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【202 第二龍王跋難陀(二十:Ⅵ) ~動向06~】


【202 第二龍王跋難陀(二十:Ⅵ) ~動向06~】



〔本編〕

 ジュルリフォン聖王の玉座の間から退出したザッドは、そのまま自邸には戻らず、城の地下へ続く階段を下っていった。この王城マルシャース・グールの地下は、歴代の王の霊廟になっており、そこへザッドは向かったのであった。

 途中でその霊廟を守る兵が二名いたが、二名とも虚ろな目をしており、ザッドが右腕を挙げると頷き、霊廟への扉を開けた。霊廟の扉付近に一人の大柄な男がいたが、ザッドは気にせずさらに地下へ続く階段を降りていった。

 そこに立っていた大柄な男もザッドについて下へ降りていった。

「マクスール将軍。ご苦労であった」

「いえ。お気になさらずに……。ザッド様のご命令であれば何事にも従います」そう言った大柄な男――今は親衛隊の一将軍であるマクスールである。

 マクスールもよく見ると先程の兵と同様、目が虚ろであった。

「フッ。マクスールよ。傀儡くぐつになってからの貴様は頼もしいな! どうだ。傀儡とはいいものだろう。恐れることも悲しむこともなくなる。今の貴様であれば、グラフ将軍すら打ち負かすことも可能であろう。しかし、その前に貴様にやってもらいたいことがある」

「何なりとお申し付けください」

「不死身の軍を編成する。貴様にはそれの指揮をしてもらいたい」

「分かりました」既に一切の感情を失ったマクスールは、ザッドの申し入れに対して、何の躊躇もなく即答していた。

 ザッドとマクスールは地下の霊廟から、さらに秘密の扉を開けて地下に向かった。秘密の扉は、ザッドが触れた時のみ姿を現し、ザッドとマクスールが通った後は再び不可視になった。

 秘密の扉からさらに地下に降りること約五分。ついに深層部に到着したようであった。そこの天井は十メートル程度の高さで、薄暗く神殿のような建物が六棟立ち並んでいた。

 ザッドはそのうちの一本の建物の前にひざまづいた。マクスールもそれに倣って跪いた。

「魔界六将のお一人であらせられますラハブ様! この不肖ザッドをお導き下さい」

 ザッドのその言葉で建物の扉が開き暗くて見えない奥の方から大きく揺らぎ声が聞こえた。

「おお。ザッドか。聖王との会話は聞いていたぞ。我々魔将を利用するということらしいの……」

「ラハブ様もお人が悪い。嘘も方便と申します。この不肖ザッドは、地上界を魔将の方々の御手にお渡ししたいのです!」

「ほう~。我々に地上界を献上すると……それでお前は何が欲しいのだ!」

「今現在、傲慢な神々が住んでおります天界をいただきたいと思っております」

「フッフッフッ。ほざいたなザッドよ。まあよい。お前に我がラハブの不死身の軍団を貸そう。骸骨スケルトンゴーストの兵を五千ずつ……」

「おお~。スケルトンの兵と言えば、たとえ手足や頭を失っても進軍を止めない恐怖の兵。そしてゴーストの兵と言えば、霊体であるが故に、敵から一切干渉を受けない無敵の兵。ありがとうございます!」

「しかし、よいのかザッドよ。そのような人でない兵を扱うとお前から人心が離れていくぞ……。まあそのようなことを気にするお前でもなかったな」

「御意。人心など無用でございます。神におもねるだけの人になど存在する意義が全く見出せません」

「フッフッフッ。大胆な発言であるな……。まあ、そういっても人も存在する価値はあるぞ。我等の慰みモノとしてな……。フッフッフッ」

 その声を最後にラハブと呼ばれた闇は静かに建物の内側に消えていき、建物の扉が重々しくしまったのであった。

 さて、結論から言うとこれら骸骨と霊の軍勢は、この時は使用する機会が結局なかったのである。マルシャース・グールの南方に位置するライアス軍団長も、東方に位置するバーフェム副官も、この王城に攻め寄せなかったからである。それぞれ事情は異なっていた。

 先ずは(バ②)、バルナート帝國白虎騎士団ライアスの動向から語ろう。


 龍王暦一〇五一年八月一〇日。バルナート帝國四神兵団の筆頭白虎騎士団の軍団長であるライアスは、ある決意をした。

 ソルトルムンク聖王国王城マルシャース・グールへの進軍をである。

 この八日前の同月二日に、八大龍王第三龍王のシャカラによって、霧の結界が作られ、二日後の同月四日には、ライアスの駐屯している王城南方の地域もその霧によってすっぽりと覆われたのである。

