からは除外された。
龍王暦一〇五〇年二月二六日。
猟師ホルムと妻スリサが、他のコムクリ村民と共に出征していった。
出征に先立ち、コムクリ村の村長が一言語る。
「この戦いは、我が國のコリムーニ老聖王陛下殺害に対する復讐戦である。憎きバルナート帝國は、老聖王の平和への思いにつけ込み、平和同盟締結と騙り、帝國と聖王国の国境付近の地に聖王陛下を誘い、そして謀殺した。
このような卑劣で鬼畜の所業は、何人たりとも許されざる行為であるのは明白であるゆえ、この戦いは、我が國の正義を示す聖戦として位置付けられる。
実際の両国の軍事力を考えるに、我がソルトルムンク聖王国の人口が二千五百万人であるのに対し、敵国であるバルナート帝國の人口は八百万。我が聖王国は、バルナート帝國の三倍以上の人口規模である。
さらに穀物の生産量などの国力に関して言えば、北方の痩せた土地が多いバルナート帝國は、我が聖王国の十分の一に満たない。
その上、聖王国、バルナート帝國以外のヴェルト大陸の残り六つの國々は、コリムーニ老聖王に対するバルナート帝國の卑劣極まりない謀殺という事実を前に、必ず我が國に味方する。
これは、大義と国力の二つの理由から、絶対であると言って過言でない! バルナート帝國と七カ國連合の戦いとなれば、その人口差は、バルナート帝國の八百万に対して、四千三百万となり、五倍以上の差と膨れ上がる。
正義は、我がソルトルムンク聖王国の下にある。優鉢羅龍王のご加護の上に……」
聖王国国民誰もが、楽観的になり得る状況であった。
これが、ホルム一家をはじめ、多くの人々の運命を大きく変えることとなる大戦の序章であったとは、この段階でわかる者は皆無であったろう。
〔参考一 用語集〕
(龍王名)
優鉢羅龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王)
(神名・人名等)
ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年)
ホルム一家(コムクリ村の住人。父のホルム、母のスリサ、息子のマーク、娘のレナの四人)
コリムーニ老聖王(ソルトルムンク聖王国の聖王。故人)
(国名)
ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王 優鉢羅の建国した國)
バルナート帝國(北の大国であり強国。第七龍王 摩那斯の建国した國)
(地名)
コムクリ村(ソルトルムンク聖王国の南西部にある小さな村)
(その他)
第一段階、第二段階(兵の習熟度の段階。第一段階より第二段階が上)
〔参考二 大陸全図〕