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【031 モクルラビリンス(三) ~罠~】


【031 モクルラビリンス(三) ~罠~】



〔本編〕

 龍王暦一〇五〇年八月二九日早朝。ヴォウガー率いる帝國軍は、深夜の奇襲の場所を調査した。

結果、十の小さな穴と一つの大きな穴を発見した。帝國兵は穴から進入しようとしたが、ヴォウガーが押しとどめる。ヴォウガー曰く、

「このような狭い通路では敵が待ち伏せしている可能性が高い。無駄な損害を出すべきではない。この穴は全て埋める。それに敵はおそらく十人前後の少人数。夜襲だけを気をつけて行動すればよい」

 発見した十一の穴は全て埋められ、ヴォウガー軍はツイン城の攻略にかかった。八月二九日昼の十二時頃である。

 さて、八月二九日の深夜から昼までハクビ達十人も次の準備にとりかかっていた。三千の罠を持つといわれるモクルラビリンスである。その罠の仕掛けをハクビの指示の元、九人の小隊の兵が準備していった。

 八月二九日昼の十二時。ヴォウガー率いる五百の帝國兵がツイン城に対して攻勢をかけてきた。ツイン城から二十メートルの地点で、聖王国籠城軍からの弓矢の応戦があったが、ツイン城の片側の占領された塔から帝國軍の弓矢の応酬があり、聖王国籠城軍の攻撃は微少であった。ヴォウガー軍はツイン城に迫った。しかし、この時ヴォウガー軍の立っている地面が消えた。そこには五十もの大穴が出現した。落とし穴であった。穴の中には細い槍が無数に立っており、落とし穴におちたヴォウガー軍の兵士は大半が傷つき、中には命を落とす者もいた。

 落とし穴に落ちずに、踏みとどまった兵士達に、続いて矢が放たれた。矢はやはり地面からで、地面に小さな穴が無数にあいており、そこから放たれたのであった。ヴォウガーの軍は大混乱に陥った。ヴォウガーが大声で制するなか、少し軍が落ち着いた頃、今度は黒い液体がツイン城の前面付近からヴォウガー軍の方向に流れ出してきた。黒い油であった。それも引火性の強いものであった。

 ヴォウガー軍団長は、とっさに火攻めを悟り、全軍に撤退命令を発する。次の瞬間、油は一瞬にして火の海となった。ヴォウガーの一瞬の判断で半数の軍が火の海から脱出出来たが、それでも半数は炎に巻き込まれた。三十の死者。七十の負傷者を出し、ヴォウガー帝國軍は一旦、ツイン城の前面から軍を引いた。ヴォウガーの命令で、占領していた塔からも孤立した兵が撤退し、ツインの二本の塔は、聖王国軍の手に戻った。


 しかし、ハクビはヴォウガー軍団長の、夜襲と今回の攻城戦の采配をつぶさに見て、これ以上の攻撃は難しいと悟った。

 同日午後三時頃、ヴォウガーの軍が再び活動をはじめた。それはツイン城攻略ではなく、モクルラビリンスの攻略であった。ツイン城を見張る一部の兵を除き、三百人以上の帝國軍がツイン盆地一帯をくまなく調べだした。そして、ラビリンスの入り口が見つかれば埋め、罠が見つかれば徹底的に破壊した。しかし、ラビリンスの入り口から進入してくる兵は一兵もいなかった。ヴォウガーの命令によりそれは厳しく守られた。

 ハクビは山の中腹からその様子を見て、ヴォウガーの的確な采配に敵ながら感心した。ラビリンスに進入してこない以上、こちらからも何も仕掛けられない。しかしこのラビリンス無力化の作業は、二、三日はかかると見た。グラフ将軍が到着するまでの陽動作戦としては成功するかにみえた。

 しかし、一人の単独行動により、事態は思わぬ方向に急展開していった。




〔参考一 用語集〕

(神名・人名等)

 ヴォウガー(バルナート帝國四神兵団の一つ玄武兵団の軍団長)

 ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年)


(国名)

 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅ウバツラの建国した國)

 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯マナシの建国した國。金の産地)


(地名)

 ツイン城・ツイン盆地(ソルトルムンク聖王国の最南端の城とその城が建っている盆地)


(その他)

 モクルラビリンス(モクル海岸とツイン盆地を結ぶ地下の大迷宮 千の通路と二千の出入り口、三千の罠がある)



〔参考二 大陸全図〕

挿絵(By みてみん)


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