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【289 第四龍王和修吉(十五) ~佳境~】


【289 第四龍王和修吉(十五) ~佳境~】



〔本編〕

 バツナンダ、シャカラ、ワシュウキツによる試合は、非常に激しいものであった。

 しかし、その上半身の激しい動きに対して、下半身――つまり足元はほとんど動いていなかった。

 奇妙な戦いではあった。

 本来であれば、常に闘っている両者――この場合は三者の位置や方向が目まぐるしく変わるのが普通であるが、今の試合にはそれがない。

 バツナンダはワシュウキツの左側を攻撃し、シャカラはワシュウキツの右側を攻撃している。それに対してワシュウキツは、当初いた位置からほとんど動いていないのである。

 この状況は、今受けに徹しているワシュウキツが原因ではない。

 攻撃しているシャカラとバツナンダが原因である。厳密に言えば、シャカラがそう指示してバツナンダが従っているのである。

 この移動しない闘い方は、一人であるワシュウキツに有利に働くような闘い方に思えるが、実はそうではない。

 シャカラとバツナンダがお互いに連携せずにワシュウキツに攻めかかると決めた時に、シャカラはバツナンダにこう言ったのである。

「僕らが連携をせず、お互いにワシュウキツの命を狙うということだが、一つだけ約束事がある。それは、君がワシュウキツの左側――つまり盾側を直線的に一方向からのみの攻めとしてもらいたいということだ。僕も当然、ワシュウキツの右側――つまり緑龍刀側を同じように直線的に一方向のみから攻める。分かったか! バツナンダ!」

「ワシュウキツに変化をさせない戦法だな! 相変わらずえげつないな!」

「隙のない確実な戦法と言ってくれ! ワシュウキツが、変化が出来ない以上、君の前は常にワシュウキツの盾と左側面で、僕の前は常にワシュウキツの緑龍刀と右側面だ。こちらは常に前方を攻撃できる最上のパターンであると同時に、ワシュウキツは常に両側面を同時に迎え撃つという最悪のパターンになる。

 特に緑龍刀は、交差する薙ぎ払いなどができないので、かなり攻撃能力を封じることができる。変化がない以上、僕らは盾と緑龍刀のコンビネーションを一人で受けることもないし、僕らが交差することによって起こりうる――どちらかが前を塞いで攻撃ができない等の事故なども、先ず起こる心配がない。いずれ、ワシュウキツは、この戦法に抗しきれなくて、なんらかのアクションを起こすはず。そこが僕らの付け入る隙というわけだ。

 ……ただ、唯一の懸念は、僕らの突破力が、両側面を受け続けるワシュウキツの防御力を上回れないという場合だ。延々その状態が続けば、それは僕らの実質的な負けだ。その場合は何か考えなければいけないが……それは、今、考えることではない。とにかくそれでいこう」

 ――そうして、三者がぶつかり合って三分が経過した。今のところはシャカラの思惑通りである。


「グゥゥ~! 何だこの重く激しい剣撃は……」

 思わずワシュウキツはこう呟いていた。

 ワシュウキツにこう呟かせたのは、ワシュウキツ自身の左側面、牡牛の盾で受け止めているバツナンダの攻撃である。

 バツナンダの攻撃は、そんなに複雑な動きではない。

 彼女の前面に立ちはだかる牡牛の盾をただひたすら『怒りの刀エルガーシュヴェーアト』で打ち続けているのである。

 バツナンダの体重は約四十五キログラムである。身長が百六十五センチメートルなので、身長の割には軽いという印象を受ける。

 それに対してワシュウキツは身長二百二十センチメートルで、体重が二百五十キログラムである。体重二百五十キログラムというのは、この当時のホース(馬)の体重五百キログラムのちょうど半分にあたる体重である。

 おそらく、ワシュウキツ程の体重を持つ人や神は、この当時数えるほどしかいないであろう。

 このワシュウキツとあえて比べる必要もないほど、四十五キログラムのバツナンダは、軽量級である。

 ワシュウキツにしてみれば、自分の体重の五分の一以下の体重のバツナンダの攻撃は、単純に膂力りょりょくの力任せで弾き返すことができるという自負があった。

 実際、これまでのバツナンダとの戦いの中で、ワシュウキツはそれほどの脅威は感じていなかった。

 当然、シャカラとバツナンダを同時に相手しようといったほどのワシュウキツである。シャカラの攻撃もあまり眼中に入れていないが、それでも『極芸』という究極の技を持つシャカラには少なからず警戒心を持っていた。

 それと比べてバツナンダの攻撃は、たとえ最強の双剣カンショウ、バクヤの攻撃であっても、防御一辺倒の観点から、全て受けきれる自信がワシュウキツにはあった。

 ところが、そのワシュウキツの盾を持つ左腕が、バツナンダの怒りの剣の攻撃の前には、押し返すことができないのである。

 それどころか逆に押しとどめるのが精一杯の状態なのである。

「グッ! 重い!!」

 再びワシュウキツが呟いた。

 ワシュウキツほど、『重い』という表現をする必要のない恵まれた体格を持つ者もそういない。そのワシュウキツが二度呟いたのである。

 ワシュウキツを驚かせているのは、その剣圧を発揮している剣が、刃の長さが一メートル程度、刃幅が十センチメートル程度という見た目頼りないほどの細い剣という事実であった。

 真っ赤な剣という特徴以外、特徴がないその細身の剣は、ワシュウキツの見立てでは、牡牛の盾への一撃で砕けても不思議でないほど、脆く見えた。

「何だ?! あの剣は……」

 ワシュウキツは、さらにそう一言呟いた。

 武器や防具の製作者でもあるワシュウキツは、この時代の現代から過去に至る武器と防具の全般の知識があった。

 そのワシュウキツが思い当たることができない武器なのである。明らかにワシュウキツは戸惑っていた。力に差があるとはいえ、本気の龍王を二人同時に相手しているのである。

 右側のシャカラの長斧の動きは尋常ではない。『極芸』と称される技の動きを遺憾なく発揮している。

 ワシュウキツとしては、シャカラの剣舞――いや斧舞ふぶと言ったほうがいいだろうか。その斧舞の前に緑龍刀が抗しきれなくなってきている。

 ここは、一刻も早くバツナンダの攻撃を牡牛の盾で、弾き返し、一対一でシャカラに向かいたいところである。

 しかし、先程もいったようにそのバツナンダの剣撃が重すぎて、弾き返せないのである。むしろ、押し込められているのはワシュウキツの方であった。

“これは早々に決めないと危ない!”

 ワシュウキツがこの状態から先に動いた。




〔参考 用語集〕

(龍王名)

 難陀ナンダ龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)

 跋難陀バツナンダ龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営からウバツラ陣営)

 沙伽羅シャカラ龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)

 和修吉ワシュウキツ龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)

 徳叉迦トクシャカ龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)

 阿那婆達多アナバタツタ龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)

 摩那斯マナシ龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)

 優鉢羅ウバツラ龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)


(武器名)

 怒りの刀(バツナンダが投影した武器の一つ)

 牡牛の盾(ワシュウキツの盾)

 カンショウ・バクヤ(バツナンダの投影した二振りの刀剣。紅い剣がカンショウで、蒼い剣がバクヤ)

 長斧(シャカラの得物の一つ。文字通り長い柄のついた戦斧)

 緑龍刀(ワシュウキツの得物。重バサラでできた緑色の青龍刀)


(その他)

 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)

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