【003 運命の年】
【003 運命の年】
〔本編〕
「ウバツラリュウオウとは、どなたですか?!」
その日の朝、ハクビがホルムに尋ねた。
龍王暦一〇五〇年一月一日。
ヴェルト大陸にとって運命の年が明けた。
この日、ホルム一家はソルトルムンク聖王国の建国神であり守護神でもある『優鉢羅龍王』が祀ってある村の社を参拝した。
いわゆる初詣である。
ハクビもホルム達と一緒に参拝した。
「ハクビは八大龍王と呼ばれる神々によって、千年以上前に、この國が建国されたことは知っているか?」
「はい! マークやレナから聞きました」
「では、話は早い。優鉢羅龍王とは八大龍王という神々の八人のうちのお一人で、このソルトルムンク聖王国を建国された神のことだ。八大龍王の中で最も位が高く、『最高の龍王』とも呼ばれている。この國が平和でいられるのも、優鉢羅龍王のおかげだ」
「分かりました。僕も、ウバツラという名前はどこかで聞いたことがあるような気がしましたので……」
一切の記憶を失っていたハクビであったが、優鉢羅龍王という神の名前は、不思議と知っている気がしたのであった。
さて、龍王暦一〇五〇年二月。
ヴェルト大陸一の超大国であるソルトルムンク聖王国の老聖王コリムーニは、龍王暦が制定された後も、現実に勃発している小規模な争いさえも一掃するため、北の大国であり強国のバルナート帝國と同盟を結ぼうとしていた。
八國のうち、二大強国が同盟を結べば、争いが激減するのは自明の理である。
バルナート帝國の現帝王であるロードハルトは、歴代帝王の中で最も優れた帝王といわれていた。
ロードハルト帝王はコリムーニ老聖王の二大強国同盟の提案に賛同の意を示した。
コリムーニ、ロードハルトの両王は同盟を結ぶため、同暦二月一五日、ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の国境上にある町――『バクラ』で会談を開いた。
後に、『バクラ会談』と呼ばれるこの会談の最中、コリムーニ老聖王が急死した。
死因は一切が不明であった。
コリムーニ老聖王の死は直ちに、この会談に同席せず、ソルトルムンク聖王国の王城である『マルシャース・グール』に滞在していたジュルリフォン聖王子に報告された。
ジュルリフォン聖王子はコリムーニ老聖王の孫にあたる。
コリムーニ老聖王の嫡子で、ジュルリフォン聖王子の父は、聖王子が七歳の時に他界していた。
直系血族が、最も尊ばれるソルトルムンク聖王国の次期聖王は、ジュルリフォン聖王子である。
ジュルリフォン聖王子は、この大国同士の同盟に反対の立場であった。
そのため、ジュルリフォン聖王子は、コリムーニ老聖王の急死について、バルナート帝國側の謀殺であると信じ、残りの六国に、ソルトルムンク聖王国は、コリムーニ老聖王の敵討ちを大義として、挙兵することを宣言し、その協力を求めたのであった。
龍王暦一〇五〇年二月一八日。ソルトルムンク聖王国のジュルリフォン聖王子は、バルナート帝國に対して宣戦を布告したのである。
〔参考一 用語集〕
(龍王名)
優鉢羅龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王)
(神名・人名等)
ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年)
ホルム一家(コムクリ村の住人。父のホルム、母のスリサ、息子のマーク、娘のレナの四人)
コリムーニ老聖王(ソルトルムンク聖王国の聖王)
ロードハルト帝王(バルナート帝國の帝王)
ジュルリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の王子)
(国名)
ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王 優鉢羅の建国した國)
バルナート帝國(北の大国。第七龍王 摩那斯の建国した國)
(地名)
バクラ(ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の国境にある町。町の中心に国境があり、北側がバルナート帝國領、南側がソルトルムンク聖王国領である)
マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の王城であり首都)
〔参考二 大陸全図〕