 さらに二日後の同月六日になってライアスはこの霧が自然発生ではないということを悟った。

 諸々の要素を考え合わせたとはいえ、二日間で結論を出すあたり、ライアスという男が凡人ではないということを如実に示している。

 とにかく、この日(八月六日)の正午から一時間毎に、四方に五人ずつ計二十人を偵察に出した。

 偵察する兵に出した命令は、

『とにかく一時間それぞれの方向にまっすぐ歩き、一時間経ったら百八十度向きを変えてここに戻ってくるように……』というものであった。

 これを六日の正午から二日後の八日の正午までの四十八時間。ひたすら一時間毎に二十人ずつ偵察に繰り出したのである。

 四十八時間に二十人ずつ計九百六十人の兵を偵察に投入したことになるが、一人としてライアスの駐屯しているこの場所には戻ってこなかったのである。

 ライアスはその間ずっと一人考え込んでいた。この霧が自然発生でないことは既に確信しているところであるが……。それではこの霧は何であろうか?

 実は八月二日の段階で、ライアスは朱雀騎士団副官のバーフェムの家臣から付帯能力の『天耳・天声』で、朱雀騎士団の軍団長ナンダが敗れたという報告を受けていた。その中でそのナンダを破ったのは、同じ八大龍王のシャカラということも伝えられたのである。

 またその報告の中で、バーフェムは分散している朱雀騎士団を一つにまとめた後、白虎騎士団と合流を果たすために南下するという指示を家臣に出していた。そうこうしているうちに霧に辺りが覆われ、あらゆる通信手段がとれなくなったのである。

 ライアスの頭の中に『シャカラ』という名前が強く刻み込まれた。第三龍王のシャカラ。『昼』を基点として、霧や風を操る龍王。『霧』を操る……。

 ライアスの脳裏で全てが組み合わさった。

“ナンダを破ったのは、シャカラと報告を受けている。ナンダを破るということはシャカラがソルトルムンク聖王国に与しているということになる。そしてこの霧。聖王国はシャカラを先頭に戴き、バルナート帝國の帝都に攻め入るつもりだ。そしてこの霧はその防御の陣!”そこまで考えたライアスは先述したように偵察に兵を投入したのであった。

 そしてその結果この霧が最高の防御陣――ライアスからしてみれば最悪の防御陣――であることが判明した。

 そしてライアスは二日間迷いに迷い、先述したように同日一〇日にソルトルムンク聖王国の王城であるマルシャース・グールへの進軍を決意したのであった。

 ライアス軍の存在意義を考えるに、それは聖王国軍が帝國の帝都ドメルス・ラグーンに北上する時、その牽制として南から聖王国の王城マルシャース・グールを攻撃するために存在している。

 今(八月一〇日)はあらゆる通信手段が役に立たないので確信はできないが、聖王国軍はおそらく全軍をあげて、バルナート帝國の帝都へ進軍しているはずである。そうであれば、牽制としてライアス軍は、マルシャース・グールに攻め入らなければならない。

 つまりライアス軍には他の軍のように、シャカラの『霧の結界』が晴れるまでこの場に待機するというのは選択肢にはないのである。ライアスは至極当然の結論であるが、北上進軍を決意したのである。



〔参考一 用語集〕

(龍王)

 難陀ナンダ龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)

 跋難陀バツナンダ龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営)

 沙伽羅シャカラ龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)

 和修吉ワシュウキツ龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)

 徳叉迦トクシャカ龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)

 阿那婆達多アナバタツタ龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)

 摩那斯マナシ龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)

 優鉢羅ウバツラ龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)


(神名・人名等)

 グラフ(ソルトルムンク聖王国の天時将軍)

 ザッド(ソルトルムンク聖王国の宰相)

 シャカラ(神としての記憶を取り戻したハクビ)

 ジュルリフォン聖王(ソルトルムンク聖王国の聖王)

 ナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ朱雀騎士団の軍団長。故人)

 バーフェム(ナンダ軍団長の副官)

 マクスール(ソルトルムンク聖王国の将軍)

 ライアス(バルナート帝國四神兵団の一つ白虎騎士団の軍団長)

 ラハブ(魔界六将の一人)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅ウバツラの建国した國)

 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯マナシの建国した國。金の産地)


(地名)

 ドメルス・ラグーン(バルナート帝國の帝都であり王城)

 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)


(兵種名)


(付帯能力名)

 天耳・天声スキル(十六の付帯能力の一つ。離れたある一定の個人のみと会話をする能力。今でいう電話をかける感覚に近い)


(竜名)


(その他)

 朱雀騎士団(バルナート帝國四神兵団の一つ。ナンダが軍団長)

 白虎騎士団(バルナート帝國四神兵団の一つ。ライアスが軍団長)

 魔界六将(地下世界の六人の神)



〔参考二 大陸全図〕

挿絵(By みてみん)

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